第一章 恋
「ねえ、わかれてくれない?」/「さっさとでてってよ!」
放課後、ある教室/ある家で、そういわれた、好きなはずの彼女/唯一の親に。
今日でせっかくの4か月記念日だったのに。俺は目を見開く。
「え…は…?ど、どうして?」
必死に言葉を口から出す。その言葉は動揺を隠しきれていない、焦りから出た安直な言葉だった。それは最も、振られたものが言ってはいけない言葉。彼女はあきれたように
「あんたさ、つまんないの。私が声をかけたら無視してどっか行くくせにそのあとすぐそっちから話しかけてくるじゃん、それでかわいいと思ってんの?それだったらウケるわ」
淡々と鼻で笑うように告げる。
「それにさ、ちょっと身長低すぎるわ。顔はいいから付き合ったのに全然身長は伸びないし、まーじでありえない」
その言葉が俺を傷つけていく。
「それだけ、じゃあね」
彼女はそれだけを告げて、さっそうと去っていく。教室にはたった一人、今にも涙があふれそうな目をしている。
何分経っただろうか、俺―神谷春斗は教室を出ようと歩きはじめる。とぼとぼと、ゆっくりと。教室を出ると、チャイムが鳴った。生徒が出なければならない時間だ。歩くスピードを上げ急いで外に出て、また歩くスピードを元に戻す。
…何がだめだったのだろう。その言葉だけが俺の頭の中を埋め尽くす。目の前の景色は変わり、気づけば閑散とした公園が目に入った。その中にあるブランコに自然と足が動き、座る。
やっぱり、俺の性格か。
人の性格は簡単には直せない。子供のころから時間をかけてつくられた、自身の確立であるからだ。自分の性格を直すってことは、それは自分自身への否定につながる。それは、いやだ。
「はじめて…4か月も彼女と続いたのにな…」
どうしてもあきらめきれない、後悔ばかりが募ってしまう。初彼女というわけではなかった。今まで何回か女子と付き合ったことはある。それでもつづいたのはせいぜい2か月程度。今回は初めて四か月も続いた。そればっかりに余計気持ちが浮かばれない。高校だって同じになれた。お互い高校は内緒にしていて、卒業式の後それぞれの高校を言い合って同じだってめっちゃうれしかった。それなのに、入学してまだ四日目。そんなこと考えていると気づけばあたりは暗くなってきた。そのことが数時間ここにブランコでいたことを知らされる。そしてこの静寂とした公園に誰かがやってきた。自分よりも身長が高い、男の子。
「あの人の制服、同じ高校の人だ。」
誰かと待ち合わせしているのだろうか、彼女を待っているのだろうか。
「それだったら許せねえ」
とくだらない嫉妬でぼやく。ただ、その男の子が行った行動は待つことではなかった。
「…はは、なにしてんだよあいつ」
1人で遊び始めた。夜に誰もいない、いや二人しかいないこの公園で滑り台をただ黙って滑る。それは楽しいのかは知るはずもないけど、1人でずっと滑ってる。そんな阿保らしい光景を見て、くしゃくしゃになっていた顔が少し、明るくなった。それでもまだ悲しさはやまないけれど、元気になれた。
「あいつ、馬鹿みてぇ、変なやつ」
口から震えながらも笑って言葉を紡ぐ。
「…帰るか、あんまり遅いと親に怒られるわ」
重い腰を起こして、家に帰ろうと駅に向かう。その足取りはさっきも変わらず遅いままだけど、ほんの少し、心なしかちょっとだけ軽やかに歩けた気がした。
ある日、親にそういわれた。さっさと出ってよって。はじめて言われた。生まれて初めて。俺は母子家庭で、父は俺が幼いころに消えた。俺が多分6歳の時、ほとんど父の記憶なんてものはなかった。別に会おうとも思えなかったし、母がいるからそれだけでいいと思ってた。でも、母はそんなことはなかったらしい。毎日毎日必死で働いて、でも、今日ずっと張りつめていた糸が切れてしまった。何にもすることができなかった。「出ていけ」と言われたから、出ていくしかないと思った。母が落ち着いたころにまた戻ってきて、何か作ろうと思った。それ以外イマイチ何をすればいいのかわからなかった。制服のまま、外に出ると空は黒と赤のきれいなグラデーションが飾られていた。
