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レイラの成長

 『カンプラン』を目指して三日目の夕方、俺達は無事に街へと入った。捕まえた盗賊五人は、宿場町で詰め所に預けたが、実際に報酬に変わるのはもう少し先だろう。

「俺達はガラハドさんに、報告に行ってくるから、先に宿に戻ってて」

 俺はレイラと共に剣道場へと向かった。当初の予定より早かったが、思ったよりは成長もあったんじゃないだろうか。

 剣道場は午後の修行が終わる頃だった。運動場の方へと入っていって、ガラハドを探す。するとガラハドの方から見つけられた。

「何だ、サボって帰ってきたのか」

「ガラハドさん、ただいま戻りました」

 ガラハドは俺よりも、レイラの方をじっくりと見ているようだ。美人だしな……というのは冗談として、やはり色々と悩んでる部分もあったからな。

「とりあえず、やってみるか」

 木刀をレイラへと放り投げた。


 ガラハドが構えるのに対し、レイラも構えるが、その姿は腰が引けたように見える。視線が色々と動くが、じりじりと下がってしまう。端で見てるとダンジョンに向かう前より悪化しているように見えるが、ガラハドは嬉しそうに笑みを浮かべていた。

「よしよし、いい修行を積んだようだ」

「わ、私……」

「儂の偉大さがわかったであろう」

 ガラハドはふんぞり返っている。もしかすると、剣を交えずに圧力を掛けて試したという事か。俺は恐怖心を封じていることもあり、分かりにくい感覚になっている。

「飯は食ってくか?」

「はい」

 レイラが即答したので、俺としても断りにくい。宿の方に連絡を入れに走ることになった。携帯電話の偉大さがわかるな。


 他のメンバーに、夕食をとるように小遣いを渡し、道場へととんぼ返りした。

 ジョンとマックスも歓迎してくれる、特にレイラを。慌てて戻った割に、俺は少し寂しさを味わっていた。

「レイラさん、少し見ない間に、美人に磨きがかかってますね!」

 ジョンは大はしゃぎだ。練習中に体を触ろうと必死だった事はある。レイラは困惑気味に苦笑いしている。

「マモル、俺は感謝してるんだぞ。行き詰まってたのを、解決してくれたからな」

 ガラハドがむさい顔を近づけながら、感謝してくれる。既に息は酒臭い。俺はこの世界にきて、まだ飲酒はしてない。まだ味が良くわからないし、酔っ払いにはいいイメージは無いからだ。

