三章5
ダンッ――と、エレベーター内に湧いたザダニヱズを撃ち抜く。
すると、チーンと丁度屋上に着きエレベーターのドアが開き、撃ち抜かれたザダニヱズが屋上へと転がった。胴体を撃ち抜いただけなので、もう一発頭を狙っていると――そのザダニヱズを巨大な氷の柱が踏み潰す。否、その氷の柱は巨大なものの一部であり、そいつは氷を纏った全長十メートルはあろうかと思われる巨大な蜘蛛のエネミーだった。
蜘蛛のエネミーが現れると同時に、その名が表示される。
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〈ハヴィージャー〉
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初めて見る種類のエネミーだ。
今回の目玉エネミーだと思われる――そいつが蜘蛛の頭辺りをもそもそと動かし始め、表面の氷が砕けたと思うと、そこから現れたのは仏像のような仏の顔/そいつが目をカッと見開くと、こちらを見て至極愉快なものを見る目で笑みを作る。
「何じゃ、カンダタの力を感じると思えば、小娘に小僧とはな」
このゲームを大雑把に説明すると――主に芥川龍之介の『蜘蛛の糸』がモチーフになっており、そこで描かれたお釈迦様と犍陀多の因縁、そして本来は弥勒菩薩の浄土であるはずの極楽浄土にいた不自然さなどなどを加味されつつ、犍陀多に恩義を返すことができずに、糸を切られた小蜘蛛がのちに妖怪化して女郎蜘蛛となり、犍陀多と結ばれ生まれたのが、プレイヤーの設定である犍陀多の血を引くというものになっている――ゆえに、カンダタの力を感じるというのは、そのプレイヤーのアバター設定内にあるカンダタの血のことを指す。
「なんだ、そっちこそただの蜘蛛は引っ込んでいろ」
会話は大抵何を言っても反応が返ってくる。
なので、ここは自分たちが盛り上がるために、挑発的な台詞を言う。
「我が一族の恥――ここで断ち切ってくれようぞ」
どうやら、このハヴィージャーは小蜘蛛の血族さん設定のようだ。
燐が本気モードのようで、ハンマーを構築して「かかってきなさいっ」と、巨大なハンマーをブンッと振るって相手に突きつける――「よかろう。望み通り、氷漬けにしてくれるわ!」と高らかに仏像顔が大きく口を開いて吼えた。
僕も構築した太刀を構える。
ハヴィージャーの高らかな咆吼とともに、相手のヒットポイントバーが眼前に表示される。
広いとは言えない程度の屋上で、僕らは左右に散開――このゲームでは皆が敵と戯れるというのがコンセプトゆえに、前衛とか後衛とか言うものはあまり関係ない。
つまり、自由に遊んでも大丈夫と言うわけだ。
僕が試しに銃を三発撃ち込んでみる。が、氷の装甲に阻まれヒットポイントバーは削れない。ならば――僕は武器を持ち替え、ロケットランチャーを取り出して一発撃ち込む。弾頭は煙を噴きながら着弾/爆発。しかし、表面に罅が入る程度で、ヒットポイントバーに変化はなし。
「堅いな」
「罅が入るなら、砕くまで!」
燐が突っ込んで行き――地面を大きく蹴り、飛翔――そこに攻撃の蜘蛛の足が飛ぶが、それを魔法陣を足場にした二段ジャンプにより回避、一回転してその罅の入ったところにハンマーを振り下ろす――ビシッ――と大きく罅の入った氷の装甲が砕け、蜘蛛の足が顕わになる。
「ナイス」
僕は刀を引きの姿勢から一気に前に突き出す――その際に、地面には魔法陣が縦長に展開しており、表面の摩擦抵抗をゼロにし、シャーッと滑るように敵の剥き出しになったところに刺突し、刀を突き刺す――ヒットポイントバーが揺れ減る――そのまま連続刺突攻撃を加える。そして削った部分に手榴弾を押し込め、ピンを抜き二人でステップバックで距離を取る。
爆発。
八本ある蜘蛛の足の内、蜘蛛自身から見て左の前足が吹き飛ぶ。
砕けて転がった前足に、大きく削られるヒットポイントバー――蹌踉めいたハヴィージャーは、そのままグルルルルと仏の顔で唸りながら、ビルの屋上から壁面へと移動する。
「おっと、逃がすかよ」
「追撃開始するでありますっ」
二人ともそのまま屋上のフェンスをひとっ飛びで跳び越え、ハヴィージャーを追う――ビルの側面を走って降りている大蜘蛛に、飛小刀を屋上に飛ばし噛ますことで振り子の要領で、僕は大蜘蛛の右から、燐は左から大きく揺られつつ攻撃していく。
二人の攻撃が重なるように、ビルの壁面を走り速度調整。
大蜘蛛の近くにいくと、集中攻撃をする――右から左から、刀とハンマーの攻撃が乱れ打たれる。大蜘蛛が糸を吐いてこちらの動きを封じようとするが、糸を放つ瞬間にその頭にロケットランチャーを撃ち込み、自身に絡みつかせる結果となる。
左籠手から伸びるワイヤーを摑みつつ、ビルの側面を走り抜けて――一閃――蜘蛛の足がまた一つ切断され下方へ落ちてゆく。傷ついた部分は瞬時に氷の装甲で覆ってしまうので、違う部分を狙う他ない――ハンマーがまた一つ足を砕いた/瞬時に氷の装甲。
「HPが中々減らない――が」
「足が全部砕かれたら、落ちるしかありませんよね」
残りの二本の足を同時に斬る/砕く――すると、「お、おのれ――」と言いつつ、ハヴィージャーが、中階辺りの窓に突っ込み落下を防ぐ。大穴が開いた処へ――飛小刀を噛ませていたのを外すと、そのまま勢いよく入った。
と――待ち受けていたのは。
「おっと、これはこれは」
「氷ッ!」
氷で作られた足により、自由が戻ったハヴィージャーは、こちらに氷の足を振るってくる。
オフィスだと思われるそこは、暴れる度に書類やら机や椅子が飛び、ハヴィージャーを狙いづらい状況となっていた――仕方がないのでスプリンクラーの近くにいき、近くで連続発砲。すると、煙を探知し一斉に水が噴射される――それにより、空中を舞っていた書類などの紙類が重たくなり地面に張りつく。さらに、氷の装甲の奴の表面にも水が掛かり、氷の足の細かな間接部分に水が這入り込んで固まる。
「狙ってました?」
「もち」
こういう計算なら任せろ。
「止めは――」
「もち、同時ですよね」
僕と燐が同時に刀とハンマーで、その頭の部分の氷を砕き――剥き出しになった頭部/僕がもう一つの銃を燐に投げ、燐が受け取り構える――合同実技試験時の緋吠竜の時の如く/僕らは並んだ同じ銃で、同時に叩き込む。
一発、二発、三発!
ヒットポイントバーが完全に削られ、ハヴィージャーは氷の装甲が完全に砕け散る。
僕らは一歩離れたところに着地し、胴体だけとなった大蜘蛛の近くによる――すると、「こ、これで終わると思うな――」のところで、僕らは同時に拳銃を――ダダンッ――と叩き込む。
「敗者は黙って去れ」
僕がそう言い捨てると、燐が笑顔で両手を挙げた。
「わーい、斃したー。楽しかったぁー」
/
両手を挙げたままくるくると回りながら、とても嬉しそうにしていた。




