第48話 報復の刻
三国時代234年 〜成都〜
話は前世に遡る。
諸葛亮が五丈原で病に倒れ、そのまま天命を全うしたという報を受けた月英は、その後、姜維から送られてきた書簡を読んで全てを察した。
姜維からの文にあった『延命の儀式に失敗した』という記述に注目し、諸葛亮は亜空間へ飛ばされたのだと理解した。
おそらく儀式に失敗したということは、祈祷術式が暴走したのだろうと推測。
そして、術式が暴走する際に出現する次元の渦に飲み込まれた先が、三界へと続く六つの道であることを解き明かす。
さらに六つの道、すなわちSixRoadと現世をつなぐゲート型魔法陣を自ら創造した月英は、それを利用して諸葛亮が飛ばされたSixRoadへと渡ったのであった。
SixRoadで月英は亮は再会を果たした。
これこそ才女と名高い月英の知られざる能力によるものであるが、それ以上に夫である諸葛亮に生涯付き従うと決意した信念と並外れた精神力が生み出した結果である。
こうして、月英と亮の一度目のSixRoadのチャレンジは始まったのだが、3つ目のRoadを渡ったここ『餓鬼道』で失敗した。
その元凶となるのが、元貧民街を狡猾な手口で奪い取ったアサカーなのである。
この街を手中に収めたいアサカーは、諸葛亮を排除するために罪のない街の住人達を暴力で脅し、恐怖を植え付けて手駒にした。
住民達を刺客にするために彼らの家族を人質に取り、諸葛亮と月英の命を狙わせた。
失敗すれば人質を見せしめとして殺す行為を何度か繰り返した。
素人の刺客などに遅れを取る諸葛亮ではなかったが、自分のために無駄な血を流させるアサカーの卑劣な行為に終止符を打つため、彼らの命と引き換えにして、月英と共にこの街を去った。
その後、Roadを渡り歩くうちに諸葛亮と月英は命を落としてしまう。
諸葛亮と月英の魂は長い時間時空を彷徨い、二人はそれぞれ転生して、二度目の“渡り人”となった。
あれから、どれだけ時間が流れたのであろうか。
だが、どれだけ時間が経とうと、月英はアサカーとその仲間への報復を忘れることはなかった。
そして、今ようやくその決意が成就する時が来た。
現在 〜二度目のSixRoad 餓鬼道〜
元貧民街。月英にとっては因縁の地である。
宙に浮かんだままの月英は、集会所跡地にやってきた三人の男たちの前に姿を見せる。
「アサカーさん、夜中に出歩いては困りますよ。おかげで二度手間になりましたわ」
氷のように冷たい微笑みを浮かべた月英が語りかける。
「な、な、なんだ、お前はぁ、アンデッドどもの親玉か?」
「あら嫌ですわ、私は女神・・・様に仕える者ですよ」
「何をふざけたことを言ってやがる! お前がこれをやったのかぁ!」
怯える気持ちを抑えるように声を荒げるアサカーが大穴を指差す。
「だったら・・・なんだと言うのですか?」月英の眼光が鋭く光る。
「ひぃぃー! ちょっと、あんたたち助けてくれよぉ〜!」
アサカーは臨戦体制をとる二人の男に懇願する。
「・・・関係ないな」
黒いフードの男が戦闘モードを解除して冷たくあしらう。
「どうやら、俺たちには関係なさそうですよね」
鈴懸姿の男も戦う意思のない姿勢を見せる。
「おいおい、ちょっと待ってくれよ! あんたたちはこの辺りじゃあ敵なしの強者だろう、金ならいくらでも払うからよぉ、マジで助けてくれよ!」
「あの美人のお姉さん、用があるのは、あんただけみたいだぜ。アサカーさん」
鈴懸姿の男がアサカーを突き放す。
「そちらのお二人は察しがよろしいようで何よりですわ〜。私が会いたかったのは、そこの図体が大きいくせに根性のないダサい男だけですわ。ですから、お二方はどうぞお引き取りを〜」
