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第四十話 祭器強奪作戦

 夜になった。ヘイズは鞄からガラス玉が嵌まったリングを出す。

「合図の指輪です。赤く光ったらイフリータを呼び出して、発掘現場を襲撃してください」


「襲撃はいいけど、祭器のある場所はわかっているの」

 祭器は警備が厳重なあのテントだ。


 祭器の形状がわからないのが辛いが、どうにか工夫するしかない。

「何とかやってみます」


 ヘイズは空を飛び、夜の闇に紛れて発掘現場に近付いた。

 オート・マンが警備していた。だが、目を掻い潜るのは、造作もなかった。


 影に化けて近くまで行く。問題の警備が厳重なテントの近くに来た。

 警備の人数は十八人と変わっていない。


 だが、警備の人間に魔術士と思われる人間が三人いた。

 また、他の人間も並の兵士よりできる人間が配備されていた。


 警備が厳重になっている。発掘品した品の中に祭器があるな。

 昨日の十八人なら最悪、皆殺しにして強奪できた。


 だか、今日の十八人は相手にすれば勝てるかもしれないが、祭器は奪えない。

 どうしたものかと思っていると、アーガンが近くを通り掛かった。


 アーガンは酔っているのか、千鳥足で酒瓶を持っていた。

 影に化けたヘイズをアーガンがちらりと見る。


 ヘイズは迷わずアーガンの影に潜り込んだ。

 アーガンは見張りの一団に近付くと、酒を勧める。


「よう、見張りご苦労さん。お偉いさんから、酒の差し入れを持ってきたぞ」

 護衛の一人が受け取ろうとした。だが、別の護衛が止める。


「よせ。仕事中だ。任務に差し支える」

 アーガンは気さくに笑い、顔の横に酒を持ってくる。


「何、固いこと言うなよ。要らないなら、俺が処分しちまうぜ」

 護衛の注意が酒に行った。


 ヘイズはアーガンの影から護衛の影へとそっと移動した。

「いいから、あっち行け」


 護衛がアーガンを追っ払う。アーガンはそのままふらふらとテントを後にした。

 ヘイズは護衛の影がテントと重なるタイミングをじっと待った。


 護衛が軽く体を動かした時にチャンスは来た。

 ヘイズは護衛の影からテントの裾に移動した。


 テントの縁に侵入を防ぐ魔法のトラップがあった。

 だが、ヘイズは魔力でこれを強引に押し上げて、中に侵入した。


 テントの中には遺跡で発掘された品が並んでいた。

 ざっと確認するが高価な物は見当たらない。


 学術的な価値は高いのかもしれん。だが、金目のものはない。

 泥棒袋を取り出して口を空ける。そっと品物を次々と納める。


 だが、泥棒袋の中に収まらない品があった。

 石製の小振りなワンドと、木製のカップだった。


 どちらも泥棒袋に入れようとすると、袋の口と反発して入らない。

 特殊な魔法が掛かっているのか。しょうがない。


 ヘイズは泥棒袋を鞄に入れる。ワンドを右手に持ち、カップを左手に持とうとした。

 激しい痛みがヘイズの体を駆け抜けた。思わず声を出しそうになるのを(こら)える。


 カップを床に置くと痛みは消えた。そっと、ワンドも地面に置く。

 ゆっくりカップに触れる。痛みは起きない。


 もう一方の手でワンドをちょっと触ると痛みが走る。

 一人では両方を持てないのか。これが祭器だとすると、厄介だな。


 どちらか一方しか、手に入れられない。どうする? どちらを持って行く?

 外で人が動く気配がした。まずい、俺の動きが知られたか。


 ヘイズはカップを手に取ると翼を広げた。

 そのまま急上昇してテントごと引き摺って飛び上がった。


 テントは杭で、しっかり固定されていた。

 されど、ヘイズの全力を押さえきれなかった。


 テントがはだけて、ヘイズは宙に飛び上がる。

 下が騒がしくなる。だが、ヘイズはどんどん高度を上げた。


 何かがヘイズを追ってきた。

 相手は三体の風の精霊だった。風の精霊は全長が五mほどで、竜巻の形状をしていた。


 ヘイズは振り切ろうとした。風の精霊は速く、振り切れなかった。

 しかたなく、遺跡から離れた場所での空中戦となった。


 ヘイズは魔力球の魔法を連続魔法で使い、次々と風の精霊に投げつけた。

 魔力球に打たれて風の精霊一体が霧散する。


 風の精霊の鎌鼬が飛んでくる。魔力差からヘイズを傷つけるには至らない。

 ヘイズは魔力球で、もう一体の風の精霊を片付ける。


 楽勝だと思ったところで、風の精霊が体当たりを試みてきた。

 激しい風に巻かれて手にしたカップが落ちる。


 カップを壊しては大変と、ヘイズはカップを急降下で追った。

 風の精霊もカップを手に入れようと追う。


 みるみる地面が迫って来る。ヘイズは光の魔法を唱えた。辺りが明るくなる。

 ヘイズは地面にぶつかるぎりぎりで方向を変え、衝突を回避する。


 カップは風の精霊の手に渡った。

 その瞬間にカップの影へと魔力を使い、ジャンプした。


 カップの影より出現したヘイズは影を槍状に変え、風の精霊を貫く。

 風の精霊は絶命してカップを落としたので、キャッチする。


 ふー、何とか敵の追撃を振り切って、カップを手に入れた。

 ヘイズはそのままフラヴィアの待つ場所まで飛んで行った。


「ただいま帰りました」

 フラヴィアはむすっとした顔でヘイズを迎える。


「合図がなかったようだけど、まさか、逃げ帰ってきたの?」

「いいえ、上手くことが運んだので援護は不用でした。それで、これが祭器の一つです」


 フラヴィアの顔がにわかに曇る。

「ちょっと待って。一つって、どういう意味よ?」


「祭器と思われる物は、二つありました。ですが、わけのわからない制約が掛けられており、二つ同時には持てませんでした。なので、持ち出せた品は一つです」


 フラヴィアが困った顔をして質問する。

「もう一回、行くことは可能なの?」


 ヘイズは無理だと思ったので、首を横に振った。

「不可能でしょう。敵も間抜けではない。二回も同じ手は通用しません」


 フラヴィアの決断は早かった。

「いいわ。シンテイに報告しに行くわ」


 居留地に帰ると、シンテイは居留地を片付け、移動する準備をしていた。

「皆さん、どこかに移動されるのですか?」


 シンテイは厳しい顔で教えてくれた。

「リョウオウの墓が暴かれた以上はここに(こだわ)るのは無意味だ」


 ケンタウロスにとって龍骨ケ原が大事だった理由は祭器が眠っていたからなのか。

「もっと人が来ない場所に移動するのですね?」


「そうだ。それで祭器はどうなった?」


「実は祭器と思わしき物は二つありました。ですが、不思議な力が働いており、両方は持てませんでした。なので、カップだけを持ち帰ってきました」


 シンテイの顔は険しいが妥協した。

「祭器は二つあったのか。両方が人間の手に渡らなかっただけでも、よしとするか」


「それで、祭器が一つだと、悪魔大金貨に換算して何枚の価値があるんでしょうか?」


 ケンタウロス族の戦士が空を見上げて叫ぶ。

「おい、あれを見ろ。何かがこっちにやって来るぞ」

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