「で、レイラには手を付けたのか?」

 ガラハドが凄みを効かせた目つきで睨んできた。このおっさん、絡み酒か。修行中は飲んでなかったので、わからなかった。

「レイラとは、パーティーの仲間ってだけですよ」

「マモルは私が相手しなくても、一杯いるからね」

 耳聡く聞きつけたレイラが口を挟んだ。男陣の目つきがいっそう険しくなる。ガラハドが肩を掴む力が強くなる。

「なんだと、貴様。レイラを歯牙にもかけんというのか」

 このおっさん、手を出して欲しいのか、許さないと言いたいのか、どっちだ? 酔っ払いに理屈はないか。

「僕はマモルさんなら、仕方ないかと我慢してたのにっ」

 静かにしていたマックスまでが、俺に絡んできた。面倒くさい連中だな。

「レイラは間違いなく美人で、いい女だよ。俺が相手にされてないだけだからな」

「そうだろう、そうだろう。強いだけで振り向いてもらえたら、おれも苦労はしなかった」

 おっさんはしみじみとした台詞を吐く。レイラを本当に大事には思っているんだろう。いなくなって寂しかったのが伝わってくる。

 なんだかんだで盛り上がって夕食を終えて、宿に戻ることにする。

「レイラは残ってもいいんだぞ?」

「これ以上は、面倒だよ」

 レイラも少し疲れたようだった。


 宿に戻る帰り道、レイラに誘われて酒場に入ることになった。カウンターバーの少し大人な雰囲気がある。

「こんな店、よく来てたのか?」

「そんな訳ないわよ。ちょっと人に聞いて知ってただけ」

 少し暗い照明で落ち着いた雰囲気。カウンターにいるバーテンダーが壁に溶け込むように立っている。

「俺、酒とか分からないんだが」

「意外ね、口説きには必須スキルかと思ったのに」

 レイラの中で、俺は女たらしって事になってるんだろうな。正直、美少女に囲まれている現状は、自分でも意外な状況なのだが。

 レイラが注文してバーテンダーが用意したカクテルを手に、軽い乾杯。口に含んでみると、柑橘系で飲みやすい。お酒という感じはしないものだな。

「油断するとすぐに酔っちゃうから、注意しなさいよ」


 レイラも少し飲んで、ほんのりと頬が染まっている。

「セラドさんやフェネさんは、マモルの事を好きなのは分かるのよ。エイレスも危ない所を助けられて、嫌いじゃないのが伝わってくる」

 独り言のように呟く。

「私はどうなんだろうって思うのね」

「それを俺に聞かれてもなぁ」

「人を好きってどういう事なの?」

「どうって、一緒に居て嬉しいとか、落ち着くとか……」

 セラドに色々とぶちまけられて、その想いもろとも愛しいと思えたんだよな。フェネに関しては一目惚れだったし、まずは容姿からだった。今はその性格面も一緒にいて楽しい……最近、怖い事もあるけど、それも相手の好意は分かるしなぁ。

「私もマモルと一緒にいるのは楽しいのよ。ガラハドさんやジョン達とは少し違う感じではあるんだけど……」

 レイラが飲むペースが上がっている気もする。考えようという時に、酒は駄目だと思うんだけど。

「最初に組み伏された時は、ドキドキしたけど、あれって身の危険からなのかしら?」

「だから俺に聞かれてもな……」

 既に酔っ払いか、絡み酒なのか?

「ねぇ、私を口説いて見てよ」

 改めて言われてもな、レイラは美人だと思うし、鍛えられた体はプロポーションもいい。自分を見つめる事には真摯だし、急に見せた弱気の面はギャップに萌えた部分がないとは言えない。

 俺としても仲良くなりたいのは確かなのだ。


 こちらを見つめるレイラの頬に、手を添える。

「酔ってるんだろ?」

 こちらを見つめる瞳が熱っぽいのは、酒の為とも思うが色気はあるな。少し不満げに尖らせた唇は柔らかそうで、吸い付きたくなる。

 親指で目元をなぞっても、こちらから視線は離さない。柔らかな頬の手触りもいいものだ。

「いつもの鋭い目つきもいいけど、今のとろんとした柔らかい目つきの方が色気があるな」

「何よそれ」

 吹き出すように笑われた。口説くとか、無理なんだって。

「俺はさ、レイラと一緒に戦えるだけで嬉しいからさ。特に女として欲しいとかは別なんだよ」

「何よ、結局私は男っぽくて、魅力なんてないんでしょ?」

「いやレイラは十分魅力的だよ。街を歩いてても視線は感じるだろ」

「それは女なのに武装して歩いてるのが生意気とかでしょ。結局、騎士とかも男がなるものだって、弟できたらポイだもの」

 それがコンプレックスなんだろうな。男勝りに認められたいのと、女として可愛くみられたいのと。根本にあるのは、家族からの手の平返し。自分には価値があるかを確かめたい。その狭間で垣間見える弱さもまた、レイラの魅力なんだよな。


「!?」

 色々悩んでるうちに、俺の体は勝手にレイラの唇を奪っていた。唇を重ねるだけの軽いモノだが、少し長めに触れ続ける。見開かれた瞳を見つめながら、頬から耳を撫でてやる。

「んんっ」

 レイラの方から軽く唇を挟むように、求めてきた。俺からも少し強めに口付ける。しばらくその感触を楽しんで、両手で頭を挟んで見つめ合う。

「お前は強いし、可愛いし、俺に必要な存在だ。一緒にいてくれて嬉しいよ」

「あ、はぅ……」

 潤んだ瞳で見つめられると、すごく愛おしく感じるな。わななく唇が、不安か不満か言葉を発したそうで紡げてない。

 もう一度口付けて、今度は舌先で唇を割って、口内へと侵入させる。レイラは逃げずに俺を受け入れてくれる。

「んんっふぅん、んんっ」

 慣れない舌先が、レイラからも伸ばされて、絡め合う。



「うう、ずるい。口説いてないじゃない」

 顔を真っ赤にしながら、文句を言ってくる。

「俺は口で騙すタイプじゃないからなぁ」

「そうね、最初も押し倒してからだったし」

 人聞きの悪い言い方だな。まあ、レイラが楽しそうに言ってるからいいのか。

「でも私もうじうじ悩むタイプじゃないのね。唇一つで、何かわかったというか、吹っ切れたわ」

 そういって俺に抱きついてきた。正面から胸に顔を埋めるように抱きしめられる。

「私も貴方と一緒にいれて嬉しいわ。これからもよろしくね……」

 語尾が急に小さくなったなと思うと、もう寝息をたてていた。酔っ払いか。

 生暖かく見守ってくれていたバーテンダーに代金を払って、レイラを抱え上げて店を後にする。

 宿では俺の姿を見るなり、据わった半眼になったセラドと、柔らかな笑みを浮かべたフェネに迎えられた。

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