第47話 急襲返し
元貧民街 集会所前広場
宙に浮かび上がった月英の表情はゾクッとするほど冷たく感じる。
地上からその姿を見つめる冲也、達也の二人は、その凍るような殺気を感じ取っていた。
それと同時にこの場を離脱する判断をした二人は、アキラを連れて、広場から出来るだけ離れようと一目散に駆け出した。
そこそこ離れた辺りで、民家の脇に身を隠すように座り込んだ。
「おい冲也、月英はいつからあんなに恐ろしい気を纏っていたんだ?」
「それは俺が訊きたいくらいだよ・・・でも、正門から集会所に向かう辺りから、なんだか冷ややかな憎悪のようなものを感じた・・・ような気がする」
「確かに集会所に着いた時には、何かそういう気を感じたかもしれんな。ただ、俺たちに向けたものではなかったから特に気にも留めなかったのだがな」
二人の真横で黙って聞いているアキラは、凍えているのかと思うほど身震いしている。
「そんなに震えて大丈夫かい? まるで漫画のような震え方になってるよ」
アキラの肩をポンッと叩いて冲也が言った。
「さっきまでは。アサカーたち自警団の連中を恐ろしいと思っていたんですが、あの女神様の怖さはちょっとレベルが違い過ぎますよ。あんなに恐ろしい気を放つなんてアサカー達はどんな天罰を受けるのでしょうか?」
「・・・天罰かぁ、そういえば、自警団の話になると月英さんの表情や言葉の温度が変わっていた気がするなあ。アサカーって奴は、かなり恨まれているみたいだな」
「ああ、確かに自警団の話になると、奥方の気が鋭くなっていたのは、俺にもわかったが、ここまでとはなあ。アサカーというのはバカな奴だな! よほど空気が読めない輩なのだろうな! 女性をあそこまで怒らせるのだからロクでもないのはわかるが、これほどとはなあ・・・バカめ!」
「達也、君は他人のことは言えないと思うんだけど・・・」
冲也が達也にツッコミを入れた。
月英は、月灯りを全身に吸収して真っ白に輝き出すと、彼女の光が夜空から街中を照らしてゆく。
「すごいな! こりゃあスタジアムのナイター設備のようだぞ」
月英が振り上げた右手を集会所に向かって振り下ろす。
『 ー滅ー 』
月英が纏っていた月光が一直線に集会所へ伸びてゆく。
ーー BOOOO UM!!! ーー
凄まじい爆裂音が街中に轟いた。
その後、街中を照らしていた眩しい光はおさまり、街は再び闇夜に包まれた。
三人は宙に浮かぶ月英を確認するが、夜空にその姿がない。
慌てて、集会所へと歩を進めると、集会所そのものが綺麗に消えて無くなっている。
さらに近づいて行くと、そこには大きなクレーター状の穴があるだけだった。
三人は、クレーターのようになった集会所の跡地を見つめながら、月英の攻撃によって集会所が一瞬で消え去ったことを理解した。
「これはまた・・・ハンパないねえ」
「奥方がやったのだよな?」
「・・・・・・」
しばらくボーっと眺めていた三人の前に月英が現れる。
その表情はいつもの優しげなものだ。
「どうやら集会所内にアサカーはいなかったようですわ。でも、自警団の連中は全て消し飛ばしたので、敵はほぼ壊滅したはずです」
「月英さん、この物凄い力はいったい・・・」
「詳しく話している時間がありませんので、皆さんは正門へ戻ってください」
「おお、そうだったな! あまりの衝撃に失念しておった。正門へ急ごう!」
達也の言葉を合図に三人は正門へと駆け出して行った。
三人を見送った月英も何者かの気配を感じ取ったのか、後方へ振り返りながら再び宙へ舞い上がった。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
月英が気配を感じ取った方角から、闇夜に紛れて近づいてくる3つの人影があった。
集会所跡地へと近づいて姿を現したのは、先頭に大柄な男、続いて黒いフードを被った男、黒い鈴懸姿に黄色のバンダナを巻いた男の三人。
