表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/119

迷いの山-3 帰還

 朝が来た。ぱっぱと朝ごはんを食べてテントを収納する。


 その様子を他の冒険者たちが見た。


「すごいですね。何かのギフトなんですか?」

 エドワードが聞いてくる。


「そうですね。そんな感じです」

 文香が適当にごまかす。


「私たちもそんな能力があればいろんなところに行けるのにね」

 ニーナが言う。


「確かに便利な力ですよ。いつもお世話になってるんです」



 それぞれの準備が終わり、山の中を歩いていく。


 俺はアンリミテッド・ノートブックスを開いて、昨晩メモした内容を確認する。メモには大きく「インスマスについて聞く」と書かれていた。


「そうそう、アックス同好会のみなさんに聞きたいんですけど、昨日話してたインスマスの事件について詳しく聞かせてもらえませんか?」



「あぁ。そういえばそんな話をしたっけな」


「俺酒に弱くて何話したか覚えてないっすよ」


「俺は覚えてるぞ。確かにその話題は俺が出したものだ」


 各自がそんなことを述べる。


「インスマスの事件の内容は聞いているか?」


「いいえ。詳しくは知りません」


「5カ月ほど前、依頼を受けインスマスに滞在していたボネルフェルトさんとルイーゼさんが行方不明になった。他に依頼を受けた冒険者たちもほとんどの行方がわかってない」


 5か月前は俺と文香は狐狩りの報復を行った頃だ。西大陸と東大陸の間にあるが、嘘松王国よりもかなり北に位置するインスマスの話は伝わりにくい。だからこの話についてはあまり知らない。


 インスマスと聞くと、どうしても深きものどもと何か関係があると勘ぐってしまう。


「この話はその依頼に参加して途中で抜け出した俺の知り合いから聞いたものだ。ある程度の信用は保証できるだろう。彼は元々ゴブリンの痕跡があるという噂から発令された緊急クエストに参加していた。ボネルフェルトさんとルイーゼさんはそれはゴブリンではなく、屍食鬼の仕業であり、真祖が登場したのではないかと思い作戦に参加したらしい。

 何はともあれ、多くの手練れの冒険者が集まり、作戦は開始された。二人の伝説の冒険者の指示のもと、街の見回りをパーティー単位で行った翌日、ボネルフェルトさんの姿が消えたそうだ」


 ボネルフェルト。名前ぐらいは聞いたことがある。有名な吸血鬼狩りで、氷龍の武器を持つと言われている。


「それから、その原因となる敵の居場所がわかったらしい。ルイーゼさんは作戦会議を開いた。そこで怖気づいた冒険者たちは街を去っていった。俺の知り合いもその内の一人だった。だが彼はバビロンに戻る途中、良心が痛んでインスマスに戻ったそうだ。

 既に何日か経っていたこともあって、作戦は既に終わっていた。彼は行方不明になった冒険者を探すためにインスマスに滞在し、一人で探索を行っていた。

 そしてある日の夜、事件が起こった。インスマスの上空を覆った黒い雲から、ヒルの雨が降ってきた」


「ヒルの雨? それはどういう意味で?」


「そのままの意味だ。大量の黒いヒルが降って来たんだ。それらは街の人々に吸い付き、その生き血を吸っては破裂して血しぶきをまき散らしたそうだ」


「にわかに信じがたい話ですが、ひとまず受け入れるとします。それで?」


「ヒルたちは街のほとんどの人間を無差別に襲い、大量の死人が発生した。そのヒルの雨が始まってから数時間後、インスマスが一望できる丘から天に昇る巨大な黒い大蛇のようなものが現れ、光を放ちながら消えたらしい。それ以降、ヒルたちは活動を弱め、溶けて赤黒い血となった」


 不気味な話だ。この話が本当ならば、何かしらの実力者が関わっている可能性が高い。

 アルデバランで見たあの謎の女。あいつの正体もまだ全く掴めていない。何か関係があるのかもしれない。この世界にどれほど強い人間がいるのかということは、はっきりしない。


