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挿絵(By みてみん)

黒線が二人の実走ログ。(実際は表示されない)


 近石の橋を渡り、町道に移ったところでワープは跳んだ。


 きゅんっ。


 そして近石川に沿って少し進んだところに――それがあったのだった。

 トンネルである。


挿絵(By みてみん)


 現世には存在しない、トンネルである。


 西郷地区と五箇(ごか)地区の境、時張山(ときはりさん)の山塊を一直線に掘り抜いた、長いトンネルだった。


「……ここは、別世界なんだね……」

 青ざめた顔で、感慨深げに声に出すドール。


 変わらない風景。


 だけど、確実に違う世界――!


 隠岐島の、無限の可能性の中の、一つの世界。


 暑いさなか、ブルッと震える。自分の肩を抱く彼だった。


 スクーターを降りて、しゃがみ込み、上を見上げるようにトンネルの写真を撮っていたワープが、振り向いて驚いたように声をかけた。

「青ざめているけど、平気かい……?」

「大丈夫。それはいいとして、なんでそんな画像撮ってるのさ? 現世にない光景だから、“システム”は評価しないぞ多分。逆に、フェイクだと判断されてペナルティ喰らうかもしれない」

「これは個人的な趣味で、旅ゲー用に申請するつもりはないから安心してくれていいよ……」

「ふうん……?」

 興味をかき立てられて、催促して画像を見せてもらったが、変哲もない、ただのトンネルの写真だ。

「――聞いてやるから、語ってみろよ?」

 半分以上ハッタリであったのだが、それを受けてマジでワープが語り出し、これには驚くドールなのであった。


「“天地人”という言葉を知ってるかな……?

 辞書によると、『世界を構成する三つの要素』『宇宙間に存在する万物』と説明されてるんだけど、その三要素を一枚に取り込むのがぼくの流儀なんだ。写真一枚が、一つの宇宙なんだよ……。

 だから、トンネルをテーマに写真を撮れば、ご覧の通りのモノになるんだ。

 必ず、“空”を、どんな小さな切れ端でも構わない。必ず“空”を、構図に取り入れるようにしてるのさ……」

 びっくりして言葉もないドールだった!

 ワープ、語る語る。(笑)


「“天”たる“空”は理想なんだよ。何物にも縛られず、どの方向にでも自由に行く事ができるんだ」


「そして“地”たる“山”が、現実なんだ。現実は厳しいよね。一つどころか、どの方向にも、行けやしない……」


「そこで“道”なのさ!“道”こそが“人”の希望なんだ! 強い意志なのさ! ついには“トンネル”をうがち、たった一方向と言えども、向こう側との交流を可能にした……!!!」


「ああ――

 トンネルがなかった昔は、どんなに不便だったことだろう。

 トンネルができて、どれほど人に幸せが訪れたことだろう。

 トンネルのそのありがたさ、尊さを表現する一枚――!」


「これが、ぼくの考えるトンネル画像の撮り方なんだ……」


「お、おう……」

 そう発するしかない、ドールなのであった。


「でもね――」ワープ、語る語る。(笑)


「自分でも思う。

 そうやって撮った写真はね。

 理屈なの……。

 いっぱしにトンネルの説明はできている、んじゃないかなぁ、と思う。でも――」


「理屈、分かんない人にとっては、正直、“つまらない”写真だよね……?」


「そゆわけで――

 ぼくの課題は、テーマ“トンネル”で、普通の、一般の方々を、何でもいい、何かしら――感動させる一枚を、心動かす一枚を!

 そんな一枚を、撮ることが、目標なんだ……!」


「お、おう……」

 そう発するしかないドールなのであった!

「すごいトンネル愛だね……。コホンッ。そろそろ、行かない……?」

 なんとまぁ、つい遠慮がちな小声になってしまう彼だった。


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