月と魔導書④
私は【暴食の魔導書】に魔力を込めてみるが、発動しない。
神器は魔導具とは違い、使用者の魔力によって具現化されているので、多少傷がつこうとも効果が発動しないなどと言う事はなく、一度消して再び生成すれば破損は修復される。しかし、【暴食の魔導書】は発動しない。ならばこれは……。
「……魔力の阻害効果」
「正解だ。俺の【半月の夜】の効果は斬り付けた物の魔力の流れを阻害する。魔導具を斬れば破壊し、人間を斬れば魔法を封じ、そして神器を斬れば効果を阻害する」
イーグレットは得意げに自身の神器の効果を語る。敵に自らの手の内を明かす悪手に見えるが、相手はイーグレットだ。一見すると理性を保っているのかと疑いたくなる今の彼だが、全ては私を倒す為の布石である可能性を捨て切れない。人間を斬った時の効果が魔法を封じると言っているが、最悪、魔力自体が操れなくなるかも知れない。そうなれば神器の生成どころか、身体強化も使えなくなる。あの神器は危険だ。
私は【暴食の魔導書】を魔力に戻して霧散させ、魔法で作り出した二振りの氷の剣を両手に構えた。
あの神器の効果の及ぶ範囲も不明だ。もう一度神器を生成して効果が発動出来るのか? 別の魔導書も効果を封じられているのか? 検証している暇も余裕も今はない。
「あっはっはっは!」
呵呵大笑の声を上げるイーグレットは、ハルバードを振り上げながら私との間合いを詰める。牽制で放つ氷の矢は急所に当たる物だけを斬り払い、瞬く間に肉薄したイーグレットが頭上高く掲げた刃を振り下ろした。その刃は咄嗟に交差させた氷の剣を最も容易く打ち砕き、私の肩から腹に掛けての肉を抉った。
「エリー!」
今まで意識の外に置いていたシスティアの叫ぶ声が聞こえる。不味い。集中が切れたか。
自身から流れ出る血で赤く染められた床にひざを突く。体が急に重くなり、背骨の代わりに氷柱を入れたかの様な気がして、全身が凍える様に寒い。
私の前に立ったイーグレットがいつの間にかハルバードの神器からシャムシールの神器に持ち替えており、それを満面の笑みで振り翳していた。
その刃の光とイーグレットの瞳の狂気が私に与えた感情は恐怖だった。
ブラートとの戦いやフリードの成れの果てを相手にした時にも感じなかった感情だ。コレが、自らの復讐に多くの民の犠牲を厭わなかった私への罰と言う物なのだろうか?
そうしてシャムシールは私の首へと振るわれた。




