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というわけで、トンネルの中を走ってる二人だ!
「トンネルは、こちらからあちらへ、跳躍する空間だから好きなんだ……」
まだ語ってるワープである。
対して、冷えた空気のおかげで、冷静さを取り戻したドール、
「よくよく考えれば……」と話を元にもどすのだ。「別世界なんだから、普通に国道走ってもよかったんじゃ……?」
この至極まっとうな指摘にワープ、一つうなずいて、
「うん……。ぼくの能力を体験してもらいたかったんで、こうしたんだ……」
と順当に答えた。
ドール、周囲に目をやって訊く。
「もし、行く先の世界が土の中だったらどうなるのさ? 今、現世に戻ったら、危険じゃないのか?」
ワープ、答える。
「危険な場合、初めから行けない。能力は発動しない……。
まず……そもそも。基本的に、WTは出現場所に多少の融通は利くんだ。出発位置からそんなに離れてない条件でなら、希望の場所に出現できる……。
ただし、こんな大規模じゃ融通の範囲を超える。その場合は初めから能力は発動しない……。その時は行ける場所に移動してから、つまり行き先が土のない場所の、この世界の場所に移動してから、行くようにしなきゃなんない……」
「ちょっと手間だな」
「慣れたらそうでもないよ……」
「ま――ともあれ、トンネルは一本道だからな。さすがにキミも、迷ったりはしないだろ」
毎度のからかいに、一瞬の間。やがて、
「きみは、いい人だねぇ……ワルクチの語彙がすくない」と返すワープだった。
その言葉の深みに、はっとするドール。
ワープ、吐露した。
「さっき、『多数の世界にまたがって、その自分の意識を、共用している』と言ったけど、これがなかなか難儀なんだ……」
他人にはしゃべったことないことだけど、とワープ、話を続ける。
「街角を曲がるたびに、砂漠が広がってたり、ジャングルの真っ只中だったり……。
まともに、道を歩けない。
これが、ぼくが万年ルーキーのランクである、最大の理由なんだ……。
このせいで、小さかったころは、“いろいろと”泣かされたよ……」
一呼吸おいて続けた。
「――で、ぼくはどうなったと思う?
おかげで、友達は大事にしなきゃならないことを学んだのさ、あはは……」
思わず背に張り付くのだった。
「寒いかい……?」
「ちょっと」
「もう少しの辛抱だよ……」
「――聞くか?」
「どうぞ……」
「実は、さっきは言わなかった、てゆうか、誰にもしゃべったことがない、ボクの特殊能力が、もう一個あるんだ。いや、特殊能力という表現はふさわしくない。そうだね、“呪い”が適当かもしれない。
ボクにも“呪い”がかけられてあったのさ――」
さぁどうしてくれる、ハハッ、と、こんどはドールが語るのだった。
「ボクはね、長いトンネルをくぐると、“体質”が今のαから別のβに変わってしまうんだ……」
「なんでだろ? トンネルは、こちらの地点からあちらの地点へ移動可能にした、そしてどちらの地点にも属しない不思議空間だからかもしれない。だから、そこを進むということは、ボクにとっては変化のスイッチになるのかもしれない」
「体質が変わると何が大変か、わかるかい?
本人認証に失敗するんだ」
「日本は……どこに行くにしろ、必ずと言っていいほど、トンネルがあるよね」
「これが、ボクが万年ルーキーのランクである、もう一つの理由さ」
慌てぎみにワープが口を挟んだ。
「ぼくはトンネルが好きだからこの世界を選んだのだけど、先に言ってくれれば、真っ直ぐな峠道のある世界を選んだのに……」
ドール、答える。
「まぁ、キミに知ってもらいたかった気持ちがあったからね、アハハ」
その声の調子に、落ち着きを取り戻したワープだった。
軽い口調で、
「具体的に、どんなふうに変化するんだい……?
まさか、いまのイケメンから、ブサメンになってしまうとか(笑)」
ここは悪戯好きなドールである。
「キミも覚悟しといてくれ。そのうえで、今後のことを考えてくれたら、それでいいさ……」
とシリアスに返し、おかげでマジになってしまうワープだった。
「元に戻る方法は?」
「同じことをすればいい。またトンネルをくぐればいいのさ」
そしてドール、付け加える。
「この体質変化は、トンネルのほか、別の条件下でも起きるんだ。
何かで全身を覆う。もしくは、最低限首から下を何かですっぽり覆うと、発生する。
蛹が成虫に変態するような感じさ。虫だよ虫――」
「自分のこと虫って……。いくらなんでも、ひどすぎ……」
「だから、お風呂入るときも肩から上は出すとか、緊張の連続でしかない。ボクが今、こんな露出の多い服装なのも意味があったってことだ。冬場なんて辛いんだぞ……」
あくまで軽い口調だった。少しの間。さすがにワープも、相手が冗談気味だったことに気づくのだ。ならば――
「今日、すべてが終わったら……海水浴にいかないか?」
マジメを装って提案するワープだった。
「キミ、実は性格が悪いな?(笑)」
ワープ、反撃する。
「そっくりそのままお返しする……。きみの性格は、だいたい掴んだつもりだよ。
たぶんきみは、今のイケメンから、超イケメンに変化して、ぼくを絶望の淵に叩き落とすつもりなんだ。絶対ひっかからないからね……」
「キミはときどき、妙にひねくれる」
「もうすぐ出口だ。楽しみにしてる……」
「好きにしろよ、フフン」
もともと交通量がないうえに、ここはこの世界では、旧道の隧道だからなのかもしれない。トンネル長さ約2.5km。おおよそ5分もの時間をかけて走り抜けたのだが、その間、他の車とは一度も会わなかったのだった。




