(45)森へ
リーズの目の前には森が広がっていた。どこまであるのかと視線をずらしていくと、木が生い茂っているところが線を引いたように途切れている場所が見える。その先は草原になっているようだ。森の奥に目を凝らすが、向こう側に明るい光はは見えない。
「この森は前はもっと大きかったんだけどな。端から木を切っていったらどんどん小さくなっちまった。木がなくなっても困るから、今は必要な時にしか切らないことにしてるんだ。」
リーズの様子を見て、ミルが声をかけてくる。
「だから森の端がやたらきれいになっているんですね。」
「ああ。木の苗を植えた方がいいのは分かってるんだがな。何しろ俺一人じゃなあ。」
「一緒に来た方はお弟子さんでは?」
積んでいた道具を下ろす二人をリーズは振り返る。一人は茶色の短髪、もう一人は灰色の髪を肩くらいまで伸ばしている。どちらもほっそりとした長身だが、手慣れた様子で重い荷物をおろしている。リーズよりは少し年上だろうか。まだまだ若い。
「ありゃあ、俺の息子とその友達だ。大工にはなりたくないと抜かしやがって、二人で細工物を作ってる。人手が足りない時だけは手伝わせるんだがな。」
自分達の話だとわかったのか、二人はリーズをチラリとみると、少し頭を下げる。森へ来るまでの馬車の中でも、しゃべっているのはミルだけで、二人はだんまりだった。よっぽど来るのが嫌だったのだろうか。
「ひょっとして無理して来てもらったんでしょうか。」
急な仕事をいれてしまったのはリーズだ。自分の仕事場を無理に抜けて来てもらったのだろうか、と心配になったが、ミルはガハハと笑う。
「いやいや。こいつら若い女の子と話す機会がなくってな。何を話していいか分からなくなって固まってるのさ。」
「余計なこと言うなよオヤジ!」
怒ったように口を挟んでくる短髪の男の方が息子のようだ。リーズの視線に気づくと、慌てて目をそらす。
「オヤジのワガママに付き合うのは今までもあることだから大丈夫。ただ、定期的に付き合えって言われると、ちょっと困るだけだ。すぐに大工になれってうるせえし。」
「俺が死んだら村の大工がいなくなっちまうからなあ。代わりは用意しとかんとな。」
「他の弟子でも見つけろよ!」
(伐採スキルを取りたい人がいるかどうか、ギルドに問い合わせてみよう。弟子になるならそれはそれでいいことだし。)
人手不足であることは、間違いないようだ。
森へと入る道はすっかり雑草に覆われており、どこが道だか分かりにくくなっていた。ミル達3人は鎌を手に、雑草を刈りながら迷うそぶりもなくどんどん森の奥へと進む。リーズはその後ろを歩きながら探査スキルを使った。
森のあちこちに散らばる黄色い点。そして少ないながらも赤い点がちらほら。点は小さめだから、それほど危険はなさそうだ。
「この森にはどんな獣がすんでいますか?」
「そうだなあ。鹿や兎はいるな。木が倒れる音に驚いて走る姿は見かけたことがある。」
「狸もいる。岩穴に巣があるのを見たことがある。」
「そういやいたなあ。まあ、俺たちには捕まえられんがな。逃げられるのがオチだ。」
腰が痛くなったのか、ミルが鎌を振る手を休めて、腰を伸ばす。
「罠をしかければ取れるんじゃないですか?」
ロープがあれば簡単な罠なら作ることができる。落とし穴も意外と使える。罠の作り方を簡単にリーズが説明すると、ミルは唸った。
「なるほどなあ。ちょっと試してみるか。レニ、ロープは多めにあるよな?」
レニと呼ばれた息子の方は食いつくような勢いで頷いた。肉が取れることが嬉しいようだ。
「ああ。そんなに簡単に取れるならやってみたい。どうせ今日は泊まりだろ?」
「決まりだな。じゃあ、木を切り終わったら教えてもらえるかい?」
「分かりました。ただ、かからないこともあります。あまり期待しすぎないでくださいね?」
木を切り終わったのは、もう日が暮れる寸前だった。ミルと一緒に茂みや草むらに罠をしかける。獣が通るとロープが足に絡まるだけの簡単な罠だ。最初のいくつかはおぼつかない手つきだったが、すぐに覚えて最後の方は一人で罠をしかけることができていた。
「明日の朝、見に行きましょう。かかるといいですね。」
馬車の近くまで戻って火を囲む。今日はここで野営をして、明日の朝罠の様子を見てから帰ることになっている。木材はもう馬車に積んでしまった。食事は携帯食だから作るものもほとんどないが、簡単なスープをリーズは作って3人に振舞った。ギルド特製のお湯さえあれば作れるスープだ。珍しいのか3人とも喜んで飲んでいた。
「ああ。罠で獣も狩れるなら、森に来る機会を増やしてもよさそうだ。レニとニドもそれならつきあってくれそうだしな。」
「……狩れるなら考えてもいいな。」
スープを飲みながら、二人は頷いている。
「依頼を出してもらえれば、冒険者の派遣もできますよ。伐採の仕方も教えてもらえれば、お手伝いもできますし。」
念の為、営業もかけておく。自分達だけでなんとかできてしまうとギルドの出番がなくなってしまう。
「何でもやってくれるんだなあ、冒険者ってのは。魔物と戦うだけだと思ってたよ。」
ミルはどこからか小さい瓶を出してきて飲んでいる。少し顔が赤くなってきているところを見るとお酒だろうか。
「何でもやりますよ。依頼さえあれば。」
ただ、最近は何でもできるようなスキルを持っている冒険者が少ない。だから戦闘に偏った冒険者ばかりが増えているのだが、それについては黙っておく。
「この辺は元から魔物が少ないから、冒険者なんて見たことなかった。」
レニが突然話に加わってきた。少しは慣れてきたのかもしれない。
「魔物が少ない?何か理由でもあるんですか?」
魔物が増えすぎないようにするのは、冒険者の大事な役目だ。かといって、魔物がいなくなってしまうと、仕事も減る。魔物からとれる材料も貴重なものが多い。それでも魔物の数を調整できるのであれば何かと便利だ。何か方法があるのだろうか。
「本当かどうかわからないが、この辺に伝わる昔話がある。」
読んでいただきありがとうございます。
一日早く更新ができました。この調子で少しづつ更新を前倒し出来たらなあ……。
次は週末に更新予定です。




