第4話 勇者帰還
「はあ、はあ。まさか、たかがリザードマン相手に、勇者家秘伝の技を使うことになるなんて」
ヒルギスの回復、マジュナの魔法攻撃、ガードンの耐久。そして、僕の必殺技まで、全ての力を使って、リザードマンたちをなんとか倒すことができた。
「なんなの? 話と違うんですけど。一体どういうことよ」
マジュナも不満があるらしく、僕を見る視線がキツイ。
「仕方ありません。バドン様の力も絶対ではありませんから」
ヒルギスはフォローしてくれるが、それって僕が無能ってことじゃないか?
「まあ、失敗は誰にだってあるからな。しっかし、こいつはどうしたもんかね?」
ガードンが壁をなぞりながら言った。
僕たちは今、洞窟にいる。
探索を始めたのではない。リザードマンとの戦いがギリギリだったせいで、マジュナの魔力が切れ、テレポートで帰ることができなくなったのだ。
雑用係としてカイセイに荷物を任せていたせいで、ポーションがないため魔力の補給もできない。
できるだけ移動したものの、王都まで帰ることはできず、野営をする羽目になった。
「あたしが悪いって言うの?」
「いや、俺はそうは言ってないだろ?」
パーティの雰囲気が悪い。
それもそうか。余裕で勝てると思っていた相手に苦戦したのだ。みんな気が気じゃないんだろう。
「まあまあ、落ち着いてくれ。いらだつ気持ちもわかるが、こんなところで言い争っても仕方ないだろ?」
「バドン様がそう言うなら」
「そうだな。俺たちは仲間なんだ」
「でも、バドン様が最初からあの技を使ってくれていたら、こんなことにならなかったのに」
「う」
マジュナの小言が胸に刺さる。耳が痛い話だ。
弱い敵だからと手を抜いて戦ったせいで、どんどんと力を入れることになり、結局全力で戦うことになった。
これは、僕の判断ミスか。
「ですが、バドン様が倒してしまっては私たちが疲弊せず、命からがら逃げ帰ったことにできません」
「だな。これでよかったんだよ。まあ、少しの辛抱だ。大人しくしてようぜ」
「そうね」
なんとかまとまりがついたらしい。
しかし、少しの辛抱か。
「ここでも、カイセイがいないことが痛手になるなんて」
カイセイがいた時の野営は快適だった。
予報だけでなく、実際に空間を支配していたのはカイセイだったんじゃないかと思うほど、これまでの冒険は運がよかった。
湿地帯でリザードマンと遭遇したことなど、今までなかった。
「あいつ、なんで力隠してたの?」
「そうですね。運がいいことが力だったのでしょうか?」
「死んだやつの話なんて今しても仕方ないだろ。クソ。ウジウジしてても何も解決しやしない。こういう時は無理やり寝るのがいいんだよ」
「みんなあんたみたいにガサツにできてないの」
「うるせえ」
ガードンは何も敷かずに地面に横になった。
野営の道具もカイセイに持たせていたせいで、僕たちの野営はただ外を警戒しながら寝るだけ。
まともな食料もなければ、明かりを灯すこともできない。
マジュナの言ったように、僕たちはカイセイにおんぶに抱っこだったらしい。
勇者でありながらこんな屈辱を味わうことになるなんて、家族に知れたらなんて言われるかわからない。
だが、バレることはない。カイセイはもう死んだんだ。僕は安心してそっと目をつぶった。
「まさか本当に命からがら帰ってくるとはね」
なんとか夜を耐え忍び、マジュナの魔力が回復したことで、僕たちは無事王都に帰還することができた。
「でも、どういうことかしら、あたしたちを見ても誰も声をかけてこないんだけど」
「なんだか慌ただしくしていますね。一体どうしたんでしょうか」
「まあ、俺たちがいつになくボロボロだから、誰かわかっていなんじゃないのか?」
ガードンの言う通りかも知れない。
実際に、通りの向こうにいた男はこちらに向けて駆けてきた。
「やや、バドン様。お帰りになりましたか。待っておりました」
そこらを歩いていた大臣は僕たちに気づいたらしく、街に来てやっと声をかけられた。
「どうもダジーンさん。待っていたってどういうことですか? 何かあったんですか?」
「どうしたもこうしたも。いえ、それよりまずはみなさんの方です。バドン様ほどのパーティが一体どうしたのですか? そんなボロボロになられて。それにカイセイ様の姿が見えないのですが」
「それは……」
僕たちは互いに頷き合い、予定通り話を進めることを確認した。
黙り込み下を向く。
そんな、なかなか言い出さない僕たちに大臣はハッと息を漏らした。
「まさかやられてしまったのですか?」
「言いにくいのですが。はい。ダンジョンの47層は僕たちの想像以上でした。警戒していたのですが……」
「そう、ですか。冒険者は冒険の最中に死んでも仕方がないとは言え、バドン様たちがいながら、なおダメだったとなると今後誰が言っても望みは薄いでしょうね」
「ですが、いずれ最下層まで攻略して見せます。カイセイの仇を取るためにも、そして、魔王を倒すための何かを手に入れるためにも」
「ありがとうございます。民衆も安心すると思いますよ。帰りが遅く、ボロボロになっても生き残った勇者様ですからね」
「もちろんです。それで、その民衆は一体どうしたと言うんですか? 街の様子がおかしいじゃないですか」
僕の質問に、今度は大臣の方が言いにくそうにうつむき出した。
「まさか、魔王軍が攻めてきたんですか?」
「いえ、そうではないのですが、魔王軍に関することではあります」
「何があったんですか?」
「あれです。魔王城周辺の天候が荒れているのです」
「そんなのいつものことでは?」
「見てください。ここからでも確認できるほどの大荒れなんです」
大臣の珍しく出した大声に、僕はつられて指さす方を見た。
確かに、王都からも天変地異、嵐の様子がうかがえるほど、魔王城周辺が荒れているようだった。
「あれは?」
「わかりません。先遣隊を向かわせたのですが、まだ情報は入ってきません」
「なるほど、そういうことね。帰ってきたばかりでボロボロなあたしたちに、偵察に向かってほしいから言葉が詰まったのね」
「……」
返事がないところを見るとどうやら図星らしい。
「それくらいのこと。私たちなら受けて当たり前のことです。ねえ、バドン様」
「もちろんだ」
「そうこなくっちゃな。こんな事態に俺たちが向かわないで誰が行くってんだ」
「皆様。カイセイ様を失って心の傷も癒えていないでしょうに。なんて心強い」
「ここで足踏みしてたんじゃ。カイセイにも顔向けできませんからね。彼も勇者パーティの一員だったんですから」
「ありがとうございます。ありがとうございます。サポートは全力でさせていただきます」
大臣に頭を下げられ、僕たちは大臣と魔王城偵察の約束をしたことになってしまった。
本当は後一週間くらいは仲間が死んだことを言い訳にゆっくりダラダラとしたかったが、こうなっては仕方ない。
カイセイについて細かいことを聞かれなかったことをよしとして、向かうことにしよう。
「まずは準備からだな」
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