七章5
検査結果は多少の電脳に損耗があるものの、回復可能範囲とのこと。
しばらくの間の二、三日は、電脳を使用しないようにとのこと――もちろん、不便すぎると抗議したので、代わりに補助電脳眼鏡を貸し出された。
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程なくしてグループチャットにて蓮歌と慶児と仲直りした。
こんな遣り取りだった。
『旭人、こないだはごめん。血が上った』
『オレからも謝るよ。悪かった』
『僕こそ助けてもらったんだ。それでチャラでいいじゃないか』
『だよな。おっけー』
『姉貴、切り替えはや!』
まあ、そんな程度でいいんじゃなかろうか。
僕ら同期の間にそれ以上の謝罪なんて必要ないだろう。
そして今、僕はこんな遣り取りのために第二号棟を訪れている。
『旭人さん。戦いが終わったら、総てを話す的なことを言いましたよね』
『ああ、言ったっけ。んなこと?』
『言いました! キスしてくれるとも!』
『言ったねー。会話のログにあるわ、それ』
『だから、いま旭人さんが入院している病棟の第二号棟に来てください』
その言葉で大体の彼女の状態が分かってしまった。
どうして嫌われるなどと涙ぐんで言ったのかも分かった。
この病院の第二号棟は、寝たきり患者さんの専用病棟なのだ。
病棟までいくと、そこには電脳眼鏡越しに燐のアバター姿があった。
その姿は、いつもの小麦色の肌ではなく青白い肌で、多少やせ気味な黒髪のロングヘアーの少女だった――そのいつものアバターと違うのは、僕も同じで(僕の場合生身だし)お互いにお互いの姿にびっくりしながらも、お互いにびっくりしたことが少し可笑しくて。
二人して笑い合った。
お互いに美形ではない辺り、凄く可笑しかったのだ。
「あはは、旭人さんってふつーの顔ですね。微妙!」
「うるさいよ。燐だって美人以前に童顔じゃんか」
「童顔はプラスポイントですよ」
「ぬかせ」
「さあ、こちらです」
そういって彼女の案内で彼女の病室を訪れた。
三階の三〇一号室。
その扉の向こうには――まるで眠り姫のように眠っている燐の姿があった。よく見るとアバターよりよりやせ細っている。それはそうか。母もそうだが、寝たきりだと使われない筋肉がやせ細って手足が棒のようになる。
分かってはいたが――きついな。
「……これが、わたしです」
そういって、彼女は語り出す。
「いじめに遭って、わたしは自殺未遂をしました。学校の屋上から飛び降りたんです――そして、どんな運が良かったのか悪かったのか、全身不随になっただけで生き延びてしまいました。まあ、そのお蔭でもうリアルの学校には行かずに済みましたけどね」
彼女は辛そうに語る。
「旭人さんに出逢えるのなら、もっとちゃんとした体で逢いたかったな」
「燐――もういいから、生身に戻ってくれないか」
「え?」
「直に――電脳眼鏡越しではなく、生身同士で逢いたい」
その言葉に戸惑っているようで、
「わたし……、表情を作るのがやっとですよ。それも微妙な顔で――」
「構わないよ。さあ」
そう促すと、燐は覚悟を決めたように頷いた。
「分かりました」
そして燐のアバターはログアウトして、彼女は生身の体に戻る。
色の白い彼女の顔、その痩せた瞼が開かれた。
そこには、恥ずかしそうな、辛そうな瞳の揺れが見て取れた。
「や、やっばり――その……」
久し振りに直に話すのか、喉が嗄れ気味だった。
それを恥じたのか、顔を曇らせる。
「君の声を聞けて嬉しいよ――僕はまだ前の恋愛を引きずっている男だ。だけど、それも大分と薄れつつあるよ。君のお蔭だ」
「そう……ですか」
「だから、君との約束を守ることに躊躇はない」
そういって、彼女のベッドに腰を下ろす。
そして彼女の頭の左横に手を据え、彼女の顎をこちらにくいっと向ける。
それまでは彼女も何か言おうと、口をもごもごとさせていたけど――最終的には黙った。
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そのまま重ねられた唇は、思っていた以上に柔らかいものだった。
[七章・了]




