願い 2
――――突如この世界に現れた翠子の両親。
言いたい事を言いたいだけ言った二人は、また連絡するからと告げて、現れた時同様突然に去って行った。
(まあ、ほとんどママが一方的に喋っていたんだけれど……)
相変わらず元気そうな姿に、嬉しさを通り越し呆れてしまった翠子だ。
そんな翠子と両親の会話は、自動翻訳の機能が働いたのか、聞いていた者達にも内容が全て伝わっていた。
両親との会話を終え、ようやく周囲の皆の反応を意識した翠子。恐る恐る視線を向けた先では、ヤトはもちろん、強い力を持つ竜達でさえも、常識を遥かに超えた今の出来事に呆然としていた。
(まあ、それも仕方ないわよね。)
諦めと共に翠子は天を仰ぐ。
――――界渡りという生き物は、本当に規格外だったのだ。
両親が見せた、界の違いをものともせずに強引に空間を繋ぎ、互いに意思を疎通させる大きな“力”。
それだけでも界渡りの強さは十分に知れるというのに、なおも寿命や能力等、界渡りの桁違いの能力を両親は語ってくれた。
そして彼らは最後に、翠子が自分の姿を自在に変えられるのだと教えてくれたのだ。
にわかには信じがたいその言葉。――――しかし、それは事実だった。
何より確かな証を、翠子自身がその場で示す。
光に包まれた巨大な竜の体が、徐々に小さくなっていく――――その様を。
途中で止めたものの、あのまま続けていれば、翠子は間違いなく人間になったことだろう。
(人間に……ヤトと同じ人間に。)
翠子は、眩暈がするような思いをかみしめる。
“人間になりたい”――――翠子が抱いていた、決して叶わないと思っていたその願い。
それが、いとも簡単に叶うのだ。
彼女の心臓は、先ほどからバクバクと高鳴り続けていた。
「アキ……」
そんな翠子に、低く押し殺したような声がかかる。
視線を向けた先には、ヤトがいた。
「ヤト。」
「アキ……さっきの光は?……あの中から現れようとした者は――――」
翠子に尋ねながらも、ヤトの目は確信に満ちている。
その目が強い喜びに満ちて輝いて見えるのは、決して翠子の気のせいだけではないだろう。
「私よ、ヤト。……人間の、私。……私、人間になれるのよっ!」
翠子は、叫んだ。
竜と人としてしか触れあえなかった、翠子とヤト。
そんな二人が、同じ人間として向き合える事が出来る。
(向き合うだけじゃないわ。思いっきり抱きつく事だって……それ以上の事だって出来るのよ!)
それ以上――――と、考えた翠子は、思わず頬を赤らめる。自分が黒竜だった事をこれほど感謝した事はなかった。
あらぬ妄想――――元へ、想像に挙動不審になる翠子。
そんな翠子とは対照的に――――ヤトは、真剣な表情をしていた。
目を閉じ、暫し何かを懸命に考え込むヤト。
――――やがてヤトは、予想外の事態にまだ茫然としていた竜達に……ロウドに向き合った。
そして土下座をしたのだ。
「お願いします!…………私に、私の命が尽きるまでの間、アキをください!」
ヤトはそう言った。




