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(46)人魚と漁師の昔話

 焚き火を前にして、ミルは村に伝わる昔話を話し出した。


 昔、この村が栄えていた頃、ある一人の漁師がいた。名前をリンドと言った。

 彼は魚をとるのが上手かった。愛想はなかったが、浅黒く引き締まった身体と顔は魅力的で、若い女達に人気があった。村長の娘もリンドに惚れていて、父親に結婚をせがんでいたのだが、リンドはうんと言わなかった。結婚に興味がなかったんだろうな。


 ところが、ある嵐の日。リンドは遭難して無人島に流れ着いた。そこには美しい人魚がいた。二人は恋に落ち、リンドは人魚の娘を村に連れ帰った。とはいえ、陸では暮らせんからな。村の向こうに洞窟があったろう。その奥に娘は住み着いた。そしてリンドはそこに毎日のように通うようになった。


 面白くないのは村の娘達だ。娘達はどうにかして人魚を追い出すことができないかと考えた。煙でいぶしてみたり、入口を石で塞ごうとしたり、まあ、大したことはできないんじゃが、嫌がらせを色々とやった。それでも人魚はその洞窟に住み続けた。お腹に子供ができていたんだな。


 ある時、壊れかけた魔道具を洞窟に投げ込んだ娘がいた。魔道具は魔物を呼び、人魚に襲いかかった。人魚は慌てて海に逃げ出した。魔物が住むようになっては、人魚も洞窟には住めない。その話を聞いたリンドは怒って魔物を退治しようとしたが、逆に魔物に右腕を取られてしまった。


 人魚は彼の為に涙を流すと、それは白く美しい玉となった。その玉には、魔物を遠ざける力があった。


「この玉をお守りがわりに持っていてください。」


 人魚はそれだけ言うと、海の底に帰ってしまった。村の皆は、いつ魔物が襲ってくるかとヒヤヒヤしていたが、その玉のせいか、魔物が村に来ることはなかった。


「……って言う話が伝わってるんですよ。」


「なんで人魚はその玉を自分のために使わなかったんですかね?そしたらリンドが腕を取られることもなかったでしょうに。」


 リーズは首をかしげた。そもそもそれで彼を守るくらいなら、彼を連れて逃げた方がいいのではないだろうか。どこかの無人島で二人で暮らすこともできただろうに。


「使わなかったんじゃなくて、使えなかったんじゃないか?」


 一緒に黙って聞いていたニドがぼそっとつぶやく。


「使えない?」


「人魚は人間じゃない。」


 ニドはもともと寡黙なせいか、必要なところしか話さない。多分自分の考えがそれで伝わると思っている。


 人間じゃないってことは。とリーズは考える。リーズは獣人の一種だと思っていた。でもそれなら問題はない……はずだ。てことは。


「人魚も魔物……?」


 ニドは黙って頷いた。


「え、でもそれじゃ魔物が魔物よけを作れるってことですか?それって何に役に立つんですかね?」


 リーズの混乱に、ミルが助け舟を出す。


「助かるだろう。魔物は魔物を襲う。自分の危機に魔物よけを作って逃げられるようになるじゃないか。毒を持ってる魚と一緒だ。生き抜く為の知恵だろうよ。」


 確かに、そうかもしれない。魔物を見て逃げ出したところを見ても、人魚はあまり強くはないのだろう。そんな魔物よけがあったら便利だろうな、と思いかけて、リーズは気づく。あるじゃないか。


「その、白い玉がまだ村にあるってことですか?だから村には魔物が寄ってこないってことですよね!」


 大発見だ。同じ物を作れるのなら、いや、魔物が嫌がる成分がわかれば、魔物よけを作ることができる。村が襲われることも減るだろう。勢いこんで尋ねたリーズに、ミルは首を振る。


「村に白い玉なんてないな。少なくとも俺は知らん。村長も知らんだろうな。そんな金になりそうな話をほっとくとは思えん。そもそも人魚に嫌がらせをした村の奴らに、リンドが渡すと思うか?」


「……渡しませんね。絶対に。」


 わざわざ助けてやらなきゃならない義理はないだろう。リンドがどこかに隠したか、それとも捨てたのか。人魚を大事に思っていたのだったら、どこかに隠したのが正解か。


「その話のリンドがどうなったか、続きの話はないんですか?」


「さあな。それ以上の昔話は聞いたことがない。海の洞窟の中で魔物を見たって話なら前にあったがな。」


 洞窟の魔物の話は結構知られているらしい。しかしあの洞窟は潮が満ちると海に沈むのではなかったか。


「洞窟見に行きましたけど、海中に沈んでましたよ?」


「ああ、入り口はな。しばらく中に入ると、開けた場所に出るんだ。人魚の話もあるから村の奴は行かないがな。他の町の奴が面白がって入ったんだ。戻ってきた時には顔面蒼白で、腕に怪我をしてた。魔物を見たって言ったきり、なんも喋らず帰っちまった。」


 村長が洞窟についてこなかったのはそのせいか。引き潮の時に一度見に行った方がいいだろうなとリーズは考えながら焚き火を見る。火が少し小さくなってきていた。


「そろそろ寝るか。明日は罠の様子も見に行かなきゃならないからな。」


 レニとニドが先に見張りをしてくれるらしい。魔物は来なくても、獣が来ることもある。リーズは任せて先に眠ることにした。


 帰ったらやることがまた増えた。


 次の日、罠の様子を見に行くと兎と猪がかかっていた。レニとニドが大喜びしていたが、獣の解体は初めてだったようで、少し青くなりながら捌いていた。魚なら上手らしいが、こればっかりは慣れてもらうしかない。


読んでくださりありがとうございます。

次回も週末更新になりそうです。

3人娘の宝探しが始まります。

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