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第44話 女神じゃなくて・・・

挿絵(By みてみん)


 街の人達を助けたいという小町の要望を亮に認めてもらった月英は、小町とアキラが待つ小屋に戻った。

 戻る途中で、アキラ以外の二人の門番を難なく催眠道術で眠らせてきた。

 彼女のこういった手際の良さも、亮が彼女を信頼する要因のひとつ。


「守護者様、お待たせしました。孔明様には納得してもらいましたわ」


「さすがは月英さんだわぁ〜、ありがとう!」


「その代わり・・・この街の悪徳自警団を全滅させることになりますから、守護者様にもその力を示していただくことになりますわよ」


「わかっています。言い出したのは私ですから、それに月英さんだってこの街の自警団に仮を返したいみたいだったから」

「あら、守護者様はお優しいのですね。私と孔明様がここを出ていくことになった根源については何れにしても排除するつもりでしたから、お気遣いは無用ですわよ」

まるで冷気を纏っているかのような冷たい言葉に、背筋がゾクっとする小町。

 月英が不敵な表情になっているのが見てとれる。


「なんにしても月英さんがいてくれたら私は心強いです」

背筋を正して思いを伝える小町の言葉が月英に温もりを与えたせいかもしれないが、冷ややかな表情に見えた月英が少し優しく微笑んだ。


「孔明様たちが門の前まで来ています。急いでアキラさんに開門してもらいましょう」


「わかったわ! そこのあなた、アキラだったわね、早く門を開きなさい」


 二人の女神様(こまちとげつえい)の会話を不可解な表情でポカーンと聞き入っていたアキラは、突然のフリに驚いたように口を開く。

「えっ・・・、あっ、それはちょっと・・・」


「あら、あなたは私たちに助けてもらいたんじゃあないの? 私の(しもべ)たちが門の外で待機しているのよ」


「あの、一番偉い女神様、お言葉ですが、私以外の門番が二人いまして・・・ですね・・・つまり、勝手に開けることは無理ではないかと・・・」


「あの二人の門番でしたら、既に私が眠らせていますから、全く問題はありませんわよ」

月英が間髪入れずに二人に告げた。


「ほらぁ、全然問題ないでしょう! 彼女はあなたと違って先の先の、そのまた先を読んで行動しているのよ。あなたも少しは見習って素早く行動しなさいよ、あなたのためにやってるんだからぁ」


「ええーーーっ! いや、その、失礼致しました。流石は女神様です。それでは早速、開門して来ますのでお待ちください」

そう言って、慌てて小屋を飛び出すアキラを見送った後、唐突に月英が問う。


「ところで守護者様、もう一度死霊(レイス)を召喚できますか?」


「えっ? 死霊(あれ)をですか・・・なんか、あれって私が呼び出しているって考えるだけで、なんか自分に嫌気がさすというかあ・・・でも、もう邪魔な門番も眠らせてくれたから、死霊(あれ)を召喚しなくてもいいんですよねぇ」


