異世界 エピソード 勇者VS魔王ぼっち
勇者「魔王よ、お前が持っている魔法をよこせ!」
魔王「断る!」
「・・・。」
「・・・。」
「勇者よ、なんかわし、すごく恥ずかしいんだが・・。」
「言うな!俺だって恥ずかしいのを我慢しているんだ!」
「お主、あれだけめちゃくちゃやってわしの元に来たくせになんでこんなテンプレに乗っかるんだ?後、セリフが逆だ。」
「うるさい!それがこの世界の作法と聞いたからだ!俺は悪くない!全ての諸悪はお前だ、魔王ぽっちよ!」
「いや、わしは生まれも育ちもここだが、そんな話は聞いたことがないぞ?」
「そっ、そんなわけあるかぁ。師匠が言っていたんだぞ!師匠の言う事はほぼ絶対だ!」
「お前の師匠とな。誰じゃ、そんな戯言を言うやつは。」
「大魔法使いだ!」
「うわ~っ、大魔法使いってあの大魔法使いか?」
「あのだか、そのだか知らんがそうだ!」
「勇者よ、お主外れクジを引いたのぉ。あやつは魔法使いとは仮の姿、本性はこの異世界で知らぬ者はない大迷惑人。二つ名は『出来損ないの悪夢』だ。」
「馬鹿を言うな!俺の師匠はそんな・・、あれ?思い当たる節があり過ぎる・・。」
「だがあやつは死んだはずだぞ?あの時は国を挙げて祝ったぞ?いや~、あの時はわしも初めて平和っていいな~と思ったものじゃ。」
「・・いや、師匠は死んだ後、俺の世界に転生したんだ・・。」
「うわっ、最悪。お気の毒だのぉ。」
「でも、師匠は俺の世界ではそんなに暴れてないぞ!どちらかと言うと隠居生活だったぞ?」
「はて?転生で能力を失ったか?または改心したのかのぉ。転生は走馬灯を見るというからのぉ。己が行いを振り返り反省したのかもしれん。いや、あやつに限ってそれはないか。」
「師匠の爆裂魔法ってどれくらいでした?」
「うわっ、嫌な事を思い出さすな!わしが知っている限りでは10キロ四方が消し炭になったな。その爆音は300キロ先まで届いたと聞いている。」
あの人はそんな魔法を俺にしょっちゅうぶつけていたのか・・。
「しかも嫌味な事に「今回はこれくらいにしておいてあげましょう。」なんて言いやがったそうだ。可哀想に東の国の王は心を閉ざして引きこもりになってしまったそうだぞ。」
師匠、さすがです、精神攻撃も手を抜かれなかったんですね。師匠の言葉は神の御言葉、この世に抗えるものはいないでしょう。
「ところでお主は何しに来たんじゃ?わしは大魔法使いとは対立しておらんかったぞ?尋ねる先を間違えておらんか?」
「さっきも言ったけど、借金をチャラにする魔法ってのがあるんだろう?それを奪いに来たんだ。」
「ああっ、あの魔法か。あんなのを得る為にわしの領土を灰塵に化したのか?」
「あんなのって言うな!俺の国にとっては大問題なんだ!」
「お主の国には交渉という概念が無いのか?まずは話し合いから始めるものだろうに。」
「いや、その、何ていうか、ちょっとテンパってまして・・。すんません。でも、最初に魔王城のことを尋ねた相手の人はいきなり斬りつけて来ましたよ?」
「なんと聞いたのだ?」
「これから魔王をぶっ殺しに行くんだけど、魔王城ってどこ?って」
「お主、正直にもほどがあるな。アホなのか?」