「どこいこっかな」
目的もなしにただ歩いた。ポケットに入れていたスマホを取り出し、ゲームをしながら。その時、ふと思った。そういえば、近くに公園があったな、そこで遊ぶか。決めたら行動は早い方だと俺は思ってる。小走りで近くの公園に向かう。やっぱりここは静かだ。まるでここだけ世界からきりはなされたようなそんな静けさがしている。目を閉じる。香る、草木のにおい、風が吹き植物に当たり、木々たちが騒ぐ。そんな別世界のような公園に足を踏み入れた。公園には一人、1人の身長の低い高校生がブランコに座っていた。身長が低いのに高校生と思った理由は、自分と同じ制服を着ていたから。それに同じクラス。確か名前は…。目が赤いけど大丈夫かな、とかどうでもいい気持ちを無視して、まだ空いている遊具―滑り台に目が行く。ここの公園は遊具が少ない、本当に小さな公園。
「滑るか」そう決めると、俺はただ単に滑り出した。滑ってはのぼり、滑ってはのぼり、なんだか足の筋肉がつきそうなことをずっとしていた。気づけば、きれいな空はいつの間にか黒一色に染まり、ブランコに座っていた高校生はいなくなっていた。もう少しここにいようかな。ここは居心地がいい。この静けさが楽だ。でも母は逆に遅くなったらそれはそれで怒りそうなので、帰宅しようと、最後に滑り台を滑る。そしてこの公園から小走りで外に出る。なんの代わり映えのない同じペースの小走りで。家に着くと、母は落ち着いたのか謝ってくれた。もうすでにおいしそうなご飯を作っていたので、俺が作るのはまた後でにしようと思う。次は母の機嫌がいい時にお祝いで作ろうかな、なんてちょっとした期待も寄せながら。
―翌日
重い足取りで、学校に向かう。幸い彼女とは別クラスだった。学校に着く。
「おはよー!」
気持ちを切り替えようとあえておおきな声であいさつをする。ただ、少し声が裏返ってしまった。教室の中は少しびっくりしたような目で自分を見ている。そして何人かは相槌を返してくれた。それに返事をしつつも少し恥ずかしさを覚えて急いで席に着こうと席に向かう。その時、窓際にいた男子に目がいった。
「あ…」
思わず声に出してしまった。昨日公園で滑り台を滑っていたあの男子。まさか同じクラスだったなんて、全然気づかなった。ここのクラスに人がいすぎるのもあるけど、多分浮かれていたんだと思う。それと緊張。
「まあ、別にいかなくてもいいか」
俺が一方的に見ただけ。きっとあいつなんか俺のこと気にも留めていないだろう。俺は友達のところに向かった。友達のところに行くと軽く挨拶を互いにすると友達は何かを思い出したように薄気味悪い笑みを浮かべた。
「ともき、な、なに?」
ともきに聞き返すと、
「神谷―お前彼女と別れたんだろ?」
そう意地悪くいった。
「え、は…?」
「まあまあ、そんなこともあるって、俺だって何回も別れを繰り返して…ごめんそんなことないわ。ずっと付き合ってる。」
「いや、なんでしってるんだよ」
「ふーん、まあそれは言わないけどいろいろ情報来るんだよ。ちなもうすぐ3年記念でーす」
そう俺の方をポンポンと軽くたたいて、いいやつ紹介してやるからと言ってその場を去っていった。
「まじでなんで知ってんだよ」
チャイムが鳴り、授業が始める。昨日のこともあり、あんまり内容は頭に入らなかった。それでも一生懸命気持ちを切り替えようと黒板の文字をノートに写す。背後からの視線をかすかに感じながら。授業が終わり真っ先にともきのもとに向かう。
「おい、授業中俺のことずっと見てんじゃねえ」
むすぅとほおを膨らませてずっと笑ってるともきに怒る。するとともきは慌てて否定する。
「いやいや、俺お前のこと見てねえよ。自意識過剰すぎるだろ。なんで俺がお前のこと見なくちゃなんねえんだよ」
「…確かに。すまん」
確かにそうだと思い態度をすらっと変えて謝る。まあ別にこいつヤな奴じゃないし。