「うふふ・・・、やっぱり気持ちが乗らないのですね」

「自分が呼び出していると分かっていても、何だか気味が悪くて・・・」


「これ以上、心労を重ねさせるわけにはいきませんから、門番は私の方で眠らせたのですよ」


「何から何まで、ありがとうございます! 本当に月英さんは頼りになるお姉様ですわ」


「その代わり、守護者様には作戦次第では人狼化してもらうことになりますわ。この街を助けるためにも、あの力は必要ですから」

「そのくらいは問題ありません。任せてください!」


「それとこの街のために、もう一つ、やってもらわなければならないことがあるんです」

「この件は私が言い出したことですから、私に出来ることなら勿論やるわ!」


「ふふふ、さすがは守護者様ですね・・・では、この街を救う反乱組織のリーダーになってもらいます」


「ええーっ! 反乱・・・のリーダー・・・ですかあ、それって私なんかに務まるのかしら」


「全く問題ありませんわよ。外にいる殿方たちを上から押さえ込む器量がおありなのですから、むしろ天性の役どころだと思いますわ」


「月英さん、それって褒めてくれているのかしら・・・」


「うふふふ・・・勿論、褒めていますわよ」


 二人は、和気藹々とこの後の動きについて確認し合った。月英のおかげで小町は抱いていた不安を取り除くことが出来たような気がした。


「女神様、皆さんをお連れしましたー!」しばらくして、アキラが亮たち四人を連れて小屋に戻ってきた。


 アキラは、通用門を開いて四人を招き入れただけなのだが、何故かやり遂げた感が満載の表情になっている。

 その表情を見た月英が、小町に耳打ちをする。

(飴と鞭を使い分けてください・・・ここは飴を与えないといけませんわ)


 月英からのアドバイス通り、アキラを持ち上げる。

「アキラさ〜ん、私のお願いをしっかりと聞いて下さってありがとう! あなたに祝福を与えますわ」


「ウォーー! 嬉しいっす! お褒めに預かり、大変光栄であります! 女神さま〜!!」

完全に女神だと勘違いしたアキラが両手放しに歓喜の声をあげた。


「えっ?」

「「ん・・・? めがみ、さま・・・?」」

後から入ってきた四人の目が点になる。


「おいおいおいー! ちょっと待てーい! 誰が女神様だよ!」

案の定、史龍が真っ先にツッコミを入れた。


「今、確かに『女神様』って言ったよな」

「あの門番、なかなか分かっておるではないか」


「デカ達、お前もか・・・」残念な気持ちが隠せなくなった史龍の声は小さい。


「はあっ! 誰にどう呼ばれようが、あなたたちには関係ないでしょう!」

突っ込まれることを想定していたのか、速攻で反撃する小町。


「だからって、お前が女神ってのは・・・」


「何よ! あんたに文句言われるのは心外だわ!」


「そうだぞ! お前、女神様に対して失礼だろう!」アキラが小町を援護するように史龍の前に立ちはだかった。

が、史龍の怒りを買って胸ぐらを掴まれてしまう。

「なんだと、この野郎! 殴られてえのか!!」


「まあまあ、史龍くん、冷静になってください。今はそういう状況ではないですから」

慌てて史龍を静止してから、亮は月英に視線を送る。


「史龍さん、戯れ合うのはそのくらいにしてくださいね。これから、この後の手筈をお話しますから」

落ち着いた口調で月英がそう言うと、史龍はばつが悪そうにアキラを放す。更に、その一言で場が静まった。


「これからこの街を解放するための作戦を伝達します。今回は、出来るだけ短時間で遂行することが大前提です。その点をご理解の上、孔明様からの指示をいただきますわ」


 月英の話を聞いていたアキラが心の中で反応した。

(“孔明さま”だって!? ・・・今、そう言ったよな・・・)


 アキラの動揺を他所に、亮が皆の前に進み出た。

「予定した計画に少しだけ変更があります。当初は例の武器を速攻で入手して、そのまま街を離脱する予定でしたがプランを変更します。先ず最初に、この街の悪徳自警団を潰します。その後にゆっくりと武器を入手して離脱するというのが変更点になります」


「なんだ、それだけなのか?」達也が拍子抜けといった声をあげる。


「それだけですが、何か質問があれば後ほど受け付けます。では、これから皆さんの具体的な役割をお伝えします」


「おい亮、俺の苛立った気持ちの吐口を作ってくれよ! 俺が先陣を切って、その悪徳野郎どもを瞬殺してやるから、俺にそう支持してくれよ!」



(あれ? この赤毛は“リョウ”と呼んでいるぞ・・・“孔明”ではないのか?)

