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フェネの不調と帰還

 ダンジョンは14階層に到達。斧と盾で武装した亜人デミヒューマン、オークが相手だった。豚鼻に厚みのある肉体は、威圧感がなかなかにある。

「くっ」

 盾で防御を固めている為に、魔剣の刃が容易には届かない。斧の一撃は重く、手甲で受け止めようとすると潰される。相手をいなし、隙をつく戦いが求められる。

 レイラも盾を駆使して、相手を何とか足止めしている。ただ、今はフェネやエイレスという後方火力ができたので、やられさえしなければ撃破する事ができるようになっていた。


 複数の敵をレイラと二人で足止め、フェネとエイレスがダメージを募らせる。受けたダメージは、セラドが回復してくれて、パーティーとしての戦いが充足しているのを感じられた。

 ボスのオークリーダーは、幅広の蛮刀を手に、長いリーチで攻撃してくる。ミスリルの手甲でその軌道を逸らし、確実な打撃で相手を削る。周囲のオークは、レイラ達に任せて、俺はリーダーを釘付けに。

 エイレスの風とフェネの火が、オークの群れをなぎ払い、レイラがそれらを仕留めていく。

 俺は一人、怒りをぶつけてくるリーダーに集中でき、肉厚の体を切り刻んだ。


「さすがに楽勝とはいかなくなったか」

「今までが楽すぎただけかもしれぬが」

 ダンジョンの階層は、だいたいレベルと同じくらいが適正とされる。俺はLv12になっているが、14階層は二つ上、他のメンバーは10ほどなので、レベルオーバー気味だろう。

「この辺でレベルを上げるか、一度切り替えるか……」

 フェネの様子も気になるところではある。ファイナに相談したいような、どうしたものか。

「焦る必要もあるまい。じっくりと腰を据えるのも良かろう」


 俺達は15階層を解放してから、14階に戻りオークを狩っていく。ドロップ品は貨幣で銅貨が貯まっていく。

 レイラがLv10に、俺が13、エイレス、フェネ、セラドが11にレベルアップできたところで、今日の探索は終えることにした。

 帰りにエイレスに櫛を買ってやる。そういえば、レイラにも買ってなかったなと、選ばせるとブラシを買っていた。セラドに髪の手入れを習うといいとアドバイスしつつ、宿へと戻る。



 『蛇の湖畔亭』に戻ると、思わぬ人達が待っていた。

「バイスさんに、ファイナさん。どうしたんてすか?」

「そろそろ旅に出ようと思ってね。挨拶しておこうかと。フェネには伝えてあったんだけどね」

「もう大丈夫なんですか?」

 子供をあやすファイナは、健康そうに見える。

「もうね、ずっと動けなかったから、うずうずしてたのよね」

 ファイナは笑って答えてくれた。そこで頭をよぎる事があった。

「あの、バイスさん。少しいいですか?」

「ん? 何かな」

 姪っ子の相手を始めたフェネから少し離れて、バイスに話を聞くことにした。


「なるほど、急に不安を見せたのか」

「何か今までと違って、すごく怯えたというか、不安定というか、気になる感じだったので」

「マモルくんには、思い当たることがありそうだけど」

「バイスさん達に会って気づいたんですが、その、旅に飢えてるのかなって」

 バイスは少し思案する表情になった。フェネを遠目に見ながら、一つ頷く。

「僕たちは旅する一族だからね。もしかしたら、そういう面もあるかもしれない。僕はファイナに合わせてるから、そこまで不安になった事はないんだけど、自由を失うと考えると怖いしね」

 フェネは嫉妬エンヴィのせいで、心の自由すら奪われた。もしかすると、その反動は大きいのかも知れない。

「そこまで気づいてるなら、後は本人に確認するしか無いんじゃないかな」

「そうですね、ありがとうございます」



 夜になり、セラドにはレイラ達に髪の手入れを教えさせるという口実で、フェネと二人きりにしてもらった。

「フェネ、正直なところを聞かせて欲しいんだけど、旅をしたくなってるよね?」

「そんな事はありません。私はマモルの側がいいです」

 きっぱりと言い切る。そこに感情の揺らぎは感じられない。俺が気にしすぎたのか?