「いいっていいって、まあそんなんなってもしゃーないよな、彼女分かれたくせに身長も伸びないんだもん。あーかわいそ。ねー160センチのかやくん?」
うそ。訂正。こいつやっぱ嫌い。ともきのことをポコポコ殴って席に着く。ともきがいたって大きな声で言ってたけど絶対演技なので無視し次の授業の準備をする。そのとき、ふと、思う。昨日奇怪な行動をしていた高身長の男子のことを。
「そういやあいつの名前なんだろ」
素朴な疑問が頭に浮かんだ。同じクラスでさすがに名前を知らないのは良くないと思い早速聞きに行こうと思ったけど、あいつは自分の席で静かに涼しい顔で本を読んでいた。名前何?って聞くのはさすがに気が引けるので教卓にある名簿欄を見に行く。一応制服に名札がついているが、ちょうど本で隠れて見えない。
「えっと、名前は」
教卓に乗っている名前は座席順に書いてあり、名前を探すのに苦労はしなかった。出席番号順だったら全くわからないから危なかった。
「名前は…おにたにとうりって言うのか」
鬼に谷に冬莉。なかなかインパクトのある名前だ。なんか強そう。まあ確かにひとりで滑り台を何回も滑るようなやつだから案外間違いでもない。普段あんなスンとした顔してるくせに放課後にあいつは何をしていたんだと心の中で笑う。もしかしたら話したら面白いのかなとか思ったり。いつか話そうと心の中で決意し、席に着く。そうしたこともありながら授業は2時間目、3時間目、4時間目と続き、昼食の時間になった。
「購買行くか」
途中でともきらに昼食を誘われるが、今はあいつむかつくので丁重にお断りする。普段は一緒に食べてるけど今日はうざいと言ったらありゃしない。今回も
「かなしーか、そりゃそうだねー彼女と一緒に食べたかったもんねー」とか言ってくるから、右手の中指を思いっきり立ててやった。それじゃ足りなかったから左手の中指も。
「一人で食べよ」
購買でパンを買いそそくさと中庭のベンチの元へと向かう。中庭にはすでに人がいたがそれほど混んでいるわけではない。和気藹々とした女子たちの使っているベンチよりもすこしはなれたベンチに腰を下ろす。しばらく女子にはかかわりたくない。ベンチに座ってさっき購買でかったパンを取り出す。この購買は出来立てを売ってくれているからめっちゃおいしい。俺が買ったのはサンドイッチと焼きそばパン。焼きそばパンは俺の好きな濃いやつだからおいしくてよく買ってる。そうはいっても入学してまだ4日目だけど。そんな美味しい焼きそばパンをほおばっていると、高身長な男、鬼谷冬莉が現れた。鬼谷は迷わず俺の隣に座ってきた。
「え」
思わず声が出てしまった。だって、目の前に誰もいないベンチが空いているのに俺の隣に座ったからだ。…前のベンチが空いてるというのに。神谷の脳内で高速に思考が巡る。
一つの仮説にたどり着く。逆に向かい合わせで食べる方が気まずい説。
即否定される。
いやいやそれよりもしゃべったことない奴の隣に急に来るなんてあまりないだろ。鬼谷は何でもないようにパン食べてるし。・・・ていうかなに、あのパン?
それはフランスパンだった。
え、え、え、フランスパン?でかすぎだろ、え食べれるの?そんな休憩長くないよ、え、まだパンだしてる。え、あれメロンパンの上にチョコソースでドラへもんかいてる…あれ高校生で買う人いるの?ってかなんで購買でそれが売ってるんだよ。誰得だよ。いや鬼谷が買ってるから買う人はいるのか。…やっぱこいつ変わってるわ。
自分のパンを食べずほとんど鬼谷のパンをまじまじと見てしまった。完全に視線がそっちに向かってる。あまりにも疑問と衝撃の連続だった。多分今年これ以上の衝撃ない、と自分の中で確信する。さすがにじっと見ていたのが鬼谷にばれたのかこっちに視線を向かせる。その目は、なにか問題でも?というような少し軽蔑を含んだような目をしていて、心で必死に言い訳する。いや、お前の方に問題があるって!なんで俺がなんかしちゃったみたいな目をするんだよ!
