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オーバーゲーム・デバッガーズ:チヌシティ・クエスト  作者: テロメア
六章 遺恨からの誘い
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六章2

 病院を出て駅に向かって歩いていると、メッセージの着信があり〈豹騎(ひようき)〉と表示されていた――それは忠太電戯士から訊いた情報屋であった。

 さっそく、中身を見てみる。

 要点だけが述べられていた。曰く――先日の調査依頼。警察は戯魔園をすでに見つけている。しかし、現政権の(かく)(しん)党大物議員の()()(まなぶ)からの圧力により、警察はその決定的な証拠である戯魔園の発表をできずにいる現状を証拠書類とともにお送りします――とのこと。

 その同封されてあった証拠書類を参照して頭痛を覚えた。

 まったく、なんてことだ――くそ。

 しかし、逆に言うと、そこはまだ手つかずというわけだ。

 僕の全財産を注ぎ込んだ情報が、思わぬ大きなものを持ってきたようだ。

 駅の改札をピッと通り電車を待っている間に、昨日から溜まっていた友人知人からのメッセージを見ていく――大抵が昨日の動画の反響だったので、『見てくれて、ありがとう』的なものを返しておく。その中のひとつ、健一からもメッセージが来ていた。

『恨めしいぞー。動画見たぜ。楽しそうだなー、恨めしーぞー』

 それに苦笑しつつも、『どや!』とふんぞり返っているウサギのスタンプを送っておく。

 そのとき、僕らのグループチャットが鳴り、開くと燐が『次はどうしますか?』と問い掛けていた――昨日の動画は、全世界で五万人が見てくれたようだ。初めてにしては十分な成果が出たと言えよう。送られてきた都市伝説の解決依頼も二五三通を数える。その中で大半を占めるのが、戯魔保護団体を自称する電賊〈ホワイトパラディンズ〉が、保有するという『戯魔園』を発見してほしいというものだった――豹騎の情報には、そのアドレスも載っている。

 さて――どうしたものか。

『戯魔園発見してくれって多くね?』

『タイムリーな話題だからな。てか、もう都市伝説と化したわけ?』

『警察の方がお手上げなのでしたら、どうしようもないのではありませんか?』

 そんな三人の会話に、どうするか迷った。

 個人的な復讐に巻き込んでしまってよいのか悪いのか――電車の到着とともに、空いた車内の車輌と車輌の連結部分近くの端っこに座り、その是非を考えていた。

 すると、燐が『旭人さん、どうかしましたか?』と尋ねてきた。

 既読はつくものの発言がなかったから心配されたのだろう。

 僕は意を決して――皆に問い掛けることにした。

『みんな――その謎にどこまで掛けられる?』

『どしたん、いきなし?』

『旭人、何か摑んだわけ? 教えなさいよ』

『旭人さんの行くところなら、火の中水の中ですよ――わたしはついていきますよっ』

『個人的なことにみんなを巻き込むのは気が引ける――しかし、これを依頼として完遂したならば、僕らの地位も一気に跳ね上がるだろうと思う。ただし、その場合、政治屋からの圧力がくる可能性もあるし、たとえ、そいつが逮捕されても、そいつのシンパからどんな嫌がらせがくるかも分からない――そんな腐れ覚悟があるのか否か。知りたい』

 すると、蓮歌から呆れたタヌキのスタンプと一緒にひと言。

『抽象的で分からん。言え』

   /

 僕は目の前に煌めく、戯魔園のアドレスを眺めながら、

『分かった。戯魔園の場所は分かっているんだ――あとは覚悟の問題だ』



 公開チャットルームに、三人を集めて話した。

 僕が電戯士を目指した本当の理由、父を死に追いやった戯魔の実在、戯魔園の在処――などなど、彼らを巻き込むのなら、最低限教えておかなければフェアじゃないからだ。

「いいじゃねェか、オレは巻き込まれてやってもいいぜ。な、姉貴」

「簡単に流されるな、愚弟。今回の件は、リスクとリターンが釣り合ってないだろう――あえてそれに目を瞑るにしても、こちらが動く原動力が友情だけではなぁ。実利が伴っていない」

「姉貴さぁ、原動力が友情なら、動くに十分な理由じゃねェーの?」

「子供か。これは仕事なんだぞ?」

「だけど、仕事以前に唯一無二の同期の仲間だぜ? 姉貴はいつもいってんじゃねーかよ。仲間は大切にしろ、いざというときに盾にできるんだからってよ」

「盾にしちゃうんだ!」

 僕が話の流れ的に感動話がくるのかと思っていたら、変化球が来たので驚くと、発言者であろう蓮歌が「そうだ。だが、盾にすることはあってもされるのは納得がいかない」という。

