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因縁②

 ハルドリア王国の精鋭達をリスティアードが召喚したレッサーデーモンに任せた私はフリューゲルを構えてジーク宰相に迫っていた。


「ふっ!」

「閣下ぁ!」


 精鋭騎士の1人がレッサーデーモンを無理やり振り払ってジーク宰相を庇う様に立ち塞がった。


「【震盾】」

「っ⁉︎」


 その構えた盾ごと斬り捨てようとフリューゲルを振りかぶった私だったが、精鋭騎士がスキルを使った瞬間、ピタリと斬撃を止める。

【震盾】は盾を細かく振動させ、敵の斬撃を受け流すだけの単純スキルだが、フリューゲルを相手にした場合は非常に効果的な防御になる。

 透ける程の薄い刃を持つフリューゲルは、僅かな衝撃で粉々に砕けてしまう。

 生半可な技量では素振りすら出来ない程繊細な武器なのだ。

 振動する盾など斬りつければ、フリューゲルの方が砕けてしまう。


「【氷弾】」


 至近距離から魔法を放つが、精鋭騎士は盾と剣で巧みに防ぎ、ジーク宰相は素早く私の死角を取ろうと移動する。


「しっ!」


 ジーク宰相が突き出す短剣を上体を反らせる事で躱す。


「ぐっ……」

「何をしている!殺せ!」


 僅かに隙を晒した私に、精鋭騎士は斬り掛かるべきか戸惑いを見せたが、すかさずジーク宰相が殺す様に命じる。

 娘に対して何の躊躇いも無い。

 昔からそうだった。

 何よりも効率を優先し、より多くを生かす為なら少数を躊躇いなく切り捨てる。

 為政者としてはとても正しい。

 だけれど……。


「切り捨てられる身にもなって欲しいわね」


 精鋭騎士の剣撃が迫るが、それは無視する。

 横合いから飛び込んで来たレッサーデーモンがその身で剣を受けて私を守る。

 更に数体のレッサーデーモンが精鋭騎士に群がって行くので、そちらは任せても良いだろう。


 ジーク宰相が短剣を連続で突き出すのを左手の肉厚な短剣で捌き、受け流した反動を利用し、体を半回転させる勢いを乗せてフリューゲルを振るうが、ジーク宰相は身をかがめてそれを躱す。

 流石に私の手をよく知っている。


「エリザベート、大人しく帰って来い。

 ブラート陛下とフリード殿下に謝罪すればお前を迎えてやる用意はある。

 指名手配の件を気にしているならば、新しい名も身分も与えよう。

 フリード殿下は今回の責任を取る形で表舞台からは退いて頂く事になるだろうが、殿下の第二夫人として婚姻を結び、王族としてアデル殿下に助力するんだ」

「…………話にならないわ」

「何が不満だと言うのだ」

「それが分からないから貴方は『王』になれないのよ。

 王を補佐する事は出来ても王として立つ事は出来ない」

「私は王になるつもりなど無い。王に仕える事こそが貴族の誉れ、私の誇りだ」

「誇りねぇ?無能を晒し、王国崩壊の危機に導いた愚王とその側近が随分と立派な事を口にするわ」

「ふん、煽っているつもりか?

 お前の様な小娘に心を乱される程耄碌してはいないぞ」


 ジーク宰相は会話を交わす中でも常に容赦なく急所を狙って短剣を繰り出している。

 ブラート王の武功に隠れ、軍師としての活躍の方が華々しく語られているが、ジーク宰相もまた、王国の精鋭を率いるに足る武人なのだ。


「【白霧】」


 私が魔法を使うと周辺の気温が一気に落ち、真っ白な霧が立ち込めた。

 その霧の中に身を隠し、不意打ちを狙っていると、ジーク宰相は目を瞑り集中しているのが分かった。


「正面から戦い手間取る様なら迷いなく搦め手を使う。

 全て私が教えた通りだな、だが…………そこだ!」


 ジーク宰相の短剣が、フリューゲルを上段に構え霧から飛び出した私の喉を貫く。

 その瞬間、喉から罅が走り、私の体が砕け散った。

【氷人形】を使ったデコイである。


「貰っ……」


 デコイの反対側、身を低くして飛び出した。

 ジーク宰相はデコイの方を向いている。

 このまま斬り捨てて終わり。

 そう思った私は、此方に向けられたジーク宰相が左手で握っている短剣を目にした。


「しまっ⁉︎」

「状況が完全に自分の策の通りに進んでいる時、最後のツメで僅かだが視野が狭まり、他の可能性を見逃す。

 お前の悪い癖だと教えただろう?」


 咄嗟に【暴食の魔導書】を出そうとするが、ジーク宰相の方が僅かに早かった。


「神器【氷牙】」




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