「ねえ」
鬼谷が春斗に話しかける。それにびっくりした春斗が慌てて言う。
「あ、ご、ごめん!別にそんなもんじゃなくて」
何に対して言い訳しているのか自分でもあいまいだけれどとりあえず謝る。
「えっと、おにたに冬莉だったっけ?」
まだぼりぼりとフランスパンを食べている鬼谷にそう聞く。ハイペースで食ってんなーって思う。これだったら休憩時間内にたべられるわ。
「おにたに…俺そう呼ぶんじゃなくて、きたに」
しれっと何でもないように春斗の間違いを訂正する。
「え、あ、ごめん!」
…まじか。俺めっちゃ間違えた。恥ずかしい奴やん。うわーどしよ。気まず。名前呼び間違えるとかまじでやっちゃダメなことしちゃった。言い訳するか?いや、言い訳したらその方が逆に恥ずかしいし。うーん。気まずいな。
そんなことかを考えている春斗にお構いなしで冬莉はパンを食べる。まるで何も気にしてないように。もう半分まで食べ終えている。俺も慌ててパンを食べる。やっぱり焼きそばパン美味しい。
「あ、あのさ、えっと、俺の名前は神谷春斗!」
「知ってる」
「あ、そっか」
「かみやじゃなくてかやなんだね名字。」
「あーそうなんだよね。大体の人に始めかみやって呼ばれる」
おもしろいっしょ、と笑いながら鬼谷に尋ねる。ただ返事は違う形だった。
「ねえ、昨日泣いてた?」
昨日、公園、こいつと出会ったとき、俺、ないてったっけ?昨日泣きすぎて覚えてねえや。こいつ俺のこと見てたんだ。落ち込んでる俺を。恥ずかし。
「あー泣いてた。あはは、彼女と別れちゃって」
「そう」
やっぱり変わってる。聞いたくせに適当な返事で返す。こっちはこんなに悲しんでいるのに。
「まあ、経験は大事だよ。経験できることが貴重なんだから」
…気のせいだろうか。少し悲しそうな顔をしている、気がした。何かうらやましそうな。それとも気の毒そうな顔。
「まー確かに。乗り越えなくちゃいけないよな」
「運命の人がその人がじゃなかっただけ」
えーそんなこというんだ。俺別れたばっかりなのに。
「…」「…」
「それ、食べきれるの?」
さっきから気になっていたことを聞く。確かに速いスピードで食べているがさすがにチャイムまでには食べきれない。あと8分ぐらいでなる。
「食べきる」
がつがつと、初めの時とスピードを一切落とさずに食べ続ける。見る間もなく、フランスパンの量は減っていく。少し魅入ってしまう。高身長はめっちゃ食べる。俺も頑張らないとと思った神谷だった。
チャイムが鳴るまで残り5分ぐらいになったころ、無事フランスパンを完食した。
「なあ、LIME交換しよーぜ、もしくはミンスタ。」
神谷はクラスの人とも連絡先はつながってきている。もちまえの美貌とトークスキルよるものだろう。
「あーいいよ」
そういってスマホを取り出してLIMEとミンスタを交換する。たまにミンスタをやっていない人がいたからどっちもやっているけれど別にどっちもつなげる必要なはないと神谷は思った。
鬼谷のLIMEのアカウントの写真の背景は初期のままでミンスタの方が使っていることがよみとれた。アカウントの写真はゲームのキャラの写真だった。
「…あこれ、あのゲームの?」
「そう、知ってるの?」
「知ってるていうかめちゃくちゃやってる。あれめっちゃ楽しいよな!最近あれしかしてない。」
「わかる」
「なんのキャラ使ってんの?」
「俺はアタックとヒール兼用のやつ。」
「まじ?あれ扱う難易度バリ高いのによく使えんな」
「バーチャルで使った案外そんなことないよ」
「えーゴーグル持ってんの?いいなー。てかさ、一緒にやろーよゲーム」
「いいよ。」
「オッケー、じゃあ明日な!」
時計を見ると時刻は1:27をさしていた。チャイムがなる三分前。
「やば、急がないと」
結局自分の分はあまり食べられなかった。サンドイッチは食べれず、ぎりぎり焼きそばパンを食べ終えて向かおうとする。そのとき、ふとおもった。あのドラへもんのパンは?