「えっ?どうなんだろう?母ちゃんには馬鹿たれってよく叱られるけど。」
「まぁ、異種族間のファーストコンタクトはうまくいかないのが物語りの定石ではあるが、創作神の意のままに操られるとはお主もまだまだだのぉ。」
「すっ、すんません。」
「だが、済んだ事をいつまでもぐじゅぐじゅ言っても始まらん。許すことは出来ぬが、それは一先ず置いといて話を進めるか。」
「おおっ、さすがは魔王さん。懐がでかい!さすがは魔界の長。上に立つ者の鏡じゃんっ!」
「ぬふふふっ、これ、おだてても茶は出せんぞ。」
「で、魔法の方は?」
「あれは先々代がどこぞの放蕩領主に頼まれて創ったやつだからのぉ。あやつ、金とはあくまで物々交換の代用品という基本概念を理解できていなかった。金こそが物事の全てなどと勘違いしていた。そんなやつが貨幣の鋳造権利を手にしたからのぉ。あっという間に国が発行する金貨の価値が下がってしまった。」
「すんません。難しくて何言ってるのか分かんないです。」
「ははははっ、そうだろう、そうだろう。なに、気にするな。領民とはそうでなくてはならない。いい領民は考えてはならん。善良なる指導者に全てを委ねついて来ればよいのだ。」
「はあ・・。で、魔法の方は?」
「そうだのぉ、くれと言われてどうぞとやるのも、お主の所業を思うと素直には渡せんなぁ。」
「すっ、すんません。でもそこをなんとか、魔王様の寛大なお心で馬鹿な俺に恵んでください。」
「これこれ、あまり下手にでるものではない。交渉とは対等という立場で望まねば相手に舐められるぞ。」
「あっ、すんません。俺、こうゆうの初めてなもんで。」
「ん~、別にあれをくれてやるのは構わんのだがひとつ問題がある。」
「問題ですか?俺、馬鹿なんで試験はちょっと・・。」
「うん、お主が馬鹿なのは会話で分かっておる。わしが言った問題とは回答を答えさす方ではなく、解決せねばならぬ事柄があるという方だ。」
「すんません。わかりません。」
「いいから黙って聞け。あの魔法はマジックアイテム化してあるから誰でも使えたのだが、あのアホ領主が乱用した為取り上げ先々代が使用制限の呪いを掛けてしまった。」
「げっ、呪い!」
「いや、呪いといっても別に使用者をカエルに変えるとかいうものではない。」
「あっ、魔王さん、今カエルと変えるを掛けました?」
「おっ、本当だ。気付かなかった。お主、結構鋭いのぉ。」
「いやー、たまたまですよ。えへへ。」
「まっ、それは置いといて、あの魔法は魔王にしか扱えないようにしてしまったのだ。」
「??」
「つまり、お主に渡しても、お主は使えぬということだな。この呪いは先々代が掛けたものなのでわしにも解けんのだ。」
「えええ~っ!!」
「まあ、待て。方法がないわけではない。この魔法は魔王にしか使えん。逆に言えば魔王なら使えるのだ。」
「??」
「つまり、勇者よ。お主、魔王になれ。」
「はぁ~っ?」
「わしも先代から魔王の称号を奪って早千年。些か飽きた。昨今ではみな魔王討伐よりダンジョン盗掘で財を得ることばかり優先しおるでな。お主のようなやつが来たのも100年ぶりじゃ。」
100年、千年って、こいつ何歳なんだ?
