想定外
美紀視点
よしっ!絶対勝つぞ!
そう私は気合を入れながら待合室に入る。
試合まであと少しだ。
私はふとさっきのお昼のことを思い出す。
神谷君は水野先輩にすごく優しい笑顔を向けてる。
あれは私にはくれない笑顔。
やっぱり、神谷君は……。
って、私何考えてんの!
今は、試合、試合。
集中しなきゃ。
私は頭を試合のことに切り替え、集中力を高めていく。
よし、大丈夫だ。
「只今より、準決勝を行います」
そのアナウンスを聞き、私は闘技場へと出ていく。
私の対戦相手の陣野君も同じタイミングで出てきた。
「準決勝、第一試合 二見美紀 対 陣野隆康」
私はこの呼びかけがかかったとき、また千恵を見つけた。
やっぱり千恵はすぐ見つかる。
あ、神谷君も見てくれてる。
でも水野先輩と楽しそうにしゃべってる……。
絶対勝って振り向かせてやるんだから!
「それでは、準決勝第一試合、開始!」
私は試合開始と同時に得意の風系統能力を発動する。
「テンペスト!」
風系統広範囲能力であるテンペストで嵐を発生させ、陣野君の動きを封じる。
だけど彼もさすがに黙ってはいない。
「強化、スピード」
彼は強化系能力で移動能力を上げて、嵐の中でも素早く移動するようになる。
だけど甘いわ。
直線的な動きが多くなってるよ。
「ストームシールド」
私は風系統補助能力ストームシールドを発動する。
これは普通自分の前に風の壁を作り身を守る能力だが、私はそれを陣野君の進行方向に発生させた。
彼は直線的な動きしかできず、その壁にぶつかりバランスを崩す。
私はその隙を逃さない。
「ウインドプレス!」
風系統能力ウインドプレスで陣野君を押し潰す。
だが彼は咄嗟に、
「強化、メタルボディ」
彼は強化系能力メタルボディで一瞬だけ体を鋼のように硬化させ、風圧に耐えきる。
やるわね。
その後私たちは互いにけん制しあいながら、小技を打ち続けるが互いにダメージはほぼ受けない。
このままじゃ埒があかないわね。
どうしようかしら。
私がどう攻めるか悩んでいたその時、闘技場の扉の方でものすごい音がした。
私と陣野君だけでなく、会場中がそちらに目を向ける。
そこには、扉を破壊してこちらに入ってくる一人の少年の姿があった。
なにあの人、ものすごいヤバい感じがするよ。
私は自分の中の何かが逃げろと言っているのを感じる。
「なんなんだ、お前」
陣野君は少年に向かって叫ぶ。
すると少年は彼に掌を向け、
「ダークアロー」
と冷たい声でつぶやくと、次の瞬間暗黒の矢が陣野君を貫き、彼の体に大きな穴があいた。
「えっ……」
私は倒れていく陣野君を見ながら、そんな気が抜けた声を出していた。
命の火が消えていくのを間近で見ているような感覚と、底知れぬ恐怖に襲われ、私は動くことができない。
少年は冷たい表情のまま次は私に掌を向ける。
ああ、だめだ。私、死ぬのかな。
私は恐怖のあまり、目を強く閉じた。
しかし、気が付くと私は誰かに抱きかかえられ、移動している。。
私は目を開くと、そこには神谷君の顔があった。
神谷君は少年と距離をとると、
「一人で立てるか?」
と優しい声で問いかけてくれる。私は声を出すこともできず、ただ大きくうなずいた。
彼はそんな私を見て、優しくおろししてくれた。
私は気づいたら涙を流していて、それを止めることはできなかった。
神谷君は私の頭を軽くなでると、
「大丈夫、すぐ終わらせて来るから」
と言って私に背中を向けた。
だめっ、いくら神谷君でもあの人はだめ。
すごく嫌な感じがするんだよ。
神谷君が死んじゃったら私は……。
しかし、私はそれを声に出すことができなかった。
そして神谷君はあの少年のもとに向かっていった。
そんな彼の姿を私は遠くから見ているしかなかった。
日影視点
闘技場の扉が破壊されるのを見て、俺は思わず息を呑んだ。
いったい何が起きた。
すると、そこから一人の少年が闘技場に入ってくる。
何者なんだ。
「彼は……うそ、まさか……」
隣で咲先輩が青ざめた顔をしている。
それとほぼ同時に、二見の対戦相手の陣野が声を上げる。
「なんなんだ、お前」
その声を聞いた少年は、陣野に掌を向ける。
……まずい。
俺は一瞬でこの状況がヤバいと判断し、強化系能力で二見の元に移動することを決める。
「強化、瞬歩!」
俺は瞬歩を発動したのと同時に、少年はダークアローで陣野を貫いていた。
くそっ……まずい。
あたりでは悲鳴が上がり、みんなパニックになっている。
このままじゃ二見も危ない。
「日影君!」
俺は咲先輩に呼ばれるのも無視して観客席から一瞬で闘技場まで飛び降り、二見に向かって全力で移動する。
少年は二見に掌を向けて、ダークアローを放った。
俺はそのタイミングにぎりぎりで間に合い、二見を抱き上げてそのまま移動する。
よかった、なんとか間に合った。
俺は少年と距離をとり、二見に声をかける。
「一人で立てるか?」
そう尋ねると、彼女は声は出せないものの、大きくうなずいてみせた。
しかしつらい表情で涙を流している。
俺は二見をおろして、再び彼女を見る。
目の前で人を殺され、自分も殺されかけたのだ。
怖かっただろう。
俺は彼女の頭を軽くなでながら言う。
「大丈夫、すぐ終わらせるから」
俺はそう言って彼女に背を向ける。
そして俺はあの少年もとに向かった。