「なあ、もう一個のパンは?」
「今から食べる」
―今から。あと三分。ここから教室に戻るのに、二分程度。それまでに完食。神谷の脳内での計算の結果、不可能という結論が導き出された。
「あとででいいだろ。行こ!」
腕を引っ張って教室に向かわせようとする。あのままじゃ遅刻するから仕方がない。
っていうかむかいながら食べればいいし。まだ、時間は残っているので歩いて教室に向かう。だが、だんだんとその足は速くなっていった。時間に追われているわけではない。声が聞こえたから。神谷をくすくすと笑う声が。
「ねー見てあの一年生。二年生の先輩の腕引っ張ってる。かわいー」
違う。どっちも一年生。
「うわ、あそこの身長差やば。」
そんなにやばくない、はず。
「ぐへ、あ、あそこの少年が腕引っ張ているぞ。ふふ身長差か…」
お前は何だ。
「男同士ですか…ふふ、推せる。どっちがうけでどっちがせめいやさすがにこちらがそうですかいやいや逆のパターンも…」
違う違う。もう全部違う。後半知らない言葉連呼しすぎだろ。
かということがあり、急いで教室に戻ってきた。それぞれの席に着く。鬼谷はまだパンを食べている。どうやら歩きながら食べることが下手らしい。時刻は1:29。あと一分。
「食べきれんの?」
鬼谷は黙って食べ続ける。パンの顔をみて少し悲しそうになりながら。
チャイムが鳴る。間にあったか。鬼谷の席を見る。まだ食べている。だが、次の瞬間残った半分ほどのパンをまとめて口に放り込んだ。セーフなのか?と疑問に思いながら少し笑う。
先生がやってくる。鬼谷は少し、顔が膨らんでいるけれど、生徒で隠れてしまったら先生も気づけない。難はしのぐことができた。さっきしゃべったばかりの人がほっと胸をなでおろす。そのかすかな違和感は、少し気にかけてしまうのは同級生として心配とは少しずれていると誰も、自分自身でさえも気づくことはできなかった。
午後の授業もおわり、終礼が行われる。
「えー明日は部活のオリエンテーションと仮入部が行われる。オリエンテーション後でもいいがなんとなく仮入部する部活を決めておくように。」
明日から本格的な高校生活。部活、俺どこに行こうかな。俺は、自称スポーツ万能。大体のことはなんとなくできる。もちろんそれを極めてる人と比べたら全然弱いけど。0から1にすることが得意なんだと中学校ぐらいに思った。体育とかはそのスポーツのほんとに先端にしかかじらないから、俺にとっての十八番だった。だから良成績をキープできた。でも、部活は違う。1から100を目指す。本気で取り組まなければならない。俺は一体何を選ぶのだろう。
「家に帰って決めよ」
そう決めて家に帰る。ともきに
「お前は元カノと被らないようにしないといけないな」
とニヤッと笑いながら言うもんだからまた頭叩いたのは別の話。
電車に乗る。何気ない景色に目を移す。太陽が役目を終え、月の役目が来る。その二つの輝きが街を彩られ、その一瞬の輝きに目を奪われる。
ふと、後ろからの圧を感じた。後ろを見ると鬼谷がいた。また前を見る。もう一度後ろ見ると鬼谷がいた。またまた前を見る。さらにもう一度後ろを見る。鬼谷がいた。
「お、お前こっち方面の電車に乗ってんだな。」
「うん」
じゃあずっと帰りの電車は同じだったのかもしれない。四日間同じ電車で帰っていたのに、今日初めて名前を知ったのはさすがに良くなかったと改めて反省する。
鬼谷の身長は高い。180いってるかいってないかぐらいの高さ。10センチぐらい分けて欲しいと切実に願った。
気づけば電車は最寄り駅に着き、体が揺れる。
「それじゃ俺ここだから。」
「俺はもう一個先」
「そっか!明日ゲームしような!」
「ん」
電車から出て手を振って挨拶する。少し歩いて家の扉を開ける。
「ただいま」
その言葉は宙に届いて消えた。親は共働き。基本家に帰っても俺の方が早い。めっちゃ親が遅いってわけじゃない。帰ってくるのは母さんが8時ぐらいで父さんが10時くらい。それまで俺の家は一人。ちょーぜつ自由な時間。やったぜ。
「風呂行くか」
風呂を沸かす。何百回も聞いた音声。
「風呂沸くまで勉強しとくか。」