アキラは亮を見つめながら、いろんな名前で呼ばれている様子に困惑した。


「少し落ち着いて冷静になりましょう。史龍くんにはもっと大事な役割をお願いしたいんですよ」

「そうですわよ、史龍さんのお力は私たちにとって大きな戦力だということは、私も孔明様も理解していますから・・・」


「まあ、月英さんにそう言われると・・・俺も聞き分けのない男じゃあないから、わかりましたよ」


「あら、あんたは月英さんのいうことには随分と素直に聞くのね、私には文句しか言わないくせに」


「なんだ・・・クッ・・・これ以上はお前のペースには乗せられないぜ。俺はクールな男だからよ!」

「あんたがクールって、どうなのよ」

「まあ、あれだ、ニセ女神には俺様のことなんか理解できないだろうがな」

「ニセって、何よお! 私だって自称したわけじゃあないのよ! そこのアキラが勝手に私の美貌を見て女神様だと勘違いしたのよ! まあ、そう思われて当然といえば当然だから仕方ないでしょう! 不可抗力なのよ! 」


「ええーーっ!」

小町に指を刺されながら、女神ではないと否定する台詞を聞かされたアキラは、目が点になった。


「おいおい、言ってることがよくわからないぞ、むしろ、こいつに無理やり『女神と呼べ』って強要したんじゃあねえのか」


「史龍、何を言うか! 小町さんは女神そのものじゃあないか。俺はむしろ女神以上の存在だと信じておるぞ、小町さんも自分を卑下するようなことを言わんでください」


「達也・・・余計に話がややこしくなるって・・・」

「デカ達・・・お前、なんか変な物拾って食べたんじゃないのか」


 達也は、目を閉じて腕組みをしながら微動だにしない。

 場がシラけたような、和んだような、なんとも言えない空気感になったところで、再び亮がこれからの行動を告げる。


「まあ、とにかく史龍くんが理解してくれたようなので話を続けます。先ず、月英と冲也くん、達也くんは、悪徳自警団のリーダー、アサカーという男を急襲してください。やり方はお任せしますよ」


「りょ〜かい!」

「心得た!」


「それからアキラくん、でしたね。ちょっとお聞きしますがアサカー達の居場所は、街の中央の集会所でよろしいですか?」


「えっ? 何故、それを・・・っていうか、アサカーを知っているんですか?」

「ええ、まあ・・・彼にはちょっとだけ借りがあるもので」

「確かに街の中央にある集会所なんですが、今は集会所というより、あいつらの根城ですけど。それより、急襲って、今から・・・ですか? しかも二人だけで襲撃するということ・・・ですか?」


「二人ではなく、厳密にはそこにいるもう一人の女神様も入れて三人ですが、全く心配はありませんよ」


「今からって、そんな無謀すぎますよ! 向こうには大勢の仲間がいるんです。これじゃあ多勢に無勢だと思います。あいつら、無茶苦茶するし、失礼ですけど負けるのが目に見えてます」


「アキラくんは、このメンバーでは勝てないと思うのですね」

「そうです・・・少人数で挑もうなんて、あいつらの恐ろしさを知らないから・・・」

「あれ? おかしいですね。確か、そこの一番偉い女神様に助けて欲しいと言ってきたのは、アキラくんだと聞いているんですが?」

「確かに、言いました・・・だけど、そこの女の人は女神じゃないって言ったじゃないですか! 女神様の力だったら、なんとかなると思ったから助けてくれと言ったんですよ」


「アキラくん、彼女は確かに女神様ではありません・・・が、もっと戦闘力の高い存在なのですよ?」

「どういうこと・・・ですか?」


「まあ、聞くよりも、その目でご覧になってもらった方が話が早いですね。大町さん、もう一度、変身してもらいますよ」


「わかってるわよ! さっき、月英さんが言っていたのはこういうことだったのね」


 亮が、右手を挙げて月英に合図を送る。月英の全身が、白い月の光を纏う。


「くうぉーの、バカー! 私が悪んじゃあないのよーー!」


―――詠唱魔術 “Bark at the Moon”


 小町のやるせない詠唱が月英の白い月の光に反応した。


「なんだぁー! この眩しい光は」小町の放つ白い光を浴びたアキラは目を覆った。


 そして眩しい光がおさまり、恐る恐る目を開いたアキラが小町を見て絶句する。

「――――――!!」


 アキラの目の前に顕現したのは、人狼(ワーウルフ)に変身した小町だった。


「女神・・・どころか・・・魔物じゃないか・・・」


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