六章4
この戯魔どもの中で一番危険なのは、『アルティメット・パンデミック』シリーズのボスキャラ〈狂気の処刑人〉だ――最近のゲームエネミーなので、リアルと見間違うほどリアルな風貌だ。血でぐっしょりと濡れた頭巾を被り、血で濡れて錆びついた大鉈をズッズッズッズッと引き摺ってきている――走査の結果、こいつは即死イベント時の奴らしい。
鬼ゲー戯魔、バグゲー戯魔、即死イベント戯魔は危険度が跳ね上がる。
どうやら、施設に残っていた電賊の奴が、こいつらを放ったようだ――同時にここのセキュリティーも解除したようで、戯魔がどこへとも行けるように手筈も整えている。
周りはグリーンスライムやゾンビどもに囲まれてしまった。
「くそッ――まずいな」
「まだ死にたくないですよ。旭人さんとちゅーもまだなんですからっ!」
「あーもう! 生き残ったらちゅーぐらいいくらでもしてやるから、パニックにはなるなよ。頼りにしてるんだからな、相棒っ!」
そういうと、けろっとした顔をする。
「いま、旭人さんが全世界に向けて約束しましたよ! 絶対ですよっ!」
そういうとハンマーに攻撃系重力魔爻術〈重攻三式[グランガ]〉を纏い、グリーンスライムやゾンビどもの群れに突進――魔卦具は基本的に戯魔の出身ゲームの平均値しか与えられないというのに、次々に雑魚戯魔どもを狩っていく。
僕も負けていられないな。
処刑人を何とかしないと。
「燐、こいつを事務所の入口に!」
そういってデータを転送――あれを構築するまでの時間を稼ぐ。
事務所に飛び込み地雷を入口に設置し、処刑人に銃を撃ちまくる。処刑人は攻撃してきたプレイヤーの方に向かう習性がある。だから、これで燐にはいかないだろう――僕は階段にも地雷を仕掛け、空中にその他の戯魔に向けて武器を浮遊させる。
地雷を飛び越えてきた低位戯魔を。
機械兵をビームソードで、
幻鬼を日本刀で、
大蝙蝠を鞭で、
焼き斬り、両断し、打ち潰した。
階段を後退りしながら戦っていると、入口の地雷が爆発――だが、即死イベントの処刑人は実質HPはないのだ。つまり、規定の斃し方でないかぎり不死身ということだ――地雷でダメージを受けたように蹌踉めいたが、すぐさま大鉈を引き摺り階段に足をかける。
爆発。
周りの低位戯魔はそれで弾けたが、処刑人はすぐに上がってきて大鉈を振り回す――僕は寸でのところで後ろに下がり回避。すると、『設置完了!』と燐から電脳通信が入る。
僕は二階を疾走し、事務所椅子を摑んで窓に向けて投げつける。
バリンッ――と割れた窓に飛び込む。
窓の外に転がり落ちて着地――地に伏したまま拳銃で処刑人の背中を撃ち抜き、こちらに振り向かせる。そして処刑人がゆっくりとこちらに向けて歩いてくると、事務所の入口、そこには処刑人を殺すためのトラップ――頭上から巨大な針の剣山となったトラップを、
「今だ!」
「えいや!」
燐がそれのハンドルを放すと、ハンドルが逆回転し、剣山の天井が処刑人の頭上に落ちた――ずちゃっ――と肉が潰れる効果音が響き、トラップの周りに処刑人の血が飛び散る。
「よし!」
そして振り返ったそこには――『ヴァーサス・ファイター』のケイン――突然の「竜巻激流脚!」という声とともに、回転する蹴り技を思い切り食らい燐がいる後方まで飛ばされる。
「ぐッ」
先程の傷口が開いてきた。
足元にぽたぽたと血が零れ落ちた。
「旭人さん!」
「大丈夫だ。それより、退路を」
僕が想定していた退路が――グリーンスライムキングによって塞がれていた。
そのとき――グリーンスライムキングに銃創が一筋、二筋、三筋――刻まれた。そして次々にその他の戯魔たちも打ち砕かれていき、退路となる道ができる。
他の電戯士たちが現れたのだ。
通信が入る。
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『よう、お二人さん。上條陸雄――馳せ参じた』