人より勉強は苦手だ。積み重ねが大事の科目なんて特に。でも理科は好き。点数は一番低いけど。好きと得意は全然違う。好きだから勉強はするけど点数は全然伸びない。
勉強は一度入れば時間は一瞬ですぎる。静寂した時間を打ち破るように風呂が沸いた音が聞こえた。浴室に向かう。
服を脱ぎ、体を洗い風呂に入る。ほとんどいつも一番風呂。
「部活、どうしようかなー」
部活。全力で頑張らないといけないスポーツ、高校生活を費やす部活、って思ってた。
どうやら俺が行ってる高校の部活は規則や時間が緩いらしい。最近の教員の改革によるものだろう。部活は朝練は週に三回、休みの日を最低でも二日間以上設けないといけないらしい。だからオリエンテーション後に最も楽しそうなものにしようと思う。湯気が顔に当たる。ほかほかした湯気。みんなは何の部活に入るのだろうか。ともきは…野球部だろう。野球馬鹿だから。他の友達も、なんなとく決まってそうだった。
「鬼谷はどうすんだろう」
そもそも入るのだろうか。帰宅部かもしれない。
風呂からたち上がる。体をふいていると、玄関から鍵を回す音が聞こえた、時刻は八時を回っていた。親が帰ってきた。
神谷は普通の会話を交わした。なんでもない高校生と親の会話。
この年頃は親に対して反抗的になるらしい。夜ご飯は普通とか、美味しくないとか言うくせにしっかりと完食して、いちいち親にあたって。だけど、その正体は案外照れ隠しだったりするのかもしれない。ただ本当の気持ちを胸に隠しているだけなのかもしれない。親はきっとそう思って接しているからあんなに子供に声をかけるのだろう。事実、神谷の母もそうだった。子になんといわれようが笑顔で接していた。父の方が春斗に拒絶されることに悲しみを覚えている。だが、その翌日はいつも笑顔だった。
「じゃあ、おやすみ。」
そっけない返事をして自室に向かう。時刻は22:30。身長を伸ばすために早く就寝する。
「はいはい、春斗おやすみ、頑張って身長伸ばしなさい」
「うるさい」
愚痴をたたいて、扉を閉める。ベッドに倒れる。成長ホルモンを逃さないように急いで寝る。
身長を伸ばすためと、明日という予測不能な一日に耐えれる体力をつけるために。
翌日、学校に向かう。今日の午後は部活のオリエンテーションで授業がない。授業の少なさにびっくりする。それでも有名大学への進学率が高いのがすごい。
「おはよー」
いつも通りの挨拶。教卓においてある名札をとって席に着く。この高校では、生徒一人ひとりに名札を付ける。名字の下の下線が青色になっており、学年ごとにカラーが決まってる。一年生は青色。二年は赤、三年は緑。先生によると非常時の行動を円滑にするために配布されているらしい。一個350円。
教科書をリュックから取り出して、リュックをしまって。先生がやってきて、挨拶をする。まだ慣れない場所はあるけれど、少しずつなれてきたこの高校。
授業が一限、二限、三限、四限と終わっていき、昼食。今日はともきらと。
「ともきーお前何の部活ははいんの?」
「俺は野球部。」
知ってた。野球馬鹿だから。
「春斗は?」
「俺は、オリエンテーションみて決めるつもり」
あーそう、とご飯をほおばりながら食べるともき。
ともきは野球少年。小学生から野球に取り組んでおり、中学校では外部で野球をしており、キャプテンだった。本当はスポーツ推薦でここの高校に入る予定だったが、推薦での入学試験で不合格。しかし、そこからのたゆいまれない努力で、スポーツ推薦を受けたこの高校の普通科に合格。まさに秀才であった。その間も野球の練習を行い続け、より成長していった。
「ともきはすぐレギュラー行きそうだな。」
ともきは自信満々に胸を叩き鼻を膨らます。
「あったりまえよ!勉強さえできたらスポーツ科で入学できたんだから」
「勉強よく頑張ったな」
「まあ?天才だし」
「はいはい、すごいすごい」
春斗は適当にあしらう。昼食を終えると、体育館に集合。そこで各部活のオリエンテーションを受ける。昼食を終えたら勝手に体育館に行けとのことなので、もう何人かの友達は向かっていき、教室は少しずつ静かになっていっていた。
「よし、いこーぜ」
ともきが食べ終えたのを見て催促する。
「あーごめん。俺彼女と行くから。」