「ヒルの雨について何か知ってることはありますか?」


「いや、俺たちは知らないかな」


 アックス同好会のメンバーは顔を見合わせた後、そう答えた。


「俺はもしかしたら聞いたことがあるかもしねえ」

 エドワードが言う。


「私も知っているわ。確か、吸血鬼の国が崩壊した時も、ヒルの雨が降ったとか」

 ニーナが言った。


「それだそれ。エリザベス女王が殺された日にヒルの雨が降ったという伝承を西大陸の方で聞いたような気がする」


 吸血鬼か。東大陸ではあまり資料が手に入らない。これはいい情報を得たような気がする。




 ***


 ――西大陸・某所――


「本当に会いに行けるんですね」

 ナターリアが言った。


「レナ達に会うのは久しぶりだな。元気にしてるといいけど」

 リザが言った。


 須磨太郎は黙って歩いている。



 現在、須磨太郎たち3人は、西大陸にある奴隷保護施設の一つに向かっている。

 カインズに他の奴隷の様子を見たいと須磨太郎が懇願したところ、その願いが受け入れられ、あっさりと外出の許可が出された。


 ナターリアとリザはそのことについて喜んだが、しかし、それは即ち須磨太郎たちがどこへ行ったとしてもカインズの手からはもう逃げられないということを意味していた。


 スタミナが尽きることの知らないスケルトンの手押し車に乗り、近くまで移動した後、3人は自分の足で緩やかな丘や草原を超えた。

 西大陸に超巨大な世界樹がある。その世界樹による恩恵は西大陸の半分以上で見られる。世界樹から流れる川は西大陸に豊穣をもたらしている。

 豊かな自然の中を須磨太郎たちは旅した。


 そして遂に、目的地が見えてきた。


 家畜の世話をしていた奴隷の一人が3人の姿を見ると、大きな声を出しながら、みんなに須磨太郎の帰還を知らせた。

 数分も経たないうちに、奴隷たちが須磨太郎の下へ集まってくる。



「須磨太郎様!」

「お元気ですか?」

「どうして戻られたんですか?」

「どこに行ってたんですか?」


 人群れの奥から、この奴隷施設の長であり、須磨太郎から最も信頼を置かれている一人であるレナが出てきた。


「おかえりなさい」


 両手で2人の子供を引き連れている。その2人は須磨太郎の血のつながった子供だ。



 レナに案内されて、宿泊できる大きな家に旅の荷物などを置く。

 ナターリアとリザに小さい子供たちの世話を頼んで、落ち着いた雰囲気でレナと須磨太郎は話をする。


 最初にするのは近況報告だった。ほとんどを自給自足で賄っている保護施設では食料問題が常に話題になった。

 しかし、保護施設の中でも古参である、西大陸のレナの経営する保護施設では、食料問題というのは大したものではなかった。

 普段通り、問題ないという趣旨の説明をレナがし、須磨太郎が納得する。


「俺の方だが、大事なことを言わなくてはいけない」


 普段は帰ってくるたびに、多くの身寄りのない子供や売られた子供を引き連れて、面白おかしい話をしていた須磨太郎だが、今回は違った。

 シリアスな表情をしながら須磨太郎はそう語りだす。


 何者かに奴隷の数人を拉致されたこと、その人物を追っている途中、インスマスでカインズと出会い敗北したこと。今はカインズの支配下にあるということ。

 これらのことを包み隠さず、レナに告白した。レナは多大なショックを受けつつも最後まで口を出さずに話を聞いた。


 そして、話が終わった後に一言。


「許せない」


 といって立ち上がった。それはナターリアとリザに対する怒りの気持ちであることは明らかだった。


「やめてくれ。二人は何も悪くない」


 須磨太郎はそれをなだめる。



「でもっ!」


 レナは泣き出す。自分が心から愛している人が苦しんでいる姿を見て、レナは耐えきることができなかった。

 須磨太郎はそんなレナの肩をそっと抱き寄せる。レナは須磨太郎の肩でひとしきり泣いた後、須磨太郎の顔を見つめる。


「須磨太郎様はどうするのですか?」


 不安げな顔でレナは須磨太郎にそう問う。

 須磨太郎は答えをごまかすために、レナにそっと口づけをした。






次は土曜更新です。週4以上はあげられてるのでこのペースを維持したいです!


ブクマ、評価、感想などいただけると、とても励みになります!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