そしてクレーター状の大穴を確認した三人は呆然と大きな穴の前で立ち尽くしている。
「これはどういうことだ? これは建物ではなくてクレーターだぞ!」
鈴懸姿の男が前に立つ大柄の男に問う。
「わからん! 俺が聞きたいくらいだ。ついさっきまで俺はここに・・・あった建物にいたんだぞ」
そう答えて、両膝を土につけた。
「さっきの閃光と爆発音か・・・」黒いフードの男が呟いた。
「何者かの攻撃ですよね。しかし、こんなことが出来る奴って、いったいどんなバケモンだよ」
「これでは、どうにもならんな。計画を変更するしかないだろう」
「こいつはどうしますか?」黒い鈴懸姿の男が両膝をついて項垂れている大柄の男を目線で示す。
「恐らく、本隊の方でも、ここにあった次元の狭間が消滅したことを察知しただろうな。次の候補地に急ぐ必要がある」
「ですよね。じゃあ、こいつは放っておいて合流しましょう!」
「えっ!? ちょ・・ちょっと待ってくれよ。俺をお前らの仲間に加えてくれる約束だろうが! だからお前らを街の中に誘導してやったんだぞ!」
「お前の取引条件だったこの場所が無くなったんだぜ。どの道、お前なんかじゃあ足手纏いにしかならねえから、ここでお山の大将でも続けていた方が身のためだぜ」
「お前ら、この街が欲しかったんじゃねえのかよ!」
「この街に興味なんかねえよ! ここにあった次元の狭間に用があったんだよ!」
「ちょっと待ってくれよ、よくわかんねえけど、っつうか、こんな攻撃をする奴が、まだどこかにいるんじゃねえのか? お前ら、俺を助けてくれよ、頼むよー!」
両膝を地につけていた大柄の男が黒いフードの男の足にしがみついた。
その時・・・。
「やっと、見つけたわ」
宙に浮かぶ月英が月灯りを背にして、三人の男たちの前に現れた。
「ひいぃー、なんだお前は・・・」
夜空を見上げた大柄の男が驚きのあまり、悲鳴のような声をあげた。
黒いフードを被った男と鈴懸姿の男の二人も臨戦体制をとる。
「ようやく借りを返せるわ、アサカー」
正門
小町の怒りの詠唱によって召喚された五体の死霊軍団が、シュウユ・タウンの部隊の前方に浮遊する死霊に襲い掛かる。
「前に呼び出した時はゾッとしたけど、よく見れば可愛いじゃないの! さあ、私の死霊たち、あんなヘッポコレイスなんかやっつけちゃいなさい!」
小町の死霊は黒いコアを真っ白い気体のようなもので覆われているのに対してシュウユ・タウンの方は、赤い気体を帯びているように見える。
小町の死霊たちは、圧倒的な力の差で敵の赤い死霊を消滅させていく。
「さすがは、私の僕よねぇ〜。あっという間に蹴散らしてやったわよ!」
小町が誇らしげに腕を組んで、亮を見遣る。
「で、次は何をすれば良いのよ?」
「さすがは、大町さんですねえ!! 素晴らしい力ですよぉ。しかし、敵の中央にいる男ですが、あの男は少し厄介な相手ですから、少し様子をみましょう」
「あら、亮、あなたは私の方が劣っているとでも言いたいのかしら」
「それは違いますよ。圧倒的に強いのは大町さんですから、ここは余裕を見せるのも敵に強さをアピールする良い方法だと思いましてね」
そう言いながらも、亮の視線はシュウユ・タウン部隊の中央にいる男を捉えている。
よくみると赤いソフトスーツ姿のその男も亮を真っ直ぐに見据えている。
「確かに余裕を見せるのは強者の証みたいなものよね」
小町がそう言いながら、死霊たちを呼び戻すべく念じた。
小町の死霊たちは小町に吸い寄せられるように退却した。
突然、街の中央付近が眩しい光に包まれた。
その光を見たシュウユ・タウン部隊がざわつき出す。
史龍、小町も光源の方を振り返る。と同時に激しい爆裂音が鳴り響いた。
「うおっ!! なんだこりゃあ」
「きゃあーっ!!」
思わず悲鳴をあげてうずくまる小町の隣で、亮が額に手を当てた。
「月英・・・やっちゃったようだね」