春斗の中で煮えたぎるような怒りがこみ上げてきたのは言うまでもない。一緒に食べたくせに、こいつは簡単に見捨てた。
「あっそう!じゃあ、俺他のやつ…」
時すでに遅かった。周りの友達がもう向かって行っていた。もう少し早く言えばよかったと後悔した。だが、後悔しても何も残らない。急いで残っている人を探す。女子、女子、男子。
鬼谷だ。まだご飯を食べている。今日はクロワッサン。昨日のよりかはまだマシなパン。急いで声をかけに行く。
「鬼谷―。一緒に体育館行かない?」
「いいよ」
「よっしゃ」 思わずガッツポーズ。慌てて腕を下げる。
鬼谷はそんなこと気づいていないのか、それとも気づいてて無視しているのか構わず食べていく。おそらく前者だと春斗はなんとなく思った。鬼谷はさっきよりも速いスピードでクロワッサンを食べていく。見ていて気持ちいがいいほどの食べっぷり。きっと作った人が見ていたらさぞご満悦だろう。最後の一口を終えて、立ち上がる。
「行こ!」
体育館に向かう。1人より二人でいる方が安心するのはきっと誰しもが経験することだと思う。体育館に着くと、すでに多くの人でにぎわっていた。ここの体育館はとても広い。バスケコートが大体4つほど入り、部活は基本的に半分ずつ使われる。それでも、不自由なく使えるほどの大きさらしい。
舞台に立っている先生がマイクを持って口を開ける。
「えー一年生は舞台側に集まってください。列は決めませんが体育館の半分より奥へは行かないように。」
「鬼谷一緒に見よー」
みなが座り始めたので、春斗らも座る。だが座ると明らかな身長差が出てしまうのはいたしかたない。
「やっぱ俺は立っとく。お前は座っとけ。」
幸い壁際にいるから経っても邪魔にはならない。この状態なら鬼谷にも身長を勝てる。多少の優越感を覚えながら、部員が来るのを待つ。
「そういや鬼谷は何の部活に入んの?」
鬼谷は少し考えてから、「俺は…ば」
言い終える前に照明が消える。始まりの合図だ。
扉が開き、人が入ってくる。あれは、野球部。ともきが入るであろう部活。
「こんにちは、俺たちは野球部です。この高校の中で最も強く、そして熱気のある部活です。えっと、地区戦では常に優勝。甲子園では、毎年1位2位を争う…」
おおーと歓声が飛ぶ。ここ、寺羅伎高校はスポーツ強豪校でもある。特に野球、陸上では、全国に名をとどろかせている。それ以外の部活も、地区では優秀な成績を収めており、まさに文武両道な高校である。
「…てな感じで、自由で楽しく誰もが活躍する部活を作っていますんで、ぜひ入部してください。ありがとうございました。」
確かに、部員を見ると、それぞれが好きな髪形をしており、髪も染めている部員が何人かいる。挨拶を終えると、部員らが続々と退場していきまた新たに人が入ってきた。
「こんにちは、僕たちはテニス部です。基本的に外の練習と中での練習があり…」
説明をしては体育館を去り、また入ってくる。今のところ、入りたいと思う部活はない。しいて言えば陸上部。そこに入ろうかなと意見を固めてきたとき、最後の部活の紹介が始まった。最後は、バスケ部。
「こんちゃ、俺らはバスケ部っす。地区戦では、五年間二位以上を取り続けています。全国大会でも、安定して勝つことができています。ほかにも、この高校からプロのバスケ選手へと上がっていった先輩方もいます。合宿もあり…」
バスケットボール。春斗は初めてやってから慣れるまでの過程が早い。それにともない、体育では、常に最高成績をとることができていたのは前述の通りだ。しかし、バスケは別だった。バスケのみ、生まれて初めて最高評価以外を獲得した。それは彼にとってひどく心残りだった。心のどこかでリベンジしたいという願いがあった。諦めが悪い男なのだ、春斗は。それだけで入部するには十分だった。もしかしたらもうすでに心のどこかで決めていたのかもしれない。それを隠していただけで。仮入部、オリエンテーションを見るまでもなく、バスケ部に入部することを春斗は決意した。
「以上っす。あざましたー」軽い感じで帰っていくバスケ部。それに合わせて照明がつく。
