55
「おやおや、お揃いで……」
そう下卑た声を浴びせられたのだ。振り返ると、なんたることか――
あの、DQN三兄弟だった。
なんという――偶然! ワープそしてドール、そろって片手で顔を覆う。
トリオ、いやらしい目つきを、ドール、そして今は過分にリューシィに向けている。リューシィ、険しい表情で、守るように胸前で腕を組んだ。
「……」
ワープ、ため息だ。
なんたって、場所が悪い。
ここはどん詰まり。逃げ道は三人組が塞いでるのだ。加えて――
嗚呼、ここは、第二展望台! そんなに賑わってない、観光スポットなんである。
本当のことだよ。逆に、何でコイツらがここにいるんだと不思議に思うほど、人気がない。
こんななら、さっさとゴールしとけばよかった。
後悔は先に立たずで、今はとにかくワープが一歩前。代表に立つのだった。
「なんのご用で……」
金頭のいちにいさんが、シシッ、と笑った。
「あれから調べたんだ。おい“弟”くん。さっきは見事に騙されたワ。誰よお前? コケにしてくれよってからに。どうオトシマエつけてくれんねん?」
「弱者の知恵というものですよ。兄さんがたにおかれては度量よく、放っといてもらえたら、永久に褒め称えさせてもらうんですがね……」
「いいよ」
「え……?」
「ボヤ顔。お前は放ってやるからオンナおいてどこへでも行けよ今すぐ」
三人、遊歩道への道を開けてニヤニヤ顔――
さすが本土のヤクザは手に余る。顔をしかめるワープだった。
それでも頑張るワープだ。
「警察ざたにしますよ?」
だが今回は一筋縄ではいかなかった。
「それこそ、仁義に悖る行為ってやつじゃねえんかい」
逆襲してくる。
「どういうことで……」
ここで、さすが兄弟。トリオが息もそろって、パムホをかざしたのだった。その瞬間、内心で舌打ちしたワープだ。これはマズイ――
「俺たちゃ、このとおり、“プレイヤー”ってヤツさ。そして“お前ら”もな! プレイヤー同士なら、欺し欺されは当たり前。多少の荒事ですら、許容される。それがゲーマーの鉄の不文律、暗黙の了解ごとってやつだ。その一番の事例を、ボヤ顔、てめえが披露してくれたんだぜ。おめえに文句は言わせねえからな!」
とっさにワープ、
「それは、プレイヤー同士、の場合ですよね……」
最低でもリューシィは、一般地元民として逃すハラだった。ドールと二人なら、何とかなる。だが――
キュルッ、キュルッ、キュルッ――
こんなときに、これだった!
リューシィのパムホだった。“システム”、まじ、容赦ない!
努めて平静な表情を装いながら「いいから、対応してください……」そう口にするしかないワープだった。
硬い顔で画面を確認するリューシィ。一言、「声紋……」と呟いた後、こう発声したのだ。
「『ハロー旅人』……」
パムホが鳴ったのだった。
ピコ~~ン……。
認証成功。
とたん、トリオが爆笑したのだった。あとはもう――!
ワープ、迎え撃つも多対一、実力行使に出た三人を止められず、簡単に蹴飛ばされ――転がされる――
「まずは順番!」嗜虐に上ずる声――
ドールが虜にされ、引きずられてしまう。
「おやめなさい!」
顔を怒りで真っ赤にしたリューシィが猛烈抗議するも、
「何かやれるんならやってみろよ。もうアンタ一族はお仕舞いなんだよ。オワコン! 今更なにしたって遅いんだヨ。分かるか? あははあ! カネのねぇヤツぁ惨めだよなぁ? こいつの次にたっぷり慰めてやるからそこでオナってろ!」
言うやいなや、隠し持っていたレーザーシザーのスティックをシャツの奥襟、そしてデニムパンツのサイドに差し込み、抵抗する間も与えず一気に切り裂いてしまう。まさに一瞬の出来事だった。哀れ、綺麗なドール、素裸にされてしまった――
まず、ワープが不本意ながらも強制認識させられたことには――
ドールはきっちり男の子だったということだ。
「ああん……?」「なんだお前?」
「野郎だったんかよ……」
そのドール、目がまん丸。言葉を失い、次の瞬間意識を取り戻し、真っ赤になって胸を隠した。
だが、不審に思った兄弟に力尽くで体を開かされてしまう。そこには――
体が思春期なのだろう、男女ホルモンの分泌のバランスが崩れたか、豆のように、わずかにとがったバストトップがあったのだった。いや、たいしたことはないと思うのだが――
本人にとっては、けっして軽くないコンプレックスであったに違いない。ドールの目ににじむものを、初めて見させられてしまう。
頭が沸騰した――
「なんだつまんねぇ。じゃあ、お待た~~♪ お姉さんに相手してもらおっかナ~~」
頭が沸騰して――暗くなった!