 しかし、その時、つつーっとフェネの瞳から涙がこぼれていた。

「あ、あれ、ちょっと目にゴミが……」

 そう言い繕おうとするフェネを抱き寄せて、頭を撫でてやる。

「フェネ、無理をしないでくれ。俺はフェネに側に居て欲しいけど、それ以上に壊れて欲しくないんだ」

「わた、私は、側を、離れたく、無いです……」

「どちらかを諦める必要もない。俺が旅に付きあえば問題ないんだろう?」

「でもマモルには、やらなきゃ、いけないことが……」

「俺の明確な目的なんて無いんだよ。この世界で俺は異邦人、元々居場所はないんだ。どこに行ってもそれは変わらない」

「だからこそ、得られた知己を大事にしないと……」

「フェネ以上に大事な人は……いないよ」

「少し考えましたよね、セラドさんの事」

 そういいながらも、フェネの顔には笑顔が浮かんだ。

「ああ考えた。でも彼女も元々外の世界を知りたいと飛び出してきたんだ、旅に反対するはずはないよ」

「羨ましいです。すぐに理解されてる彼女が」

「だったら、フェネも自分わぶつけてくれ。頑張って受け止めるから」

「すいません、私のワガママで」

「フェネって、もっと自由かと思ってたら、遠慮が多いよね。変に我慢するより、ありのままのフェネが知りたいよ」

「わかりました。姉さんに聞いて試せなかった事も、色々やっていきますね」

 嗜虐の笑みを浮かべたフェネが、俺を押し倒してきた。攻めに回ったフェネに、色々と開発されそうになりました。フェネはやっぱりSのようです。お嫁に行けなくなるかと思いました。



 色々とすっきりさせた翌朝、今後の方針の変更について、パーティーの面々に報告した。

「ダンジョンはこの辺で切り上げて、色々と世界を回って行こうと思うんだが、どうかな?」

「ワシは元々世界を見るために冒険者になったからな」

 セラドは予想通りの答えを返してくれた。フェネの事情も朧気には理解してくれてそうだ。

「私は買われた身なので、どこへでもお連れください」

 ボードにさらさらと書き記す言葉は、どこまで本気かが分かりにくい。反対でないなら、深く追求しなくていいか。

「私も戦いの幅を広げるのが目的だからな、色々なところでその地の戦い方を知れるのは願うところだ……まだ約束も果たしてもらってないしな」

 ぼそぼそと何かを付け加えたが、俺には聞こえなかった。何にせよ、問題は無さそうだ。

「それじゃ、まずは『カンプラン』の街に戻って、ガラハドさんに報告に行くよ」

「ラミアに断りを入れにいくのであろう?」

「う、まあ、それもある……」

 セラドには、俺の考えは筒抜けのようだ。これから遠距離を旅するとなると、月に一回の吸血の約束は守れなくなる。それなりのけじめは必要だろう。



 朝食の席には、バイス夫妻も一緒になった。俺の隣に近づいてきたファイナは、笑顔で話しかけてきた。

「改めてフェネの事、お願いしますね」

 昨夜の事は既に伝わっているらしい。いつでも相談できる姉の存在は、フェネにとっていいことなんだろう。

「まだまだ教えて無いこともあるから、楽しみにしててね」

 その笑みは昨夜のフェネと重なって、身震いしてしまう。バイスとはいったいどんな夜を過ごしているんだ……。

 バイス夫妻は俺達とは逆方向に旅立つことになっている。宿の前で別れの挨拶をして、思ったよりもあっさりと旅立っていった。

 旅慣れた狐人とは、そういうものなのかも知れない。

 俺達もある程度の準備を済ませると、『ベラド』の街を後にした。



 『カンプラン』への道中も特にこれといった事もない。ただフェネの表情が明るくなっていて、嬉しいくらいか。

 などと思っていた時期が俺にもありました。

「見つけたぜ、貴様!」

 二日目の昼過ぎ、突然の声が中りに響いた。特に聞き覚えも無い声で、俺は無視して進もうかと思ったら、セラドが気づいた。

「あれじゃな、行きに倒した盗賊の生き残り」

「ああ、そんな事もあったか……」

 忘れる程度の思い出だった。

「先生、お願いします」

「どーれ」

 その声と共に現れたのは、2mはあるかという大男。素肌に革鎧という出で立ちで、肌にはいくつもの刀傷が残り、歴戦を思わせる。ただガラハドに比べると迫力はない。その背後には、小綺麗な革鎧の男が腕を組んで控えている。そちらの方が手練れか?