「だからといって魔王を廃業するわけにはいかん。これは世の理だ、守らねばならぬ掟だからな。本来なら覇気と野心のある者がわしに挑み、取って代わるのだが、ほれ、わしって部下に慕われておるからのぉ。近くの他部族共もわしを恐れて最近はおとなし過ぎる。だからお主が魔王になれ。幸い、あれだけ暴れておれば、この事を不審に思う者はいまい。」
「いや、俺、魔法を貰ったらすぐに帰らなきゃならないんだけど。」
「それに関しては大丈夫だ。戦いで傷ついたことにでもしておけば100年くらいは表に出なくても誰も気にしないからのぉ。」
「そうなの?アバウトだなぁ。」
「お主には選択肢はないはずだぞ。お主の望みは魔法なのだろう?だがその魔法は魔王にならねば発動出来ぬぞ。」
「・・・。」
「よせよせ、お主は馬鹿なのであろう?なら考えるだけ時間の無駄じゃ。わしは詐欺師ではない。嘘は言っておらんぞ。たまたまお主の望みとわしの願いが合致しただけじゃ。時代を紐解けばこのような事は幾らでもあったのだ。ただ勇者側の体裁が悪いので表にでないだけだ。真の交渉とは裏で密かに進められるのだ。
勇者よ、決断せよ。斬った張っただけが勇者の行いではないぞ。如何なる障害をも退け、時には裏切りすら受け入れ目的を達成すること、これこそが勇者の役目のはずだ。」
「・・わかった。いや、本当は全然理解できないけどわかったよ。俺、魔王になる。」
「ふふふふふっ、その言葉、もはや取り消すことは出来ぬぞ。」
「くどいぜ、おっちゃん。俺は母ちゃんと父ちゃんの息子だぜ?二言はないさ。」
「よくぞ申した、勇者よ!然らばわしを倒し、見事、魔王の称号を手に入れてみよ!」
「なっ?なんだよ、結局やるのかよ!」
「なに、通過儀礼だ。お主の実力は分かっておるがやはり一太刀交えねばな。かっこがつくまい?」
「くそっ、わかんねぇこと言ってるんじゃねえよっ!遊びと思ってると火傷するぞ!衝撃魔法!」
「くははははっ、なんだ、初手はそんなものか?少年漫画ではないのだから徐々に上げていく必要は無いぞ!それともお主の必殺技は死に際にしか発動できぬのかぁ!」
「ぬかせ!雷撃魔法『君の瞳は10万ボルト』だぁ!」
「アース展開!馬鹿め、電流は流れやすい方に誘導できることを学校で習わなかったのか!」
「うるせー!ちょっとぐらい学があるからって自惚れるなよ!降雨魔法『土砂降り』来い!」
「うわっ、こら!よせ、痺れるではないか。わかった、不純物を含む水は電導体になることを習ったのは関心である。では次はこちらから行くぞ!氷結魔法『ケルビン温度3』範囲限定!」
魔王が叫ぶとともに俺の周りが一瞬で凍りつく。俺は火焔魔法で対抗し凌いた。
「ぐわーっ!てめぇ、普通、水を凍らせるならマイナス1度で十分だろう!ケルビン3度だと?さらっと自慢するんじゃねぇ!」
「いや~、すまんな。わしも大人気ないことはしたくないんだが、わしの才能はふとした事で漏れ出てしまうでなぁ。許せ、心理攻撃『大人の時間』発動!」
『いや~ん、坊やったらすごすぎぃ~、お姉さん、こんなにすごいの始めてよぉ。』
「ぐはっ、なっ、なんだ。体中の血流が集中してしまう!」
「どうだ、小僧。今まで幾多の童貞勇者を葬ってきたわしの奥の手は。逆らえまい、幸せな夢に溺れて天国へ昇天するがよい!」
「があ~っ、くっ、くそぉ~、このくらい・・、俺はこのくらいで負けるわけにはいかないんだぁー!フルパワー!『聖なる御神体』の力を受けてみろ!」
俺は師匠から渡された『聖なる御神体』を広げて前にかざす。すると聖なる御神体は後光を発し、その金色の光を浴びた魔王はあまりの神々しさに膝を付いた。
「くっ、所詮、バーチャルは幻影。リアルには敵わぬのか。」
師匠!ありがとうございます!さすがは師匠です!最強です!
「ぐはっ!やるではないか小僧、さすがは大魔法使いの弟子だ。これからは大手を振って魔王を名乗るがよい。」
いや、勝ったのは師匠の『聖なる御神体』なんですけど。後、表立って魔王ですなんて言ったらみんなから石を投げられちゃうよ。そんなのはごめんだ。
その日、魔王と俺は魔王城から少し離れた町で魔王の世代交代を祝して乾杯した。いや、魔王の幹部という人たちもいたから結構な人数だったな。魔王は後のことは幹部たちが適当にやっておくから気にするなと言てくれた。でも一度くらいは顔を出せとも言われたな。
まあいいや、後のことは後になってから考えよう。今は国の借金をチャラにする方が先だ。
待ってろよ、秘密組織のみんな!今行くぜ!そっちに着いたらご先祖様が作った借金なんか俺が魔法でチャラにしてやるからな!そしたら組織から貰った帝国新券120枚でどんちゃん騒ぎだ!
-完-




