第四十四話 過去からの
すみません、訳あって一つ前の話をまるごと書き直しました。
前話読んでくださった方、誠に申し訳ありません。
魔王が地上に降り立った場所。それはすなわち、二つの事を意味する。
一つ目は、ここから一番近い人間の領地まで、二ヶ月半はかかること。
二つ目は、魔王が初めて降り立った場所の為、マイナスの魔力の濃度がかなり濃いことだ。
この情報には、マークも冷や汗を流し、動揺を隠しきれないでいた。
ドレッドも絶望的な状況を前に、只々子供達が泣き叫ぶ光景を眺めることしか出来ない。
見知らぬ地に、両親と離ればなれにつれてこられたあの子供達の半分は、摩擦病で死ぬしかない。
そして、そうと分かっていながら、自分も摩擦病で死ぬ運命にあるんも関わらず、あの中にいる元人間の大人数人はは、必死に子供達を励ましている。
「はは、この世界に運命を司る神がいたとしたら、それは相当悪趣味だな・・・・・・」
力の抜けた声で、ドレッドがそうこぼす。
今度ばかりはもう無理だ。そんな空気が漂っていた中。
「皆・・・・・・大丈夫だよ」
エレナが、声を上げた。
「確かに大変な状況かも知れない。でも、やれるだけの事はやってみようよ!このままじっとしていた方が、きっともっと恐い・・・・・・諦めずに進んでれば、何か奇跡があるかもしれないよ!」
いつにもまして、エレナの真剣な決意。いつもならばその言葉に皆が感化され、少しは希望を見いだす糸口をたぐり寄せていただろう。
だが、今回ばかりは違った。
「貴方はなぜ・・・・・・このような状況でも、そのようなことが言えるのですか」
そう、ドレッドは言った。威厳もなく、只々肩を落して。
中年の、威厳のあるベテランの、精神もかなり高みにある騎士のその姿がどれだけ、どれだけマークやエレナに、絶望的に見えたか。
「もし・・・・・・もしも死ぬ時にね」
エレナは、両手を恐怖で震わせながら、それを抑えるようにユートのペンダントを握りしめ、言った。
「皆が帰る意思を示していれば、少しは希望が持てると思うの・・・・・・それが、どれだけ無謀でも」
エレナは、ユートの最後を看取ったときの事を思い出す。
ただの村娘のエレナに、皆を救って欲しいという無謀な最後の言葉を告げ、眠るように死んでいったユートの表情は、とても穏やかだった。
「どうか・・・・・・生き残って、無事に帰って、って死ぬときに思えた方が、安心して死ねる気がする・・・・・・それにもしかしたら、奇跡があるかも知れないよ。せめてギリギリまでは、前向きでいようよ。悲しまずに、皆がもう一度、家族と会えるように」
その場にいた皆が、気づけば女王に釘付けになって、言葉を聞いていた。
そして皆が、その言葉に心が揺らいだその時。
「私はまだ、諦めてないから!」
エレナが、叫ぶ。心から。
その時。
『エレナ。まだ君たちは、死ぬ時じゃない』
「え・・・・・・?」
ペンダントから、声が響いた。その声は、子供達を覗いたほとんどの人間に聞き覚えたあった。
エレナの頬に、一筋の涙が頬をつたう。
その瞬間、ペンダントからまばゆい光が辺り一面に広がった。
その場にいた全員が、余りの眩しさに思わず目が眩んだ。
『エレナ、ここまで良く頑張ったね』
光が晴れ、エレナの目に写ったのは。
「・・・・・・ユート」
亡き夫、ヤリタ・ユート・ユーシアの姿だった。
だが、その姿は実態ではない。体は半透明で、ユートの姿もペンダントから放たれた光に映し出されていた。
「何で、あいつが」
「・・・・・・ユート、様」
マークとドレッドも、信じがたい光景に目を見開く。
そしてグアルと、元悪魔だった者達は一瞬、畏怖の表情を浮かべる。
「今写し出されている俺の姿は、本物じゃない。この光景は、ラプラスの書を読み、未来を知った俺が、この時の為にペンダントに入れておいたものだ」
エレナは、分かっていた。それでも、もう一度姿を見ることが出来た喜び。そして、それがユート自信ではない現実に、唇を噛みしめる。
「エレナ・・・・・・」
その光景に、マークは顔を伏せた。見ていられなかったからだ。亡くした最愛の夫の悲しみを乗り越え、ここまで歩んできたエレナが見せる、その表情に。
「まず、ここに初めて、小さいながらも人族と魔族の共存がかなったことが、俺はめちゃくちゃ嬉しい」
相変わらず、不思議な言葉遣いで放すユートに、エレナとマークの頬がピクリと上がる。
「だが、時間がない。ペンダントの魔力消費を少しでも抑えるために、端的に君たちに伝える」
「一つ。この勇者の光はあと二ヶ月続く。その間ペンダントを持つエレナから半径100m以内には、プラスの魔力が適量満ちる。元魔人の皆は姿が元に戻ることは無いし、元人間やエレナ達は、摩擦病にかかることもない。
二つ、万が一の時の為に一度だけ、エレナはこのペンダントを介して、勇者の力が擬似的に仕えるようにしてある。だが、魔力の消費量は膨大だ。一度使うだけで、15日は光の続く時間が縮むと言って良い。
三つ、ラプラスの書に示されていた一説を読み、皆の長であるエレナに伝える。
エレナ、来る選択の時、君は誰一人、見捨ててはいけないよ・・・・・・最も、これは僕が言わなくても、エレナならやるだろうけどね」
ニコリと笑みを浮かべるユートの姿に、思わず笑みがこぼれるエレナ。
「そんな・・・・・・まさか本当に、こんな奇跡が」
感嘆の笑みをこぼし、ドレッドは呟いた。
「最後に一つ、ここにいる皆全員に、大きな価値がある。君達一行は、魔族と人族、双方が初めて手を取り合って築き上げた、世界で一番小さな国だ。必ず無事に生き残り、世界を、君たちが率いてくれ。頼む」
亡き槍の勇者の言葉に、かつて敵対していた元魔族達までもが跪き、経緯を露わにする。
「エレナ、僕の望みを、ここに叶えてくれて、ありがとう」
ユートの言葉に、エレナが辺りを見回す。元魔族も、元人間も、皆等しく希望を取り戻している。
「魔人だった人も皆、私達人間と同じだって、ほんの少ししか一緒にいなかったけど、分かった。きっとこれからも、どんな人とだって分かり会える。だから、まだまだだよ。言ったよね、世界中を救ってって。やってみせるよ。そのためにも絶対、皆で生き残ってみせるから」
所詮、過去に魔法で記録した映像に過ぎない。そんな物に、エレナは宣言した。
きっと、自分を鼓舞しようとしていた節もあったのだろう。
そんなエレナの心の動きを感じていたからこそ、マークはより一層、彼女を守る決心が固まった。その時。
「マーク、エレナを・・・・・・頼んだよ」
最後にそう言い残すと、ペンダントから放たれた光は徐々に小さくなっていき、ユートの姿は完全に見えなくなった。
読んでいただきありがとうございます。
エレナ達の物語の前日譚である、槍の勇者達と魔王の戦いを描いた、『俺が魔王で、あいつが勇者』の投稿を開始いたしました。もしご興味があれば、そちらも是非!!




