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44/122

(44)疑惑

『……できれば薬草に詳しい冒険者の派遣をお願いします。魔物も見当たらないので、多少腕に自信がなくても大丈夫です。よろしくお願いします。』


 魔法石から流れるリーズの声が止まった。シェリルとリッテルは顔を見合わせる。


「どう思います?これ。」


「何か……変だな。」


 リッテルは腕を組む。


 シプランはそもそもギルド候補地ではなかった。海からの産物以外何もないような村で、ギルドの仕事を探すのが難しそうだったからだ。カーセルはその点近くに山があり、上手くいく可能性が高かったが、断られた。その時もおかしいと思ったが、そのカーセルがシプランの村人をわざわざ自分の町で働かせるのはなぜか。


 そして、リーズがちょっとした話として入れてきた釣りの話。


「なぜ魚が釣れるんだ?内海では魚自体がいなくなっているのではなかったのか?」


 リッテルはコツコツと机を叩く。クーラン王国の魔力暴走事件以来、内海では魚がとれない、はずだった。隣国イルーシャにも内海はあるが、そこからも魚が取れるようになったという話は聞いていない。


「クーランからの魔力の影響が衰えてきているのか、それともシプランになにか魔物が近寄れないような何かがあるのか。考えられるのはこの二つですわね。」


 指を折りながら可能性を考えるシェリルを見ながら、リッテルは眼帯の端をかりかりと触る。


「とりあえずイルーシャのギルドに連絡を取って海の様子を 確認してもらおう。イルーシャでも変化があるなら、クーランへの調査を始める好機だ。」


 リッテルの話を聞いてシェリルが頷く。


「シプランの様子も探りましょう。できれば魔力の様子などに詳しい人物が良いですね。」


「ああ。あとは薬草に詳しい人物、だったか。」


 2人の脳裏にはリーズの友人達の姿が浮かんでいた。薬草に詳しい水色ターバンの女性。そして魔力の研究を始めたクーラン王国の生き残り。どちらもそれぞれの課で活躍していると聞く。期限を決めて借りるくらいなら、なんとかなるだろう。ごほんとシェリルが咳払いをする。


「少しリーズに甘いような気もしますが、適任者がこの2人なのですから、仕方ありませんね。」


「そうだな。カーセルの様子も探りたい。これは調査部に依頼を出そう。冒険者だとわからないような奴がいいが。」


 本部の調査部。ここの全容はギルド長であるリッテルでも分からない。時折冒険者が行方不明になるのは、調査部にスカウトされたからだ、という噂は、ギルド職員の酒の席でよく出る話だ。


「新たな販路を獲得したい行商人などが良さそうですわね。とりあえず私は2人に声をかけておきます。」


 シェリルが出ていくと、リッテルはくるりと椅子を回転させ、後ろの壁に貼ってある地図を見る。ランテッソ王国を描いたその地図は、あちこちに点線が描かれていた。領地の境だ。シプランとカーセルは近いが、街道沿いに点線が引かれ、それぞれ別の者の領地であることを示していた。


 冒険者にとってその点線は意味がない。しかし、住んでいる者にとってはどうだろうか。


「きな臭いことにならなきゃいいがな……。」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その晩、ペルーシャの部屋へアイネが訪れていた。


「話はお聞きになりまして?」


 ペルーシャは荷物の整理中なのか、棚にあった薬品を確認しながら箱に詰めている。全て持っていくつもりなのだろうか。


「うん。なるべく早く帰ってこいって言われたけど、どうかな。リーズはどうも面倒事に巻き込まれやすいから。」


「……確かに。私たちもそれに巻き込まれるようになった、というところでしょうか。私も研究の途中だったのですが、どうしても、と言われまして。」


 ペルーシャは支度をしながらアイネをチラリと見る。座るところがないので、ベッドの上に座っているが、言っている言葉ほど嫌がっている感じは見受けられない。むしろ嬉しそうだ。そしてなぜか花の咲いた鉢植えを両手で抱えている。薄い桃色の花だ。


「アイネ、その鉢植えは何なの?」


「これを持っていって、リーズのいる村の魔力がどのくらいなのか測ってくるのが私の役目ですの。」


「へえ。ボクは村の周りの薬草の鑑定が仕事だよ。貴重な薬草があればいいんだけどね。店もないような村らしいから、ついでに薬屋を開店する予定。」


「それでその荷造りなんですのね。いつ頃出発いたしますの?」


 それが多分今日アイネが来た理由なのだろう。ペルーシャはにやっと笑う。


「そうだな。明日の朝?」


「あら、やっぱりそのつもりですの?今日来たのは正解でしたわね。」


 驚く様子もなくアイネはにっこりと笑う。


「それでは今日はこの部屋に泊まらせていただきますわ。そしたら一緒に行けますものね。」


「一緒にって、荷物は?」


 アイネは鉢植え以外の荷物は持っていない。


「もう馬車に積んでありますわ。門が開き次第出かけますわよ。」


 それだけ言うと、アイネは近くの机の上に鉢植えを置くと、ベッドに横になる。


「先に休ませていただきますわ。私、王都から出るのは初めてですの。楽しみですわ。」


「それはボクのベッドなんだけどね。まあいいか。」


 こちらに背を向けて寝たように見えるアイネをそのままに、ペルーシャは支度の続きをはじめる。

 ペルーシャは王都に来るまでにもあちこちを旅したことがある。だからそれほど特別な気持ちにはならないが、アイネは旅に出るのは初めてだ。1人では落ち着かなかったのかもしれない。それをわかってセバスチャンもペルーシャを訪問することを薦めたのか。


「……なるべく静かに支度してくださる?眠れませんわ。」


「わがまま言うなら馬車で待ってよ。」


読んでくださりありがとうございます。

次回も日曜日更新予定です。

なかなかペースが戻せず。

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