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「――あと、くれぐれも、ボクの指示どおりに運転しろよ? これだけは特に念を入れとく」
「きみがドライバーでもいんだけど……」
「こっちも都合があるの!」
「うんうん、わかったよ。じゃあ、そろそろ出発する……?」
「待てよ。最後に一つ、大事な確認が残ってる。コース中盤に、走行予定ルートがゾーンを大きくアウトしてるエリアがあるよね。ここ、どうするつもり?」
「……」一呼吸おいた。「きみは、何か考えある……?」
「普通なら、技名、“スネーク”を使うな。スタート~ゴールを細かく区切って、リンクさせて走るやり方だ。だがキミのラインは、海から海への直一本ものだ。何を考えてる?」
「昨夕きみに声かけられたとき、すでに申請したあとだった。きみのことも、リューシィのこともあの時点では分からなかったことだから……。ぼくは一人で……なんて言うか、一つの“賭け”をするつもりだったんだ……」
「どんな?」
答えようとしたときだった。きゅるっ、きゅるっ、きゅるっ――とパムホが鳴いたのだ。
ワープ、画面を見て、顔をしかめる。ちらっとドールを見て、えへん、と一つ咳払い。そして、生真面目にパムホに囁いた。
「『愛してる』……」
パムホが鳴った。
ぴこ~~ん……。
顔が赤い。そりゃそうだろう。
“査察”である。本人確認のためのもので、プレイヤーの応答は義務であった。プレイ中のランダムな時間に(さすがに夕方から早朝の間はない)、これまたランダムな(声紋、虹彩、指紋)本人認証を求められるのだ。さらにはその内容も、今のようにランダムで、予めの対策は事実上むりなのであった。
これに応じなければ、何らかの不正が行われていると判断され、ゲームオーバーとなる。ワープはまだ赤らめた顔のままに、
「コレだから……」と言い、そしてたったそれだけで通じたらしく、
「“賭け”の意味が分かったと思う」
珍しく同情的に、ドールが理解を示した。
「ちなみに、キミのランクは?」
「“ルーキー”……そっちは?」
「同じく……。お互い、苦労してるよな。てことは、“今回も”リューシィには成功を報告できないかもね」
「きみの理解力の高さには、感服するばかりだよ……」
「どうすんのさ?」
「だから、賭けなんだ。あとは、誠心誠意やるだけ……」
「まあ、いいでしょ」
「うん。じゃあ――」
「出発だ!」
ということになったのだった。