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オーバーゲーム・デバッガーズ:チヌシティ・クエスト  作者: テロメア
三章 立ち上がった正義、犠牲になった愛
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三章4

「さてさて、そろそろ語りには語りで返す時間ですね」

 エレベーター前――門番と言うより、時間稼ぎ的な雑魚〈ザダニヱズ〉の頭にダンッと一発撃ち込んでいると、唐突に燐がそんなことを言ってきた。

「何を語る気だ?」

「あ、その前に。旭人さん旭人さん、旭人さんはどうして電戯士に成ったんです?」

「成った理由?」

「はい、興味があります。だって、助けられたからだけでは、普通はこんな危険度が高い仕事は目指さないと思うんですよ。だから、どうしてかなーっと思いまして」

「話すと短いよ、それでも構わないかい?」

「え、短いんですか?」

 燐が目の前のザダニヱズを一撃で、頭をぶん殴り砕きながら驚いた顔をする。

「そうだ、驚け。僕にはな――ドラマチックな人生と言うものは、ないッ!」

「エー、ビックリデス!」

「まだ何も言っていないぞ。纏めるとだな――『ゲームをしているだけで、仕事をしていることになるってチョー楽じゃね? よし、電戯士になろう。命も救われたし』である」

「うわ、軽っ。命を救われた感がまったくないです!」

 本当の理由は話しても仕方がない。

 これは僕の復讐なのであって、他人を極力巻き込むべきではないのだから――右方向のザダニヱズの足に一発、跪いたところを通りすがり様に頭に一発撃ち込む。

「んなこと言ってもさ、偉人の人生じゃないんだ。そんなもんだろう、ふつー?」

「違いますっ」

「何だと、力強い反論が!?」

「ドラマチックなことがないんではなく、ドラマチックな物言いにするのですッ」

「ナ、ナンダッテー」

「わたしのお手本を訊くとよいのです――わたしが初めて人を好きになったのは、中学二年の秋のことでした。その前の年、平年に比べて寒さが残っていて、桜がまだ咲ききってない中学一年の春に、わたしは母を亡くしました。信号無視による一方的な事故で、わたしの母は殺されました。わたしは母が大好きで、いつも買い物にはついていたし、料理だって毎日一緒に夕飯を作ったりしていました。そんな母が唐突に奪われてしまい、わたしは目の前が真っ暗になりました。気がつくと入学する予定だった中学校も行かず、家に閉じこもるようになりました。そんな生活を半年ぐらい続けたある日のことです。父が同僚さんの勧めでわたしを心療内科に連れて行きました。診察結果は鬱病でした。一年ほど入院しました。その間に、割と友達も出来て、内向きだった心が少しは前向きになった頃、わたしは学校に行けるようになりました。少しは前のように明るさを取り戻していたわたしは、遅ればせながら部活見学に行き、そこで初恋をするのでした――弓道部の部長さん。()(はら)先輩。その方がわたしの初恋の相手でした」

 三倍速の音声で飛んできた言葉の山に、僕は思わず呻く。

「長いよ、何それ? 誰だよ、三原先輩って? 電戯士を目指した話は?」

「しー、今から良いところなんですから、黙って聞くのです――動機不純ながら早速入部手続きをして、初心者の方がまずする練習方法、棒に太い輪ゴムのような物がついたゴム弓という物を使って、それを弓の代わりにまずは弓を引く型から練習しました。始めから矢を飛ばせると思っていたので、ちょっとがっかりでしたが、わたしが練習しているとその向こうで、タンッと見事に的を射る三原先輩がとても凜々しかった――それだけで満足していれば、これは中学校時代の淡い初恋で終わったのに……」

「往々にして初恋って、そんなもんだよね」

「わたしは二学期の終わりに、三原先輩に告白することにしました。そこから、わたしの悪夢は始まったのです。部室のロッカーに入れたラブレターで、放課後の部活終わりに道場でお待ちしております、という内容でした。日が傾くのが早くなっていた秋の終わり。外は真っ暗な中。結局、三原先輩は来てくれませんでした。しかし、次の日にわたしはその理由を知るのでした――わたしが書いたラブレターのコピーが、クラス掲示板に張り出されていたのです。わたしはラブレターをあえて手書きで紙に書きました。それがスキャンされてデジタルな掲示板に載せられていたのです。クラスメイトからのくすくすとした含んだ笑い、昨日まで話していて友達だと思っていた子らからの無視。訳が分かりませんでした。でも、そんな歪んだ空気の中、それが心地よいという風に佇んでいる子が、『あたしの彼に色目を使うなんて、チョーキモいんですけど?』というひと言で疑問が消えました」