 その発言は全面的に肯定なんだな。

「この場が最初から公開されていることを鑑みると、最初からこちらに拒否をさせ難くさせるため、つまりそういうこと――お前は私たちを盾にする気なのだろう?」

「……あ、いや……」

 僕はそこまでずばりと言われて口籠もってしまった。

 すると、ずっと黙していた燐が「公開しているのは、復讐の過程を視聴者に見せる方が盛り上がるため――それは分かりますが、わたしたちにどんな話をするのか言わずに、こうした公開をしたのは、蓮歌さんが指摘したように思惑があったため、でしょう?」という。

 その黄金色の瞳には、少しの怒りが込められていた。

「前にわたしに語ってくれた電戯士に成った理由は、やっぱり、嘘だったんですね」

「……ああ、確かに本当のことは語っていない。本当は誰にもいうつもりはなかった――」

「だけど、巻き込む必要があるから、巻き込む必要があるから、最低限の情報は与えておこうってやつですね。つまり、旭人さんは最初からわたしたちを巻き込むことを前提に話しているんですね。だって、そうでしょう? この件は新人研修での都市伝説探しの一環として行った方が効率がいい。なんせ、何かあると先輩方を召喚することもできるわけですし、最低限わたしたちという戦力を保持できる。だから、どうしても巻き込む必要がある。そのためのわたしたちへの餌は何か? リスクとリターンだけで考えるならば、蓮歌さんの指摘通り、本来、冷静に考えれば釣り合いませんよ。たかだか新人研修に命を懸ける人はそうそういませんからね。そこで、自分語りをして同情を引き、リスクより自分語りした分をプラスしたリターンを錯覚させる。これによって、先程の慶児さんの言葉を引き出した――何か違いますか? 旭人さん」

 再び、僕は黙した。

「旭人さんはこう言い換えるべきです。『お前たちにはまったくメリットはないが、僕の復讐に付き合って命を懸けてくれ』――と。それでも付いてきてくれるか訊くべきです!」

 ぐうの音も出ないとは、このことだな。

「悪かったよ。皆の善意を利用しようとして。卑怯な誘い方だったのは認めるし謝罪する。すまない」僕は頭を下げて謝罪し、その上で改めて訊ねる。「改めて訊くよ。メリットのない戦いに参加して、僕の個人的な復讐だけのために命を懸けてくれるかい?」

 本当は『無理強いはしない』とか『断るのが普通だから断ってくれても構わない』とか付け加えたかったけれど――それはまた、断り難くする言葉の選び方だろう。だから、あえて突き放すように言った。よって、応えは見えていた。

「私は話を振ったはずだぞ。お前は『そうだ。僕の盾になってくれ』と、最初から素直に言えばよかったんだ。まったく――一ヌケだ」

「え、あ? 姉貴、抜けるの?」

 すると、蓮歌はそのままログアウトしてしまった。

 残された慶児が「あー、あれは拗ねたんだなぁ。まったく」と呆れつつ、「悪いな、旭人。姉貴が抜けるなら、オレも抜けるわ。すまねェ」と蓮歌を追い、ログアウトしていった。

 二人が応えを出して帰って行ったのにも関わらず、燐だけは残って僕の顔を瞶めていた。

「なんだよ、満足か? 真相を暴いた名探偵気取りかよ」

「やっと――本音で話してくれていますね」

「あん?」

「わたしはずっと旭人さんと本音で話したかったんですよ。それと今回のことは酷すぎます。ドラマチックに語っても、結局は自分の都合で相手を巻き込むのに誠意が欠片もありませんでしたから――だから、指摘させてもらいました。謝りませんよ」

「お前は何がしたいんだよ?」

「わたしは嘘や誤魔化しが許せないんですよ。それだけです」

「なら、訊かせてもらうが――お前が前に語ったものはすべて真実か?」

 すると、「一つの語っていないところを除いては――」とだけ言った。

 気が立っている僕にとっては、それが一々癇に障った。

「お前だって言ってないじゃないか!」

「旭人さんに――嫌われたくないからッ!」

 そういう燐の瞳には、大粒の涙が浮かんでいた。

 だけど、すぐにハッとしたように下を向き涙を隠した。

「……ごめんなさい。感情的になりました」

「あ、いや……」

 大きく溜息を吐き切り替える。

「ここまで来たんだ。僕は一人でも征く――じゃあな」

 そういってログアウトしようとした僕の手を、燐がしっかりと摑んでいた。

「まだ――わたしの返事を訊いていません」

 涙を拭いながら、燐がしっかりという。

「わたしは征きますよ。旭人さんと一緒に――」

   /

「そして恩を売ってから話しますね。まだ語っていないことを」

 僕は苦笑していう。「いい根性しているよ、ホント。くそったれ」

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