二章3
冷蔵庫のメッセージボードに、『アニキにオムライス』とあった。
冷蔵庫を開くと、大きい器にオムライスが載っており、ケチャップで『ドンマイ』とだけ書かれてあった。妹なりの気遣いなのだろうと、ありがたく頂くことにする。
電子レンジに放り込み、500ワットで二分半。待っている間、ニュースサイトを眺めていると、今日も不幸速報が日本各地で続出している。トップニュースは戯魔保護団体とかほざくテロ組織〈ホワイトパラディンズ〉がまた各地でテロしていること、衆議院総選挙が控えていること、残暑がまだまだ続くだろうということだった。僕は少し前にニュースに上がっていたものを検索に掛ける。すると、その裁判が明日に開かれるということ、その日の内にはそれが傍聴可能ということをスケジュール帳に刻んでいると――チンッ――電子レンジが鳴ったので取り出すと、オムライスから湯気。大きめのスプーンと取り出し、食卓机にオムライスを置いて、両手を合わせて「いただきます」と言ってから、一口目を頂く。
ん、卵がまだふわっとしていて旨い。
チキンライスもちゃんとバターが絡んでいて美味しくできている。電子レンジでの再加熱ゆえに米粒の一粒一粒が痛熱いが、オムライス自体は上出来である――食べ終わり「ごちそうさまでした」と合掌してから、妹にメッセージを送っておく。
『うまかった。サンキュー』
すると、すぐに既読がつき返ってきた。
『地獄まで落ち込んだか?』
これは言い返しておく必要がありそうだ。
『地獄に行く前に他の天使に救われたよ。これから、面接という名のデートしてくるよ』
すると、短く『女誑しめ』とだけ返ってきた。
スタンプでは中指を立てたブタがこちらを睨んできていた――スタンプは大体会話の終わりに送るのが妹との会話なので、こちらは『いってきます』という敬礼するウサギのスタンプを送っておいた――さて、と。部屋に戻るために階段を上がりつつ、時間を確認する。
時刻は――午後一二時四五分。
ちょっと早いが、構わんだろう。
自室にある仮想現実へのアクセスポイント――その椅子に座り、ヘッドギアをセットしゆったりと凭れ掛かる(最近は外部装置で肉体だけを自律させて、ログイン時に勝手に運動なり買い物なりをしてくれるというアプリ〈フリーボディ・ライフ〉なんてのもあるが、肉体をプログラムに任せるというところが怖く、僕はまだ手を出していない)。そして電脳とのネットリンクを確認し、ログイン認証画面にイエスと応えて――ログイン</login>――瞬きすると、次の瞬間には茅渟市にいた。
中央茅渟駅。
そのトランスポートルームから出て、待ち合わせ場所のドラゴン像前まで歩いていく。雑踏は皆、揃いも揃って通信料金を抑えるために、アバターを極限にまで簡素化した平面体のモブターばかりだった――モブター。つまり、モブ的アバターの略称スラング――電戯士など戦う必要性がある者たちは、そうしたモブターとは逆にアバターに力を入れている。ゆえに、逆にモブターからはカネターと呼ばれている。カネが掛かっているアバターの略称スラングだ。
よって、カネターたる僕は、モブターから視線を浴び易い。
ただでさえ注目され易いのに、電戯士法には常時武装をし、目の前の危機に対処せよとあるので武装までしている。ゆえに、こちらの武器にモブターたちがチラ見してくる。
やーれやれ。
そして、待ち合わせ相手を見つけるのも容易である――ドラゴンの像が建っている駅内、そのドラゴン像の前に巨大なハンマーを装備した女電戯士の姿があった。小麦色の肌に短い銀髪、左サイドにひと房だけの三つ編み、凛とした黄金色の瞳、左目の下には銀のタトゥーでデザインハートが彫られてあった。
「お待たせ」
「ううん、今来たとこっ」
「なんだ、その温い台詞は?」
「うっそー。三〇分以上前に来たから、待ちくたびれました。何か奢ってくださいな」
それこそ、温い会話をしながら、僕たちは目的地に向かうことにする。
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向かうは駅から一五分ほど歩いた場所にある――雪沢電戯士事務所だ。