「ほうほう、面白い展開に」

「彼女、(やま)(たに)さんはこのクラスでのスクールカーストの上位にいる存在でした。彼女はこのクラスを仕切り、集団でクラスメイトの(はな)(ざき)さんを無視していじめていました。わたしもその空気に逆らうと、とばっちりを受けるのが怖くて、一緒に無視していました。いじめに気がつかない振りをすることで、自己弁護しつつ、結局はいじめ犯に荷担する一味となってしまっていました――でも、今日はそんな花崎さんが他のクラスメイトと話している。そのことに気がついた時、わたしは今度のいじめのターゲットがわたしに向いたのだと理解しました。理解した頃には、もう既に手遅れで――部活に行っても、集団無視をされるようになりました」

「あらら、よくある話だよねー」

「でも、それだけなら、わたしの心は壊れずに済んだでしょう。ある日の部活動に行く前、その放課後、わたしのクラスに三原先輩がやってきました。わたしは凝りもせずに、ドキドキと高なる心を抑えるのに必死でした。三原先輩が先に言いました。『ごめんね。()()に言われてさ。ちゃんと君の気持ちに返事をしてやれって』と。彩恵とは花崎さんの名前でした。『正直に言うよ』と三原先輩は、『デブの子ブタに興味はないんだ。ごめんね』と」

「おやおや、随分とストレートな物言いですね」

「わたしの体型は鬱病になってから、薬を服用するようになり、その副作用でどんどんと太くなってしまっていました。その頃には、若干精神的に落ち着き、体重が減少していた頃だったのですが――ダメだったようです。そして気がつくとわたしは泣いてしまいました。すると三原先輩がわたしの肩を叩き、『違うだろう』と言ってわたしの鼻を押し上げていいます。『ブタはこうブーブーって鳴くんだよ』と。そう三原先輩が言うと、後ろから笑い声が響きました。花崎さんとその取り巻きの皆さんでした。それが好きな人に触れられた最初で最後のことでした――ああ、なんてわたしは可哀想なんでしょう。慰めてください、旭人さん!」

「アハハハハ、ヒデェ話、チョー惨めッ」

「マジで一回本気でボコりますよ?」

「ごめんなさい。明らかそんだけ語れるんだから、もう振り切れているのかと――んで? 結局、電戯士を目指すまでの話は、いったい、どーなったんだよ?」

「おっと」

「おっと?」

「これからですよ、これから――三原先輩にフラれて傷ついたわたしは、学校に行かなくなり家に籠もるようになりました。父にも何も言えなかったし、相談できる兄弟も友達もいなかったので、わたしはそのまま何年も家に籠もっていました。そんなわたしの心を癒やしてくれたのがゲームでした。いつしか電戯士という職業に憧れ。つい先日、初めてその試験会場に足を踏み出したのです。久し振りに出た外に、わたしはドキドキと胸が高鳴りました。その実技試験でわたしは久し振りに異性とまともにお話が出来ました。そしてわたしは性懲りもなく、その異性に好意を持ってしまいました。でも、現実で鏡を見て、あの三原先輩の言葉を思い出して、わたしはこの好意を封印しようと決めました。それなのにわたしは、わたしは……。こんなことをその異性に伝えてしまっているわたしは、どうしようもなく、その異性に惹かれているのだと思うのです――これがわたしというバカな女の総てです」

「ホント、バカだねぇ」

「え? なんですって、ちょっと電波が悪いようです。言い直してください」

「う? うわーっと、可哀想過ぎて言葉が出ないよー。てか、最後巻いたでしょ?」

「巻きました。こいつで最後なので――」と言って、燐がザダニヱズにハイキックをかまして、黒い砂へと変えていた。「てか、倍速で言うのに疲れました。癒やしてください」

「あとでエロいことしてあげるよ」

「殴り潰しますよ?」

「何をッ!?」

 僕は戦々恐々としつつ、エレベーターのボタンを押す。

 チーンという電子音とともに、エレベーター到着した――そこにはぎゅうぎゅうにエレベーターの箱内に詰まったザダニヱズ――僕は拳銃からマシンガンに持ち替えて、ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ――と、百発ほどばら撒き蜂の巣にした。

 総てのザダニヱズが黒い砂へ還元された。

「てか、どこまでホントよ? 話が整理整頓され過ぎてて嘘くさいって」

「さぁて、どこまででしょう? ふふんっ、わたしは謎多き女の子なもので」

「はーん」と生返事をしつつ、僕らはエレベーター内に入った。そうして、どうしてだか、僕は思ったことがそのまま口から零れた。「僕はさ――いじめられている奴ってあんま信用できなんだよね。いじめられているのを助けたあと、ターゲットがこっちに向くのは分かる。でも、そのいじめ犯の中に、さっきまでいじめられていた奴が入っているのは、やっぱり納得いかなかったかなー。だからさ、いじめられる奴もいじめられる奴なりに理由があるんだよ。僕からしたら、お互いクズ同士仲良くしているようにしか見えないって感じ?」と、一方的に。

「旭人さんも大概ですね。でも、やっぱり、正義漢なんですねっ」

   /

 その言葉に僕は反応できないまま、エレベーターのドアが閉まった。

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