「えーこれですべての部活のオリエンテーションが終わりましたので、仮入部を行う人は、各部活の集合場所に。本日、バドミントンと、ハンドボールは体育館の場所的に部活はありませんのでご注意ください。では、帰る人はかえって、参加する人はむかってください。」
先生にしては少し雑な説明な気がすると思った春斗であった。
「俺、バスケの仮入部行くけど、お前は?」
「俺バレー部」
「あーなら、どっちも体育館だし、このまま待機だな」
鬼谷はバレー。まあ、身長は高いし、適当と言えば適当か。しばらく待っていると、集合の合図がかかった。
「じゃあね」
軽く手を振って別れを告げる。
体育館は半分ずつ使われる。バスケ部とバレー部。バドミントン部と卓球部。セットで行われ、バレー部があるときは、大体バスケもあり、バドミントンがあるならバスケは外練か休みといった具合である。
「じゃあ、こんだけかな。今回の仮入部は。」
先輩が言い終えると、それぞれにボールをもらいドリブルの練習。やっぱりバスケが苦手だ。ドリブルが下手すぎる。ボールが地面に飛んで自分のもとに帰ってこない。ボールを取ってくれた先輩がアドバイスしてくれる。
「えっとね、もうちょっとボールを打つときは優しくした方がいいよ。」
「わ、わかりました」
とにかく挑戦。失敗は仕方がないから。
「そうそう、そんな感じ。次は両手でやってみようか。」
少しずつ少しずつ。基礎をゆっくり固める。
「いい感じ。」
「あ、ありがとうございます!」
きっとお世辞でしかないとしても、やっぱり褒められたらうれしいものだ。
「俺他の人見てくるから頑張ってね」
軽く礼をして、またドリブルという名のボールつき練習をする。といっても、他の何人かの仮入部の生徒も同じようにドリブルができていない人らが多かった。
そのとき、ぱぁんと、横から大きな音が聞こえた。その場にいる全員が音の鳴る先を見た。他の人のところに向かおうとした先輩でさえも。すべての生徒が見た。バレー部の一人の生徒を。もう一度、音が鳴る。その正体を全員が知った。仮入部で来た青年、鬼谷冬莉だった。
「鬼谷…?」
地面を蹴り、翼がついているかのように飛び、滞空し派手に打つ。その身長からさらに飛び、高く、圧倒的な高さで、彼は飛んだ。素人から見てもわかる、完璧なフォーム。人間の構造的に最も力の入るところでボールを打つ。
それを見ていた体育館の全員の目にはどのように映ったのだろうか。そも、一年生は仮入部だと思ったのだろうか。まだ入学して数日。他クラスの人を覚えているのだろうか。
「よ、よし、バスケの仮入部の人ら集まってー次の練習するから。」
先輩の言葉で、やっと、止まっていた時間が動き出す。誰も動くことのできなかったあの時間が終わり、再び空間が揺れ動く。みんながその場所に向かって行く。だが、春斗は動けなかった。春斗のボールがとんとん、と体育館の地面で演奏を奏でる。だが春斗は構い無しに、気づけずに、鬼谷をずっと見ていた。それに見惚れてしまった。魅入ってしまったもだ。
失恋してからわずか二日の神谷春斗は、最近知り合った男に、惚れてしまった。悲しみなど、この瞬間に完全になくなってしまった。
「あ、あの…だ、大丈夫?」
さっきいた先輩が心配そうに春斗に尋ねる。
「...あ」
我に返る。現実世界に戻る。ただ、先ほどの世界も現実であることに相違ない。
「だ、大丈夫です」
慌ててボールを突こうとする。
「あれ、ボール…」
「あーこれかな?さっきあそこに飛んで行ってたよ」
「すみません、ありがとうございます。」
「えっと次の練習するからおいで」
慌ててボールを抱えて先輩の後ろについていく。だが、その目は無意識にも鬼谷を追っていたのを先輩は気づいたのだろうか。その恋の気持ちは自分でも気づけないでいたが、確かに春斗の心の中に、刻み込んだ。
こんにちは!作者のおかピ―です!恋っていう難しい問題や高校生活への緊張、失恋だったりの大変な一章です。次回の更新は来週に行いたいと思いますが、あまり見通しは立っていないので今回の話の半分程度の文字数で2章を少しかじる程度になると思うのでお願いします。これからもよろしくお願いします!!
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