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第45話 襲撃10分前

 再び、人狼(ワーウルフ)の姿になった小町を目の当たりにして、絶句したアキラは、腰を抜かしたように尻餅をついた。


 それを見ていた亮は、笑いを堪えるような表情で、アキラに手を差し出した。

「アキラくん、これが彼女の能力です。もちろん、見た目だけではなく、戦闘力の高さは、あなたの想像以上だと思いますが、それも確認してみたいですか?」


「い、いえ、それは・・・結構です。十分です」

そう断ってから亮の手を取って立ち上がった。


「それは良かったです。彼女の戦闘力まで見せろと言われたら、この小屋は跡形もなくなっていたでしょうから」


「はい・・・だいたい想像つきますから・・・」

アキラは相変わらず、目が点になった状態で答える。


「彼女の凄さを理解していただいたようですし、アサカーたち自警団を一網打尽にする準備が整いました! さあアキラくん、アサカーたちのいる場所まで案内をお願いします」


「わかりました」

得体の知れない小町、そして他の強そうな野郎たちの存在は頼もしいと感じながらアキラは了承した。


 しかし、アサカーたちの狡猾さや外道ぶりをよく知っているため、一抹の不安が残る。だが、こうなれば、もうやるしかない、この好機を逃すわけにはいかないと考えた。


「では、皆さんも早速」

「ちょっと待てよ、亮!」スタートの合図を史龍が遮った。


「あっ、ごめんなさい。史龍くんの役割を伝えていなかったですね。僕としたことが失礼しました」


「おいおい、俺だけ何もしないで指でも咥えて待ってろなんて言わねえだろうな! 俺もその輩どもを襲撃させろよ!」


「先ほども話した通り、史龍くんには別の役割がありまして」

「俺は今、イライラを発散させたいんだよ!」

「お気持ちは少しだけわかりますが、史龍くんにはこの作戦の要となる重要な役割を担ってもらいたいんですよ」


「チッ! 俺じゃねえとダメなのかよ!」


「この作戦が上手くいくかどうかは、史龍くんの立ち回り次第ということです」

「何をやるのか俺は全く知らないっつうのに、俺がそれを上手くやることが前提になってるぞ」

「史龍くんが一番適任なんですよ、わかってください」

「お前、俺の話を聞いてねえだろ・・・」

「史龍くんがやってくれると信じてますから」


「わかったよ! やればいいんだろ、で、俺は何をすればいいんだよ」


「はい、史龍くんには、小町さんの護衛を兼ねて一緒に行動していただきます」


「「――――ご・え・いーーっ!?」」

史龍だけでなく、小町まで同時に驚く。


「ちょっと待てよ・・」

「亮! あなた、何を言ってくれてるわけー!!」

史龍のツッコミを遮って、小町の文句が押し寄せた。


「そう言われるのは想定内です」冷静に返す亮。


「想定内ですってぇー! どこが想定内なのよ、私は全く想定していないわよ!」

「俺もだ・・・」

「あなたは黙ってなさい! 今、私が文句を言ってるんだからーっ」


「まあまあ、お二人とも、少し冷静になりましょうよ。僕の話を聞いてください」


「まーったく、いつもいつも、涼しい顔してとんでも無いことを言うわよね」

「本当だぜ、そこはお前の言う通りだ」


「二人とも息がピッタリあってきましたね。その調子ですよ」


「クッ・・・ちょっと亮、ふざけないでよ!」

「お前、お猪口ってんのかよ!」


「さあ、お二人ともいい感じになってきましたし、他の皆さんも待ちくたびれてますから、一気に作戦スタートしますよー!」


「亮、なんかキャラが変わってねえか」

「・・・・・」

史龍のイライラがいつの間にか消えてなくなり、諦めモードに突入した。

 小町は驚きのあまり変身がとけて、いつもの姿に戻っている。


「じゃあ、二人とも、俺たちはアサカーの討伐に向かうから、よろしくな」

三人の口論を黙って見届けていた冲也が声をかけて小屋の扉を開けた。


「史龍! 小町さんの言うことをちゃんと聞くんだぞ!」達也も冲也の後に続く。

「デカ達、てめえ、俺はガキじゃねんだぞ!」


「二人とも頑張って下さい! アキラくん、道案内を頼みましたよ」

「わかりました」


 三人に言葉を掛けた亮を月英が真っ直ぐに見つめている。その視線に答えるように亮が口を開く。


「月英も頼みましたよ」

「ウフフ・・・まったく、問題ありませんわよ。孔明様こそ、背後(・・)はお任せしましたわよ」

「今夜は、東南の風が吹くようだからね」

「あら、それには祈祷が必要ではなくて?・・・ウフフフ」

「予定よりも早く風が吹きそうな気がするんだ」

「あら、それは大変。それじゃあ、こちらは私が先頭に立ちますわね」

「あっ、まあ、臨機応変に、よろしく頼むよ」


 微笑みを浮かべて答えた月英から、ただならぬ冷気を感じた亮は、背筋がゾクっとするのを感じて苦笑いした。

 同じように月英の冷たい笑みを見ていた小町と史龍も背筋が凍るような何かを感じ取っていた。


「さて、小町さんには僕たち反乱組織のリーダーになってもらいます。あの三人がアサカーとその一味を討伐した後に、この街の住人たちに『あなたたちは自由になった』と宣言してもらいます」


