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オーバーゲーム・デバッガーズ:チヌシティ・クエスト  作者: テロメア
二章 変わりゆく日常のなかで
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二章5

 僕は眼前のビルを見上げる――一五階建てのビルが丸ごと、雪沢電戯士事務所だった。

 茅渟市三大電戯士事務所――(もも)()電戯士事務所、()()()()(づき)電戯士事務所、そして雪沢電戯士事務所――まさか、ここにこんなにも早く受けに来られるとは思わなかった。

 緊張で引きつったそんな顔を両手でぱちんっと叩いて、「よしっ」と気合いを入れていた。切り替えた彼女の顔は、凛としていて綺麗だった。

「行きましょう」

「ああ」

 僕らは入口の自動ドアを潜り、受付の女性に用件を言う――すると、「一五階で所長と副所長がお待ちです。ご案内致します」と、名札に『()(かわ)』と書かれた女性が「こちらへ」と案内してくれる。僕らは緊張して無口になりつつ、変な汗が浮かび上がってくるのを意識しないようにしていると、エレベーターが降りてきて、乗り込み――そのまま一五階へ。

 それにしても、所長と副所長が直々かよ。

 そりゃ面接だからそうだろうけど――マジか。

 燐の方を見ると、防護服の裾をぎゅっと握って緊張で目がかなり泳いでいる。

「燐?」

「へ、何? 今、余裕ないよ」

「ていっ」と、脇腹辺りをこちょこちょする。すると、「ちょっ、な――ひゃあははははははッ!」と、かなりの擽ったがりだった。

「何するんですかッ」

「緊張しすぎ。僕も緊張していたから、馬鹿なことをしてみた。ごめんごめん」

「もー……。ありがとうございます。少し緊張感が無くなりました」

「それはよかった」

 と、二人で小さく笑うと、受付嬢の十川さんも小さく笑っていう。

「お二人は仲がよろしいんですね。コンビで面接に来るだけはありますね」

「あはは――やっぱり、珍しいんですか?」

「それはもう。普通、相手を蹴落とすことしか考えていない自分勝手な人が多いですからねー。特に新人の面接となると……。こんなことを言っては何ですが、私個人としては実力はもちろんですが、職場の仲間としては仲良くできるような人が受かってほしいですね」

「よし、今から仲良くしましょう」

「そうしましょうっ」

 二人でそんなことを言うと、十川さんは楽しそうに微笑みながら――「はい、時間切れですよ。一五階です」と開閉ボタンを押して、僕ら二人を降ろして後ろで手を振って扉を閉じた。

 緊張が再び高まる。

 すると、目の前に二メートル以上あるであろう巨漢の大男が、その屈強な戦士の顔に砕けた笑みを浮かべていた――有名人だから顔は見たことがある。彼が所長の雪沢剣(けん)()さんだ。

「着いたなァ、お二人さん」

 野太い声が部屋に轟いた。

 そこは事務所のようで、周りに他の所属電戯士たちもこちらをじっと見ていた。

 僕は緊張で頭が真っ白になっていたのを、ハッとして自己紹介から入る。

「初めまして、僕は吉良旭人と申します。本日は、よろしくお願い致します」

 僕がそう頭を下げると、燐もハッとしたようで「わたしは富澤燐と申します。よろしくお願い致します」と続いて頭を下げる――すると、大きな声で雪沢所長に笑われた。

「相変わらず、新人というのは堅いのォ」

 そして僕らの後ろを見ていう。

「なあ、そう思わんか、桜子(さくらこ)よ」

 雪沢桜子――夫婦経営されている雪沢電戯士事務所の副所長だ。

 振り返ると――おや?――先程案内してくれた受付嬢の十川さんが微笑んでいた。

 そして速攻にイヤな予感に全身から汗がぶわっと噴き出す。桜子と呼ばれた十川さんは、そのアバターを変化させて、先程の二〇代前半ぐらいの女性から、四〇代前半いくかいかないか辺りの淑女の顔、立ち姿へと変化する――ゆ、油断していたッ! 隣の燐の頭にはクエッションマークが浮いているのが分かるぐらい混乱している。

「既に面接は、始まっていた、と?」

 僕は必死に紡いだ言葉は、豪快な声によって肯定された。

「そうじゃとも! いやはや、仲の良いカップルが来たもんだと、皆で見ておったわい」

 ぎゃーッ! あんなじゃれ合いをここの全員で見ていた、だと?

 全員が生暖かい目でこっちを見てくるぅ――ぐあ、視線が……痛し。

 すると、その副所長の桜子さんの後ろには、見覚えのある平面体のサラリーマンが立っていた。さらに奥には絡んでいた不良が二人。ま、さか――と思っていると、彼らも変化してその変装を解き、不良二人は知らないがサラリーマンはここの筆頭電戯士である(やま)(しろ)(じよ)(うじ)さんだった――や、やられ、た……。

 面接は既に終わっていた。

「まあ、そう言うことだ。気分の悪い思いをさせたことはすまなかったのう。しかし、これがウチの伝統的な面接方法であり、最初の問い掛けなのだよ」

「問い掛け?」

「電戯士の仕事は殆どが感謝されるものではない。そして、あのような気分の悪い助けた相手/依頼者や、不良二人組/悪い奴が今回の場合はそのまま悪い奴だったが、そちらの方が正しく依頼者の方がクズのことも多い――その時、君たちは反応するかを知りたかったのだ」

 すると、燐が何か言おうとして黙った。

 僕は彼女が熱血的な正義漢だとよく分かった今となっては、大体、何を思ったかは分かる。おそらく、「そんなのは間違っている」だろう。

「では、質問だ。君ならどうする、旭人君?」

「どうも致しません。与えられた状況下で、自分が出来る精一杯で依頼内容を守るだけです。何が正しいかなんて、本当の意味では絶対に誰にも分からないのですから」

「燐君は?」

「わたしは――わたしは、自分の信念に基づき、正しいと思うことを致します。それがたとえ、依頼内容に反することになろうとも……自分の正義を殺したくはありません」

 その両極端な回答を得ても、雪沢所長はその揺るやかな笑みを緩めない。

「うむ。補足するならば、旭人君の考えではどんな依頼でも冷静に(こな)せる一方、悪人に利用されやすいという欠点がある。燐君の考えでは独善的な正義に成り兼ねない一方、力を得たならば正しい道を選べるという強みがある――現状、我が事務所に二人とも相応しくない」

 その言葉は不合格通知相応のものだった。

 僕らが苦い顔をしていると、「しかし――」と雪沢所長は付け加える。

「二人の先程の揉め事が去ったあとの会話を聞いていると、お互いがお互いを補える素質があると、わしは感じられた。桜子、どうだろうか。ウチで育ててみないか?」

 そう言われた副所長は、にっこりとしており頷いた。

「いいと思いますよ。でも――」

「そうじゃな。やはり、実力を見せてもらってから決めようか」

 所長と副所長は、少し意地悪な笑みを浮かべて僕らを見据える。

   /

「では、二次試験と行こう。君たちの実力を見せてくれ」

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