月英は穏やかな口調で敵意のないことを告げた。
「おい、あんた達、まさか俺を見捨てるのかよ!!」
「時間がない。急ぐぞ」
黒いフードの男はアサカーの言葉を無視して、消えるように離脱した。
「お前、相当悪いことしてきたんだろう。そろそろ罪を償うべきじゃねえの」
鈴懸姿の男もそう言い残して姿を消した。
「ところでアサカーさん、私のことを覚えていらっしゃるかしら」
「俺はあんたみたいな化け物なんか知らねえよ」
「化け物? だから私は女神様・・・にお仕えしているって言ったでしょう。あなた、記憶力がないの? 私の顔をよく見てごらんなさい」
すっかり怯え切ったアサカーは言われるままに月英の顔を見る。
「・・・あっ、お前は、確か・・・孔明の女・・・お前、生きていたのか・・・」
「あらぁ、ちゃ〜んと思い出せるじゃないですか、脳みそは小さくてもそのくらいの記憶力はあるのね。良かったわぁ」
「お前、この街を消滅させるつもりなのかよ!」
「何を言い出すのかと思えば、何か勘違いしているのかしら」
「勘違いだとぉ、ここにあった集会所を消し飛ばしたのはお前なんだろう? まだ破壊するつもりなんじゃあねえのかよ!」
「何故、私がこの街を消さなければならないのかしら・・・元々この街を住みやすくしてあげたのは孔明様と私なのよ。それを破壊するだなんて、そんなことするわけがありませんわ」
「じゃあ、なんでここを消し飛ばしたんだよ!」
「決まっているじゃありませんかぁ。あなたを魂もろとも消し飛ばすつもりだったのよ。あなた、素直にこの建屋にいてくれたら良かったのに、二度手間になりましたわ」
「えっ!? おいおい、狙いは俺なのか?」
「そうですわよ」
「待て、待て、待ってくれよ! 見逃してくれよ。今までこの街をアンデッドどもから守ってきたのは俺なんだぜ。俺がいなくなったらこの街は誰が守るんだよ」
「あら、他所者にこの街を引き渡そうとしていたようですけど、そんな輩のくせに、よくそんなことが言えますわね」
月英は再び、右手を天に突き上げる。
「それは誤解だ! あいつらがこの街を狙っていると分かったから、それを逆手に取って信用させたところで闇討ちするつもりだったんだよ。この街を守るためなんだよ」
「上手いことを言いますわね。なかなかな素晴らしい言い訳ですがそんな嘘は通じませんわよ」
「本当なんだよ、信じてくれよ!」
「そんな話はどうでも良いのよ。私は、あなた達が孔明様にした仕打ちを思い出してしまって、怒りが込み上げてますのよ」
月英が振り上げた腕全体に月光のエネルギー波が満ち満ちている。
バチバチと音を立てて、今にも弾けそうになっているのが明らかだ。
「ちょっと待て! この街はお前らに返す。好きなようにしていいから、な、だから見逃してくれよ! なんなら、あんたちの前に二度と近づかないし、逆らわないからよぉ」
目の前の重圧にすっかり怯えながらも、必死に命乞いを続けるアサカーは、いつの間にか土下座スタイルになって懇願している―――。
が、そんな姿を曝け出されても月英の心には1mmも響くことはなかった。
「言い残すことは、それだけかしら。もう時間がないので、せめて苦しまずに綺麗に消し去ってあげますわ」
「ええーーっ!!」
月英の右手がアサカー目掛けて振り下ろされた。
―――月光一閃!
月英の右手から放たれたエネルギー波がアサカーを貫く。肉体が黒い粒子となって空気中に溶けて跡形もなく消え去った。
「はあぁ〜、ようやく胸の支えがなくなって、スカッとしましたわ〜」
絶対凍土のような冷たい表情が消え去った月英は、高ぶる気持ちを抑えて正門の方角を見つめた。
「急いで孔明様のもとへ向かわないと」