「あら、そんな簡単な役割で良いの」


「でも、その前にやらなければならない大事なことがあるんです。宣言するのは、その役目を終えたあとになります」

「もしかして、この街を狙っている超強い一団のことかしら」

「ご明察です。どちらかと言えば、そちらの方が骨が折れそうなんですよ」

「で、どうしろって言うのよ」

「僕たち三人はこのまま、この正門で門番に扮して待機します。で、この守衛チームのリーダー大町さんには先頭に立ってもらいます」


「ええーーっ! なんで私がリーダーなのよ! 私が前に立つってなんなのー!?」

「大丈夫ですよ! 絶対に危害が及ばないようにしますから」

「・・・・・」

戦いが嫌いな小町のテンションが一気にダウンし、亮の言葉が耳に入らない。

急におとなしくなった小町を横目に史龍が確認する。


「それって、そいつらの部隊がすぐ近くまで来ているってことなのか?」


「そうです。今夜、この街を急襲するつもりのようです。そして、恐らく自警団一味は、ここへ進攻してくるシュウユ・タウンの連中と裏で通じ合っている・・・」


「それって、お前の推測だろう? 何故、そんなことが言えるんだよ」


「勿論、僕の推測なんですが、ほぼ間違いないと踏んでいます。何よりもタイミングが良すぎるので・・・」


「何のタイミングだよ? お前の考えは次元が違いすぎて全然見当がつかねえぞ」


「実は月英がすでにシュウユ・タウンの襲撃を探知能力で確認しているんですよ。で、考えたんですが、僕らはこの世界では“渡り人”という存在です。そして恐らくその連中も同じ“渡り人”だと思います。“渡り人”は、次のRoadへ転移するための鍵、もしくはその場所を探しているはずです」


「それが、この街なのか?」

「さらに、守護者である大町さんを狙っている可能性も捨てきれないし、逆に連中の中にこのRoad(餓鬼道)の守護者がいるのかもしれません」


「ええーーっ! ちょっと待ってよ、私って狙われてるの? っていうか、なんで私がここにいるってわかるのよ!」放心状態から覚めた小町が再び声を上げる。


「探知能力を持っていればわかりますよ・・・そして彼らはかなり前から準備していたと考えられます」

「それって、予知能力みたいなものを持っているってことなのかよ」

「それはさすがにないでしょうね」

「じゃあ、どういうことなんだよ」

「この貧民街を強固なセーフティスペースに造り上げた僕の名前をこのRoadの住人たちが広めてしまったとしたら、僕の噂を知った人物があらかじめ僕らがこの餓鬼道に渡ってくることを見越して準備していた・・・そして、その人物は僕も知っている人物ではないかと推測できます」


「じゃあ、狙いは私ではなくて、亮ってことなの?」

「そこはまだ何とも言えないんですよ。ただ、接触したいのだと思います」

「じゃあ、私も標的の可能性があるのね・・・殺されたりするのかしら?」

「ああ、それはありませんよ。多分、大町さんの身柄を拘束したいのか、何かを引き出したいのかといったところでしょうね」

「それじゃあ、やっぱり私は隠れていないとダメじゃないの!」

「それは彼らの思う壺です。逆に大町さんが先頭に立っていてくれると彼らは全く手出しが出来なくなるはずですから、そこが狙い目なんですよ」

「・・・それが本当だったとしても、やっぱり前に立つのは怖いわよ」

「だから、史龍くんがいるんですよ。万が一、大町さんが攻撃されても彼が守ってくれますから」


 その言葉を聞いた小町は史龍の方に向き直る。

「あなた、しっかり私の盾になるって約束してよ」


「なんだ・・・こいつ、それが人にものを頼む台詞かよ! なんでそんなに上からなんだよ」


「史龍くんは、女性には優しいですから問題ありませんよ。それに僕たちの中で一番強いですから・・ねっ、史龍くん!」


「・・・亮がそう言うのならやってやる。女に優しいってわけじゃあねえけどな。ただ、引き受けた以上は意地でも守り通してやるぜ、何と言っても俺様は一番強いんだからよ!」


 半分照れたような表情の史龍の言葉に、小町は珍しく何も言い返さなかった。

 不思議なことに絶対に守ってくれるだろうと確信が持てたこともあるが、何故か心がポカポカと温かくなったから。


「では、僕らも門の上に登って待機しましょう」



▽ ▼ ▽ ▼ ▽


 一方、冲也、達也、月英とアキラは、集会所前の広場の片隅にいた。


「アキラ、あの建物が集会所で間違いないのかな? 何だか入り口で酒飲んでるのが大勢いるみたいだけど」

建物の入り口を見ながら、冲也が確認する。


「はい、あの建物です。そしてあのゴロツキみたいな連中が、アサカーの自警団ですよ」


「なんと! あんな如何にも極悪人のような輩が自警団なのか、あれは、どう見てもただのチンピラだぞ」


「達也さんの仰る通りです。あいつら、この街でやりたい放題なんですよ。自警団などと語っているのも建前で、実際は暴力と狡猾さで街を牛耳っているんです」


「ほう・・・それは成敗しがいのある輩どもだな。この達也様が一撃必殺の剛腕で薙ぎ倒してやろう」

「達也、最初に突入するのは俺の役目だよ。君は、後ろから用心棒みたいな感じでついてくればいいのさ」

冲也の眼光が鋭く光る。

「冲也、それは違うぞ。後ろからついてくるのは、お主の役目だ!」


「ちょっと待ってください! あいつらは総勢で三十人以上いるんですよ。正面からぶつかったらすぐに囲まれてしまいます。それに、あいつらは残忍で逆らう者は平気で殺してしまうような連中なんです。だから、何か策を弄して・・・」


「「そんなもんは関係ない!」」


 同時にそう告げた二人は、我先にと張り合うように広場へ躍り出ようとする。


「お二人とも、ちょっとお待ちください!」


 月英の声が二人の足を止めた。


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