第十五話 あなたはいつも
「マスターは本当にお人よしですね。」
「そんなことない。君が私に相談すらしないからだよ。」
帰ろうとして修理をしている間にヴェルツバイを人間に変えておいた。私がヴェルツバイの頭を残したのはそこから人間を生成するためだ。あの大穴に近いこの研究所であれば現実性が著しく低下して、様々な不可思議な現象を起こすことができるとともにノームオイルの本質が現れる。
私はそれを利用してすぐにヴェルツバイを人間に帰ることに成功した。まあ、三日もかかったけれどね。
私たちは持つべきものをもって車に乗ろうとする。こいつが修理するのに時間がかかった原因である。本当に機械工学の分野ではあまり発揮できない。もともと生物学の専門だからね。
「ではお乗りくださいマスター」
「なんか吹っ切れた?」
「ええ、私ももうマスターのそばにいることに決めましたから。どんな道であろうとついていきますよ。」
「そうか、わかったよ。私についてきて必ず、いい世界にして見せるから。」
自信に満ち溢れた言葉にヴェルツバイは納得しているように見える。私が今、するべきことは帰ってみんなに無事であることを説明することだ。
「それじゃあヴェルツバイ、救都まで運転頼んだよ。私疲れたから寝るね。」
「ええ、ごゆっくりと、」
車の固い背もたれを倒して、横になる。そうするとだんだんと意識が薄くなっていき、すぐに寝ついてしまった。
「起きて下さい。マスター、検問で止められていますから。」
全身が痛いのだがそれを我慢してゆっくりと体を起き上がらせる。見渡すとちょうど入り口近くでこちらを見つめている門番が数人いた。それとともに私が顔を見せるとぎょっとした顔をしてこちらに駆け寄ってくる。
「すいません、あなたがシアハさんで間違いないですよね。」
「ええ、そうですが。」
「いえ、ありがとうございます。後で団長室に行ってあげてください。とても心配して落ち着きがないことが増えていましたから。」
「あ、ありがとうございます。」
そっか、団長でも突然私がいなくなったら心配でそわそわしてしまうのか。もっと、私を捜索してやる。みたいな感じかと思っていたけれど。まるでそれじゃあお母さんみたいじゃないか。あ。でもお母さんで会っているのか。ややこしいね。
「すいません、そちらの御方は誰でしょうか。」
「うーん。とりあえず私の顔に免じてここを通してほしいかな。彼が私を助けてくれたからさ。」
「そういうことでしたか。それではどうぞ救都の中へ。」
割とあっさりと中に通してもらえた。こんな変哲な嘘で騙せていいのかと思ってしまう。だけれども、裏を返せば私の信頼はある程度保たれていると。それと保たれているのは団長の威厳もだろう。
サクッとヴェルツバイが運転してくれて、救国騎士団につく。一週間もいなかったのだから相当懐かしく感じる。ここが実家のようにね。
車から降りて、ひとまず研究所に向かおうとしたときに後ろから誰かに抱き着かれてしまう。この飛び込み方は
「ルスベリー先輩!」
「よかった。生きていたんですね。」
振り向くと泣いて顔がくしゃくしゃになっている珍しい先輩の姿があった。それもそうだ、姿を消して音信不通、それも一週間もだ。死んだと思われていてもおかしくなかった。
「先輩、ただいまです。」
「はい、お帰りなさいシアハさん。」
しばらく抱き合った後にルスベリー先輩は何かを思い出したかのように走り去ろうとする。
「シアハさん、団長室に行ってくれませんか。団長が一番シアハさんのことを心配していたので。」
「わかりました。先輩は一緒に来ないんですか。」
「すいません、私は今するべきことがあるのでお待ちください。」
そう言って返事も待たずに先輩は駆け出して行ってしまった。いったいどうしたものか。そうして私は虚無に話しかける。
「ヴェルツバイ、なんで隠れていたの。別にいいじゃん」
「そういうわけにはいきません。感動的な再開に部外者はいらないのですから。」
「ふーん、でも団長の時は必ず出てもらうからね。」
「わかりました、マスター。」
照れ屋なのか、本当にばれたくないのかどちらかわからないけれど。どうにかしてヴェルツバイをこの救国騎士団の一員に入れておきたい。ついでに私の助手になってもらおう。
そう考えながらも団長室の目の前まで来た。いつもより団長室の扉が重く感じられる。だが、その重さに反して開ける速度は速かった。
「しつれいします。団長。」
「シアハ!どこにいたんだ。本当に心配したんだから」
抱き着いてくる彼女を優しく包み返す。団長のほうが圧倒的に背が高いから包み込まれているのは私なんだけれど。だけれど団長はすぐに離れてしまった。そして真剣な顔つきに戻り、ヴェルツバイをじっと見つめている。
「さて、君は何者かね。」
「おっと感動的な再会を邪魔しないように自己紹介を遅らせたのがよくなかったでしょうか。私はヴェルツバイと申します。」
「なるほど、シアハとはどんな関係か。」
「それは私から、ヴェルツバイは私の昔々の助手だね。」
その言葉にさらに団長は険しい顔になってしまう。それもそうか、古代の人間がなんで今まで生きているのかって話になるから。
「これは失礼。マスターちゃんとお話ししたほうがいいですよ。私はマスターによって作られた人造人間ですから。」
「過去のシアハは人間を作っていたのか?」
「そんなことありませんよ。たまたまできてしまった副産物とでも思っていただければよろしいです。それに助手はほかにもいましたから。」
「その話、ひとまずは信じようか。」
団長がヴェルツバイによって何かを話している。小声で何を話しているのか聞こえないがヴェルツバイはニコニコした状態で聞いているから何を言っているのかさっぱりわからない。
「ええ、グラージスさんその契約必ず守りますよ。」
「ならいい。」
そんな会話をした後に、扉が開いてルスベリー先輩とラニウリさん、ドークスさんの声がして振りかえる。だけれどそこには一人多くて、私にはとても信じがたくて。
「ねえ、シアハさん、こんな時なんて言えばいいかわからないですが。お久しぶりです。」
「メイール」
私は彼女の手を取って、そのままな泣き崩れた。まさか、彼女が生き残っていたなんて、まだ一緒にいられるなんて。神がいるとは思っていないけれど、神に感謝したくなるほどの感激だった。
「団長、彼女を私の助手にしていい?」
「ああ、いいぞ。もとからそういう話だったからな。」
ここまで読んで下さりありがとうございます!!!天使シアハの物語はここまでです。今後は違う作品を書いていくと決めているのでよければそちらもよろしくお願いします。




