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13 起床

「……あれ、ここどこ?」


見覚えのない部屋の中で目が覚める。


「ここはガーラン商会の会長ガーランの一人娘のノンという少女の部屋よ。おはよう、リグル」


既に着替えを済ませ本を読んでいたノンが答える。


「……ぁー。そうだった。おはよー。ノン」


窓の外を見れば昇り始めた朝日が差し込んでおり、多少は暖かくなってきているがやはりまだ寒い。

リグルは一度ぶるりと体を震わせるとえい、と思い切ってベッドから出た。


「うぅ……寒い……」


「寒いならこれを羽織るといい。エイトに頼めばあったかいミルクを出してくれるから行こ」


ノンは机の上においていたマントをリグルに羽織らせると手を繋いで食堂へと降りた。

まだ日が昇って間もないというのにすでに食堂では野菜と肉を煮込んだスープが辺りに空腹を誘うような香りを放っていた。


「おや、お嬢さん方。いつも通りお早いことで」


香りの元であろう底の深い鍋をぐるぐるとかき混ぜながらエイトが声をかけてくる。


「早起きは銅貨三枚と等しい価値を持つ。一生続ければ金貨になる、ガーランの言葉よ」


「その通りだ。ガーランさんもたまにはいいこというもんだ」


「そうね。この言葉以外気に入ったものは本くらいだけれど」


「俺もほかには聞いたことがないな。ホットミルクくらいならすぐ出せるが飲むか?

もう少し待ってくれれば朝食が始まるが」


「もらう。二人分用意して」


「かしこまりました。席について少しの間お待ちください」


仰々しい仕草でエイトは礼をするとスープをほかの料理人に任せミルクを作り始めた。


「すごい早い時間から皆働いてるんだね」


「えぇ、日が昇ればもう働く時間よ。コック達は日が昇る前に起きて準備をするからさらに早いわ」


「うぅん私には料理人は無理だなぁ。そんなに早く起きれないや」


まだしょぼしょぼする目をこすり、リグルがつぶやく。


「何事も慣れ。2年もこの生活をすればどんなに疲れてても起きるわ」


「それはそれでなんだか……」


「そうそう、それはそれで体が持たないのさ。だからここでは深酒、大食い、病気は禁止ってね」


声のした方向へ顔を向けるとエイトがお盆の上に湯気が立つ木のコップを二つ並べて運んできた。


「深酒大食いはわかりますけど病気って禁止できるんですか?」


「できるさ!美味しいご飯、楽しい職場、規則正しい生活とほんの数ページ本に元気になるコツを書くだけで死んだあとまで健康だ。お待たせしました。どうぞ」


「ありがと」


「ありがとうございます」


渡されたホットミルクはただ牛乳を暖めたものではなく、香りからは微かにハチミツが入っていることがわかる。


「やっぱり寝起きはこれが一番」


「美味しい!」


「それは良かった。エイトさん特製ホットミルクだ。体の芯まであったまるぜ、材料は秘密だがな」


「エイトはいつも自分の作った料理の作り方を教えてくれない」


ノンはぷくっと頬をふくらませて拗ねる。


「まだまだお嬢様には早いのさ、自分の商会を持つか、材料を狩ってこれるようになったら教えてあげるさ」


「材料を狩る……?これってミルクなのに狩るんですか?」


「あ、しまっ……いや!ゴホン!言葉の綾だ!」


「(もしかしてこれも魔物……?)」


嫌な予感を振り払い左右に頭を振る。


「…そ、そうだ。そろそろ朝食の準備しないと。皆も来る頃だし……こ、これで失礼するよお嬢さん方」


そう言うとエイトは逃げるように厨房へ戻っていった。


「まぁ美味しいからなんでもいいのだけれど」


「ノンは割り切ってるね……」


「そう?魔物だって動物だって普通に食べるものだけれどリグルは違う生活をしてた?」


「うぅん……魔物の存在を知らなかったからかも」


知らなかったとは言え知らず知らずのうちに魔物を食べることが怖いように感じた。

魔物になると聞いてふと頭をよぎったのはあの夢の光景。

あんな風にはなりたくない。

そう思った。


「まぁ、竜レベルの魔力が高いお肉を食べなかければ魔物にはならないだろうけどね」


「えっ、でも食べたら魔物になるって」


「可能性があるという話をしただけ。それに噂程度だもの。気を悪くしたらごめんね」


「うぅん!そんなことないよ!(よかったぁ……)」


傍から見たら心配していたのが丸分かりなのだが、ノンは突っ込まなかった。





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