第十話 私はきっと。
ガベーラントに追いついてからどこに行くか聞いたら食堂に行こうとの話だった。空を見上げるともう夕方の日差しになっていて、ゆっくりと暗くなっていくのは久しぶりに見た気がする。前はほとんど外を見ることがなかったから立ち止まって見てしまった。
「シアハ。どうした?飯食べに行こうぜ。食堂はすぐに着くからさ。」
「うん。ちょっと感傷に浸ってたかも。」
「まあ、なんだ。飯食えばそんなの吹っ飛ぶぜ。早く行こう。」
悲しみに暮れるのはあまりよくないとわかっているもののそうなってしまうことは避けられない。今はただ、ガベーラントの言葉はよくしみると心から思う。
「そうだね。行こうか。」
そう言ってしばらく敷地内を歩いていたところで人だかりがある場所を見つけた。そこの建物からは煙が出ていて、よく見ると人だかりなのは食堂が満杯で待っているところだと思った。なんせもうみんなご飯を食べたい時間帯なのではと考える。けれど、これどうしようか。
「あら?....今日はもしかして。」
「ウワー。今日、デザートが特別になっていて先着の日じゃねえか。オワタ」
急に膝から崩れ落ちてそう言って悲しんでいる。まあ、おいしいごはんには人が集まるのは仕方ないよね。うーんでもどうやってご飯食べようかな。
「仕方ないですね。ガベーラント。いつものところに行きましょうか」
「ああ、しゃーないな。行こうぜ。」
「どこに行くの?」
いつものと言っているからどこかのご飯を食べる場所に連れて行ってくれるのかと思ったのだが。
「行きつけのパン屋ですわ。この時間帯になればほとんど人がいないうえによく店主に安く売ってもらっているので」
「早く行こうぜ。」
そう言って手を引かれて歩き出す。まさか、敷地の外に連れて行ってくれるとは思わなかった。けれど、いいことになったと思う。一般人の雰囲気やどんな人が居るかを見るにはちょうどいいと思う。それに、ここだけではなくいろんな場所に行って、判断材料を増やす。必要があるかはわからないけれどあとはもう。
他愛もない話をしながら、門を出る。特に、門番に止められることもないからきっと大丈夫なのだろう。救国騎士団から見た都市とは一手変わって、美しかった。白い大理石のようなものを削って作ったのか。それともきれいな塗料を使ったのかはわからないけれど、整えられた白い建物に夕日が当たって美しく見えた。
市民の様子を見るけれど、まったくもってこちらを珍しがらない。と、いうより亜人を珍しがらない。結構、人間では持てない動物的な特徴を持つ亜人が居て、私が浮いているようには見えない。けれども、光輪と羽を持つ人は珍しいのかこっちを見る人は結構いる。
「こちらを見る人が多いですわね。シアハさんが可愛いからでしょうか。」
「んえぇ!」
「まあ、子供に見えなくはないな。」
「ちょっと!」
ぬぬぬ。可愛いと褒められることは嬉しいのだが、子供に見えると言われるともう、大人に近づいてきた年齢なはずなのにそんなにちんまりしているのかな~?二人ともニコニコでこちらを見ている。ぬぬぬの顔が変に見えたのかちょっとした笑いに包まれた。
そんなことからちょっとしたときにパン屋らしき建物に着いた。大きく看板でわかるようになっており、夕方にもかかわらずぽつぽつ人が居た。
「あいよー。店主さん。余ったやつくーださい」
「お、ガベーラント。ちょっと待ってくれないか。」
大柄の男性がそう言って裏に戻っていく。呼び捨てにされていることから結構来ていることがわかる。しばらくもしないうちに裏から店主と呼ばれていた男が戻ってきて袋をもって出てきた。
「ガベーラント。珍しくお友達を連れてきているじゃないか。」
「おうよ。ちょっと事情があるからな。」
「まあなんだ。がんばれよ。」
そう言ってガベーラントはお金を出してくれた。大きめの袋を受け取って、ほかの邪魔になるから早く外に出ようとのことだった。買ったのはいいのだけれど、どこで食べるのだろうか。あとお金出してもらったのはちょっと悪い気になってしまう。でも、ここに来たばっかの私には出せるお金なんてないけれどね。
「早く行こうぜ、パンを食べるのにいいところがあるんだ。」
「そうですわね。あなたがいつもサボるときに行くところがありますから。」
「おっと、それはいわないお約束だろ。」
そう茶化すようにアネモネに言っているけれど、サボるのはよくないよ。とは思うが言葉にするのにはとどまった。そんな話をしつつ、ガベーラントに導かれて付いたのは見晴らしのいい公園だった。
外と同じように木が生えていたり、整備された花畑があったりと案外手の届いているところだった。
「ここはな。あんまり知られていないけどいいところなんだぜ。」
そう彼が言っているところからの景色は最高に美しく、儚さが伴う景色だった。そこから見下ろすは街並みの景色だったのだが、夕日に照らされた白い町並みには夕焼けの色に染まって、そこからまるでこれから夜に溶け込んでしまうのではと錯覚させるようだった。
「ここはいつ見てもいい景色ですわね。」
「そうだな。まあ、飯食べようぜ。」
「そうですわね。」
そう会話している彼らはなんだか恋人のように見えてしまうけれどそう言ったら多分否定するだろうなという雰囲気すら感じられる。ガベーラントが袋をまさぐってこちらにパンを差し出してくる。私はそれを受け取ってから夕日とともにご飯を食べた。
今日一日を振り返ってみるといろんなことが起きすぎた。大事な決断は明日の朝にしよう。そうしよう。今はただ、この時を満喫していたいと心から思う。
「じゃあ、今日は一度ここまでにしましょうか。客室に案内しますよ」
「うん、ありがとね。アネモネ」
「気にする必要はないですわ。」
日が落ちてガベーラントと別れてからアネモネが客室に案内してくれた。今日はここで休んでほしいとのことだった。まあ、まだどこにも所属していない人間だけどなんか妙に待遇がいいと感じることがある。
「では、おやすみなさいシアハ。」
「うん、おやすみアネモネ」
別れの挨拶をして彼女と別れて私は部屋に入る。結構つくりはよく、ベッドに机に、観葉植物にソファーがあってとかなり充実していると思われる。帝国なんてベットだけとかだったこともあったし。
それにしても、私は何を救国騎士団に入ってしたいのか。それはまだ決め切れていない。それがなければ入る動機にすらならないとわかっているから。でもね。これほどまでにノードに侵されていてノードによる悲劇、ノームオイルからの厄災に苦しめられている人がたくさんいる中で私の知識を組み合わせて何とかしたいと思う気持ちもある。
これまでのことを日記に書いてしまおうと思って、ノートとペンを買ってもらった。万が一、また記憶が消えた時にはこれを読めば問題ないと思える出来にしたいな。




