第46話 急襲! シュウユ・タウン軍
闇夜に乗じて冲也・達也・月英のチームがアキラの案内のもと、集会所に屯するアサカー自警団へ向かった。
アキラの諌める言葉を無視して、冲也と達也は集会所前の広場に躍り出ようとした。
しかし、何かの異変を察知した月英が二人を制止した。
二人は、その声に反応して振り返った。
「月英さん、何かあったのかい?」冲也がふりむき様に訊ねた。
「どうやら、予定よりも早く東南の風が吹いたようです」
「東南・・・のですか?」
「そのせいで時間がない状況となりました。お二人は急いで正門へお戻りになって!」
「ここまで来て、ですか? 言っている意味がわからないですよ」
「どうやら予定よりも早くこの街に現れるようです」
「奥方、いったい何が来ると言うのだ」達也が首を傾げている。
「達也はさっきの話を聞いていなかったのかい? ここに来るってのは、この街を狙っている別のコミュニティの奴らってことだよ」
「冲也さんのおっしゃる通りですわ」
「おいおい、そんなに早くここに攻めてくるなんて聞いてないぞ」
「確かに意表を突かれたよな」
「俺も驚きました。そいつらがこんなに早くこの街に押し寄せてきたなんて・・・よりによって、今夜だったなんて」アキラの顔が硬直している。
「ですから、少しだけ作戦を変更しますわ」
「月英さん、変更とは?」
「今から私の秘術をお見せしますから、お二人はお下がりになってください」
月英はそう告げて夜空に舞い上がると、何かの詠唱を始めた。
「- thgiliwt eht ot emocleW - thgiliwt eht ot emocleW -」
地上の三人は、夜空に浮遊する月英を見上げた。
月光を全身に浴びながら、何か大きなエネルギーの塊のようなものを練り上げているように見える。そして、そのエネルギーの塊はみるみる巨大化していく。
「おい、あの光の塊・・・なんか、ヤバくないか」
「うむ、凄まじい力の波動をビリビリと感じるぞ!」
「ヤバい・・・ってのは、どういう・・・ふうに?」
アキラが少し青褪めた表情で訊いた。
「それはな、少しここから離れた方が良さそうだってことだよ」
冲也の言葉を合図に三人は集会所から離れるべく後方へ駆け出した。
三人が走り出したことを察知した月英は、大きく振り上げた右手を集会所に向けて振り下ろす。
ムーンライトボム――
――正門前――
同じ頃、シュウユ・タウンの侵攻軍は、元貧民街を急襲するべく、街の手前約1Kmほどまで迫っていた。
シュウユ・タウン部隊が街の手前まで迫っていることを察知していた亮は、小町と史龍を伴って街への唯一の入り口である正門に待機していた。
門番に扮して、襲撃を待ち構えていると、地響きのような騒音。その音が徐々に地鳴りのように大きくなった。
どこかの一軍がこの街に向かって来ていることは最早明確だった。
史龍は、その方角を見据える。
しかし夜の闇に視界が遮られて、遠目が利かずに向かってくる部隊がどの程度の規模なのか想像がつかない。
「亮、こっちに押し寄せてくるのは、さっき話していた奴らだろ」
「その通りです。しかし、このタイミングで襲撃してくるとは・・・」
「ちょっと待ってよ! 今なの? もう来るの? まだ心の準備が出来てないわよ」
「いや〜、思ったよりも早かったですね」
小町が慄きながら訪ねたのに対して、亮はたいしたことではないと言わんばかりの表情で答える。
その平然とした態度にイライラがMAXになる。
「くぉのーー! あなた、なんでそんなに平然としてられるのよ! すぐそこまで敵が押し寄せてるのよー!」
小町の叫びが闇夜を切り裂いた。
「まあまあ、そんなに興奮しなくても問題はありませんから」
「はぁーーあ? どこが問題ないのよー! 問題大ありでしょーがあ!!」
――Bark at the Moonが発動した。
史龍が、亮と小町の間に入る。
「おい、お前、もう立派な姿に変身してるぜ! 亮が言った通り、その姿だったら全く問題ないだろう」
「ええーーっ!? また狼になったの・・・なんで可憐な私が化け物なんかに変わってしまうのかしら・・・まあ、いいわ、こうなったら自分の身は自分で守るわよ!」
白銀の毛並みが月夜に照らされて輝いて見える。
「それでこそ、狼女ってもんだぜ。それだけの威勢がありゃあ大丈夫だな」
「ちょっと、誰が狼女よぉー! ツンツン頭のくせにーー!」
「まあまあ大町さん、頼りにしていますよ。今のあなたは美しいだけではなくて神々しさまで兼ね備えていますから問題ありませんよ・・・では、前方の部隊に集中しましょう」
亮はそう言って、正門の上から真っ直ぐに続く道の先を見据えた。
ほどなくして、三十騎ほどの騎馬隊が闇の中から現れた。
「あれがシュウユ・タウンの奴らか」鋭く尖った闘気を帯びた史龍が呟いた。
シュウユ・タウンの部隊は、正門手前50メートルほどの場所で一斉に足を止めた。
突然、中央にいる指揮官らしい男が竪琴を掻き鳴らす。
すると竪琴の音色に呼び出されるように、男の周囲に三体の死霊が出現した。
「おいおい、あれは小町が呼び出したのと同じような奴らだぞ」
「そうですねえ、あれはまさしく死霊ですよ」
三体の死霊が亮たちに襲い掛かろうと向かってくる。
「気をつけろよ! こっちへ向かってくるぞ!」
「大町さんも死霊を召喚してください」
「えっ、召喚って言われても、やり方がわからないわよぉ〜」
「いいですか、落ち着いて聞いてください」
「いいから、早く教えてよぉ〜!」
「先ほど、達也くんが大町さんのことを“ゴリラ女の馬鹿力があれば何も恐れることはない”と、そんなことを言っていました」
「なんですってえぇぇー! 誰がゴリラ女なのよー! おまけに馬鹿力ですってえー! あのハゲーー! 私をなんだと思ってるのよ、ムッカつくわねー!!」
プツッ!
小町の体のどこからともなく堪忍的な袋が切れる音がした。
怒りの詠唱が発動した。
――死霊召喚
「こうなったら、アンデッドにはアンデッドで対決してやるわよ! 私の創り上げた死霊軍団が相手をしてあげるわよ! そして、覚えてなさいよ、あのハゲーー!!」
五体の死霊が召喚された。
それと同時に少し離れた集会所の前にいた達也の背筋がゾクッとなった。
「達也くん、ありがとう。そして、ごめんなさい!」
亮の感謝と謝罪の言葉は達也に届くことなく夜空に溶けていった。
「おいおい、俺の出番がないぞ」
浮遊する死霊を見ながら史龍が呟いた。




