七章2
「前方に生体反応、四人!」
「了解した」
人命救護のために軍・警察・消防、そしてギルドは情報共有しており。弐地国土通産省が確認できるマップ上にいるアバターを割り出し、そこにオートマ以外の人が乗っているアバター情報が眼前に常に表示されている。
だが、結構な数だ。
そしてその前方の生体反応がある四人の目の前には。低位戯魔のマークがある――急いで位置情報と低位戯魔の正体を割り出し/特定、その特定した戯魔情報を入力したスナイパーライフルのトリガーを引き絞り、誘導弾を放つ――間に合え!
飛空バイクを噴かせて駆け進む。
誘導弾が命中したようで、マップ上から低位戯魔の存在が消える。
「いました!」
「よし、降りるぞ」
すぐに他の戯魔どもが目視できた家族連れを襲おうとしている――させるかッ!――飛空バイクで上空から降り立ち、飛び掛かっていた戯魔を魔卦銃で一発、二発撃ち込み、電子塵へと還元/燐は反対側の戯魔をハンマーで潰していた。
「大丈夫ですか?」
そう尋ねると、父親と思われる男性が口を開く。
「あ、ああ。助かった。助かったよ……」
脱力したように強張っていた顔を、引きつってはいるが破顔させる。
「緊張状態を解かないでください。まだです」そういうと、父親は顔をきゅっと再び引き締めた。「ゲートまでご案内します。付いてきてくだ――」
そのとき――巨大な地響き。
地響きの方を見ると、そこには――
+
「あ、アルティメットマンだ!」
+
男の子がどこか興奮気味にそういった。
アルティメットマン――情報軍特殊戦術課u部隊の特殊な巨大アバター。光の戦士計画により発案されたそれは、急増する巨大戯魔に対処するのは空中戦艦だけでは足りないとして、一〇〇メートル級の巨大アバターを操り、巨大戯魔とガチンコすることで対処するためのものだ。
巨大なアバターゆえに、それを操られる隊員は少ないと聞く。
アルティメットマンが――ゼアッ、と声を出す。
その巨大アバターに纏った装甲を軋ませた時の音だが、周りから見ると身構えた時に漏れる声に似ていることから、今ではそれがアルティメットマンの声として認識されている。
「まずい――近いな」
一〇〇メートルを超える巨体のぶつかり合いの間近にいたら、巻き込まれる可能性が大だ。
しかも、こっちは避難させなければならない家族連れだ。
「垂直に逃げましょう。ゲートはその向こうのを使いましょう」
「ああ、そうしよう――では、参りましょう」
母親が興奮する男の子を宥めつつ手を引き、父親が娘さんを抱っこして移動する。燐と僕のバイクに燐の方に母親と男の子を、僕の方に父親と娘さんを乗せて発進する。
ダァンッ、と大きく揺れる。
アルティメットマンが一歩踏み出したのだ――それによる直上型地震(闊歩震)による撓みで大きく揺れる――ダァンッ、ダァンダァンダァンダァンッ――アルティメットマンが駆け、空中を浮遊するブラックドラゴンに向けてジャンプする。
両手を組んで握り、その頭に振り下ろす。
ブラックドラゴンは頭に振り下ろされた両拳により――地面に叩き落とされる。巨大質量が落ちてきた衝撃により、地面が大きく揺れる。僕らはそんな揺れる地面から離れた空中を駆けていた。前を走る燐とともに垂直にまずは戦線離脱する。
アルティメットマンが着地。
それと同時に、ダァアッ――と声を上げながら、顔を持ち上げようとするブラックドラゴンの顎に下段からの右アッパーを噛まし、そのままの勢いで左中段から一発、右中段から一発、左上段から一発、右中段から大きく引き絞った右ストレートを打ち込む。
二年前に見たときと、戦闘スタイルが違うと感じた。
アルティメットマンの操縦士は、情報軍のトップシークレットなので、それが誰なのか何人いるのかは一般人には知りようがないが、前回はデバッグ光線を主体とした戦闘スタイルだった。だが、今回は格闘技スタイルとなっていれば、操縦士が代わった可能性もある。
二年前のアルティメットマンが放つデバッグ光線は頼もしかった。
今回はどうなんだろうな――と、男の子の方を見てみると、興奮気味に母親に対して「アルティメットマン、すげーっ! めっちゃ強いよ。ねえ、お母さんってば!」と、さっきまで震えていたのが嘘のように、希望の星として見えているようだった。
右ストレートを噛まし、後方に吹き飛んだブラックドラゴンに対し、アルティメットマンは一切の容赦はしない――駆けていき、ジャンプ、両膝を畳んでその両膝でブラックドラゴンの腹部を強襲、グロロロロロロロッと唸るブラックドラゴンを、立ち上がってその頭を摑み、横にあるビルに対して叩きつける。
ガシャン、
ガシャン、ガシャン、
ガシャン、ガシャン、ガシャン、
ビルに叩きつけられる度に、窓ガラスが砕けてブラックドラゴンに突き刺さる――ビルに叩きつけて埋もれた頭から右手を放し、その右手で拳を作り、思い切り引き絞って殴りつける。
ガッシャーン!
と、ビルが軋みを上げて、そのまま真横に折れ、ブラックドラゴンの体を呑み込んでいった――アルティメットマンは一歩後ろに下がり、ブラックドラゴンを見遣る。
すると、砕けたビルが白熱/融解。
そこから炎が吐き出され、アルティメットマンを襲う。
炎に包まれたアルティメットマンを見て、男の子が叫ぶ。
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「がんばれ、アルティメットマン! がんばれぇ!」
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その声援に応えるように、ゼァアッとアルティメットマンが両手を拡げて、電子防壁を強化する――そして炎を弾くと、その電子防壁を両手で包んで投げつける。
電子防壁の刃により、ブラックドラゴンの背の鱗が火花を散らし弾け飛ぶ。
そのブラックドラゴンの防壁である鱗が砕けたところに、腕をクロスしてそのクロスした腕からデバッグ光線が放たれる――ブラックドラゴンはそれを受けて、グロロロロロロロロッと唸り暴れて――そして、弾け飛んだ。
爆発。
僕らが家族連れをゲートに送り届けられた直後にそれは起こった。男の子はもとより、父親まで興奮して、「よし!」などと言っていた――だが、仇が弾け飛んだ僕としては複雑だ。
あいつは、弾け飛んでもその破片だけで人化できる。
それは二年前の戦闘で僕の目の前で、その破片が落下してきて人化し、僕の両親を襲ったあの悲劇が繰り返されるかもしれない。そんな焦燥をしていると、空中戦艦からリボルバー式発射台から次々に飛び出してくる戦闘機が、その破片をデバッグ弾で爆破していく。
徹底しているな、同じ轍は踏まないってことか。
そうした安心とともに、新たな焦燥。
仇が討てない!
僕は家族連れの案内を燐に押しつけて、バイクに跨がり走り出す。
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一つの破片でもいい――人化する前に、僕の手で一つでもデバッグするのだ!




