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大戦⑨

 ハルドリア王国の先鋒を追い払った2日後、新たに姿を見せたハルドリア王国軍はレクセリン砦に対して苛烈な攻撃を続けていた。


「よもやこれ程とはな」

「はい、一人一人の練度が高く、連携も巧みです」


 レクセリン砦の周囲で激戦を繰り広げる両軍を見ながらオーキストとルーカス。

 そんな2人の視界の中で、南側を防衛していた帝国軍の兵士達が10数人まとめて轟音と共に吹き飛ばされてしまう。


「何事だ!」

「て、敵兵の攻撃の様です。あ、アレは⁉︎」


 側にいた士官がオーキスト達へと報告を上げる。


「王国のランドル伯爵です!」

「ランドル伯爵……神器使いか」

「オーキスト殿下、私が出ます」

「分かった、任せよう」


 ルーカスは水を纏う槍を振り回して、周囲の帝国兵を薙ぎ払う壮年の男を止めるべく、城壁から飛び降りるのだった。



 ◇◆☆◆◇



 ハルドリア王国の将軍の1人であるファーマー侯爵は王国軍から選抜した精鋭達を率いて戦場の側の林の中で馬を走らせていた。


 率いているのは30人程、王国軍の基準では中隊程の規模だが、選び抜いた人員は全て冒険者で言うならA〜Bランクは有るであろう猛者ばかり、その上ファーマー侯爵の他にも2人、リモン侯爵子息と属国の貴族、合計3人もの神器使いが居る。

 1つの部隊の戦力としては明らかに過剰だが、例え帝国軍が行手を阻もうと、力尽くで薙ぎ払い補給線を断つにはこれくらいは必要だとファーマー侯爵は考えていた。


「っ⁉︎全隊、止まれ!!」


 林を抜けた瞬間、自ら先頭を駆けていたファーマー侯爵が愛馬を竿立ちにさせながら腹に響く声で号令を掛けた。

 次の瞬間、目の前を雷が薙ぎ払う。


「今のを躱しますか」


 上空から聞こえてきたのはまだ若い少女の声。

 頭上の巨鳥の魔物から飛び降り、ファーマー侯爵の前に降り立った少女は中央大陸では珍しい黒い髪に黒い瞳を持っていた。


「噂の『漆黒』か」

「わたしだけでは有りませんよ」


 そういう少女の背後から数人の冒険者らしき者達と帝国貴族に率いられた大隊規模の帝国軍が現れる。


 帝国貴族が手にしている懐中時計型の神器の能力だろう。

 これ程の戦力の気配を一切感じなかった。

 お陰でファーマー侯爵の率いる部隊は帝国軍の懐に飛び込んでしまったという訳だ。

 姿を隠したまま不意打ちをしなかったのは貴族としての誇り故か、はたまた神器の効果に制約でも有るのか……。

 何方にしてもファーマー侯爵のやる事は1つ、目の前の敵を食い破り任務を遂行する事だけだった。



 ◇◆☆◆◇



 レクセリン砦から少し離れた谷を静かに進む部隊が有った。

 率いているのはハルドリア王国の宰相にして筆頭軍師、ジーク・レイストンだった。

 ブラート王の腹心であるジークが連れているのはハルドリア王国の精鋭の中でもほんの一握りの強者であるブラート王の直率部隊の半数と国軍の精鋭100人だ。

 潜入の為に周囲の地形を事細かに調べ尽くしていた王家の影、4号を案内に、ファーマー侯爵を囮にする形で更に大回りをしてレクセリン砦の背後を突く様に移動していた。


「こちらです、ジーク様」

「ああ、この戦にあまり時間を掛けられなくなったからな。

 我々の作戦の成否が戦況を決めると心得よ」

「「「はっ!」」」


 ジークは4号の後に続きながら周囲の兵に告げる。

 王国でアデルが不穏な動きをしている報告が入った為、早急に戦に勝利し、王都へと戻らなければならなくなったのだ。

 アデルのクーデターの話はまだジーク達、ほんの一部にしか情報が回っていないが、知れ渡るのは時間の問題。

 兵達に動揺が広がる前に帝国に決定的な一撃を与えなければならない。


「っ⁉︎上だ!!」


 不意に頭上で巨大な魔力の膨らみを感じたジークが叫ぶ。

 優秀な兵士達は慌てず魔法を放ち、突然頭上に現れた巨大な粘液を吹き飛ばした。


「なんだ今のは?」

「はっ!どうやらスライムの一種の様です。

 それもかなりの高位種かと」


 鑑定魔法を使える騎士がすぐにジークに伝える。


「スライム……召喚魔法か?」


 油断なく防御隊列を組む部隊の中、ジークが周囲の魔力を探ると、崖の上、こちらを覗き込む様な岩場の上によく知った魔力を発見した。


 ジークがそちらを見上げると、そこに居たのはジークと同じ銀の髪と青い瞳の美女。

 その姿を見て、ジークは口を開く。


「…………久しぶりだな、エリザベート」




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