「大男が10で、後ろのが12だな」

「レイラ、大男とやってみるか?」

「任されよう」

 ちょっと嬉しそうなのは、レイラも戦闘狂の一面があるからか。あっちの男は俺がやるとして……。

「ここから死角になる位置に三人ほど隠れておるな。レベルは5前後、大したことはないがします」

 そんな事もわかるのか、《鑑定眼》。しかし、生き残りが出るとまた絡まれるのかと思うと、一気に倒したいが。

「私が眠りの風を使います」

 エイレスのメッセージボードをフェネが呼んでくれた。そういう魔法もあるのか、便利だな。

「死角でも大丈夫なのか?」

 エイレスはコクリと頷いた。なら基本方針は固まる。レイラが大男とタイマンはるうちに、一気に動いてしまおう。


「女、怪我する前に降参しな。そしたら、可愛がってやるからよぅ」

 いかにもな台詞と共に、下卑な笑みを浮かべている。レイラも目を引く美女だ、男達にはいい獲物に見えるのだろう。

 大男は両手持ちの大剣を肩に乗せている。刃渡りは1mを越えていて、威圧感がある。レイラは盾を手に、近づいていった。

 レイラ自身がそうだったが、レベルがそのまま強さではない。技術によっては、それはひっくり返るだろう。ただ大男からは、そこまでの迫力を感じない。

 大男の大剣が、レイラの盾を叩く。大きくよろめき後ろに下がるが、その体幹にブレはない。男は力でビビらせようと思ったのかも知れないが、レイラには通じないだろう。

 俺は心配ないなと判断して、丘の上にいる前回逃がした男へと向かった。

「貴様、先生を女に任して、俺なら倒せると思ったか! 甘いわっ」

 男の左右の茂みから、複数の影が飛だし、その場で倒れ込んだ。エイレスの《無声魔法》は、彼女のハンデを打ち消す以上に、相手にタイミングをはからせない効果が大きい。男達は、自分が何故急に眠ったかわかってないだろう。

 ただ一人残った男だけが、俺を冷めた目で見つめていた。


「自らを囮に魔法を撃たせたか。美女揃いのパーティーに、その腰の剣。それを持つに相応しい男と言うわけか」

 ああ、こいつは強いな。レベル以上の奴だろう。落ち着いた物腰は、全てを見通して構えている証拠だ。

「君、俺の配下にならないか。もちろん、君の美女達にも、腰の魔剣にも手は出さない。ただ君の力が欲しい」

「それで何をするつもりだ?」

「奪うんだ。この世界でふんぞり返って偉ぶってる連中から、根こそぎさ」

 その笑顔からは、狂気を感じる。ただただ奪う事を楽しめる、そんな顔に見えた。

「残念だが、俺は自由に生きる事にしている。誰かの下につく気はないな」

「そうか……まあ、そうだろうね。俺と似たものを感じるから。仕方ない、今日は引き上げるよ。またどこかで会いそうだけどさ」

 そういって踵を返すと、無防備な背中を晒しながら歩いていく。今ここで殺しておきたい衝動とそれをさせない雰囲気とが、俺の動きを封じていた。

 結局、その姿が見えなくなるまで、見送るしかできなかった。


 レイラは大男の間合いの広さに手こずっていたが、大きな傷を負うことなく戦意を奪っていた。

 俺はエイレスに眠らされた男達にも一太刀ずつ入れて、意志を奪うと拘束していった。

あるじよ、さっきのは魔剣の持ち主かもしれぬ』

「やっぱりか。何か似て非なる雰囲気を感じた。強欲グリードか」

『互いに抜いておらぬから、確かな事は言えぬがな』

 正直、やりたくないと感じた。嫉妬エンヴィの使い手もそうだろうか。魔剣同士は絡まない方が良いのか?

強欲グリードは、相手の心や能力を奪い、自分の物にする。強力な分、制約は多いはずだが、詳しくは知らん』

「そうか」

 盗賊達は宿場町の詰め所に預けたが、強欲グリードの事は心に引っかかったままだった。

フェネ一人を離脱させる事も考えましたが、みんなで旅をするルートへ。

腰を据えたダンジョン話は前作でやりましたしね。


次からはまた新章になる予定です。

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