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異世界 エピソード 師匠は俺に厳しいよ

帝国の秘密組織に呼ばれて3日目。今日から俺は勇者に成るための特訓が始まる。

本部の食堂で朝昼晩の飯と午前と午後のおやつを堪能していた俺は担当官に連れられ近くの山に登る。

なんでもこの上に俺を特訓してくれる先生がいるらしい。昔も今も先生と呼ばれる人は山の中にいるのね。人見知りなのか?

山頂へは昔はロープウェイがあったらしいけど戦後の混乱でメンテナンスが行き届かず廃止されたらしい。

おかげで徒歩だよ。いや、俺は慣れているけど担当官は結構堪えてるみたい。でも弱音は吐かないよ。そらまぁ、いい大人が14歳のガキに負けられんわな。でもどこに行くか知らんけどヘリくらい準備出来んかったのかね。本部の屋上にあったじゃん。下っ端は使えないのか?


それでも5時間ほどかけて漸く目的地に着いた。いや、俺は知らないよ。担当官がそう言ったの。

そこは山の頂部でなだらかな高原だった。そんな中にぽつんと1軒の小屋がある。いや、小屋とは言えんな。立派なログハウスだ。俺んちの何倍も広いぜ。

だけど担当官はそのログハウスに近付こうとはしなかった。後で教えてもらったけど結界が張ってあるんだって。今日は俺が来るんで目印代わりに視覚迷彩だけは外しておいたんだそうだ。でも進入防壁はそのままなので不用意に近付くと酷い目にあうらしい。

担当官は無線機で到着した旨を連絡している。

すると俺たちの前の空間がいきなり光った。しかし光っただけで何も起こらない。何だったんだ?

でも担当官は俺を促しログハウスの方へ歩き出す。途中で吹き溜まりを踏み抜いて体か埋まったのはお約束だ。これは進入防壁じゃないよな?


ログハウスではちっこい女性が待っていた。いやちっこいと言っても俺よりちょっとくらいだけど。俺もあんまり大きいほうじゃないからな。

「その子が転移適合者ですか?」

女の人が俺を見て担当官に聞いたよ。でも二人しかいないんだから聞くまでもないんじゃねえの?

「はい、名前は金治。14歳です。適合レベルはA++です。」

「それはそれは。分かりました。件の依頼、引き受けましょう。」

担当官はその言葉に安堵したのかほっとため息をついて俺に説明した。

「この方が先ほど話した異世界からいらした大魔法使いさんです。あなたには大魔法使いさんに弟子入りし、ここで勇者になる修行をしてもらいます。」

さいですか。まあ、よろしくお願いしますよ。俺は言葉には出さずに態度で返事を返す。

「では大魔法使いさん、後はよろしくお願いします。必要なものがあればご連絡ください。」

そう言うと担当官はそそくさと来た道を帰ろうとする。するとちっこい女性が止めた。

「雪の中大変でしたね。送ります。本部の屋上でいいですよね。」

そう言うと持っていた杖を一振りする。するとたちまち担当官の体が消えてしまった。びっくり仰天だ。どうなってんの?

「空間移動です。あなたは覚えなくてもよろしい。」

俺は言葉に出していないはずだけど、こいつエスパーか?

「今後、私のことは師匠と呼びなさい。決してちっこい、かわいい女の子などと言ってはなりません。」

なんか途中に言ってないワードが挟まってたんですけど。

「はい、師匠様。」

「様はいりません。」

「はい、師匠。」


こうして俺と師匠の二人だけの生活が始まった。・・こういうと何だかラブコメ展開ぽいけど実情は違うよ。はっきり言ってシゴキでした。朝昼晩、毎日シゴキ。いや、夢にも出てきたから夜もだな。24時間一緒です。俺は1時間でいいから一人になりたかったです。ああっ、世界中のぼっちさんが羨ましい。一人で妄想する時間が有り余るほどあるなんて天国じゃないか!


さて、ここで師匠の事をちょっと説明しておこう。師匠は天才だった。しかも感覚派である。よって教えは全て擬音にて行われた。

「爆裂魔法は、己の中の魔力をぎゅっと圧縮してどぱぁーと放出することで発動します。やってみなさい。」

「・・はい。どりゃー!!」

ぽんっ・・

小さな爆竹が破裂したような音がした。

「違います。ぐっと貯めてどんっです。」

師匠、さっきと言ってる事が違います・・。

「・・はい。どかーん!!」

ぷすっ・・

「今のは中々良かったですね。その調子です。続けなさい。」

今の透かしっ屁みたいのがいいんですか?師匠はもしかして変態なんですか?

「おりゃー!!」

「もっと思いを込めて!」

「せいやー!!」

「よし!その調子です!」

「うりゃー!!」

「もう一息!」

「へろへろへろ~。」

数時間にも及ぶ特訓に俺の心が折れそうになったその時、変化が起きた。

ぼわーっ!

目の前に30メートルはあるかと思う火球が出現したんだ。俺はその爆風に吹き飛ばされ10メートルほど転がった。でも師匠は涼しい顔で元の場所に立っている。

魔法で防いだのかな?なら俺も一緒に守ってくれてもいいじゃん。見てよ、髪の毛がちりちりよ。

「よろしい。今日はここまでにしましょう。西の3キロ先にある森から薪を持ってきてお風呂の準備をしたら東の5キロ先にある谷の氷室から私の飲み物を1本だけ持ってきなさい。その後、夕飯の支度です。制限時間は1時間です。1秒でも遅れたらあなたはご飯抜きです。」

ねっ?絶対、シゴキでしょ?



さて、そんな師匠だが正体は異世界からやって来た転移者である。但し向こうでは死んでいる。こちらにあるのは魂だけだ。

でも、師匠は大魔法使いだから魔法で仮初めの肉体を造ってその中に入っている。

因みに戦いで死んだんじゃなくて結構いい歳で大往生したらしい。だから本当はババアだ。

でも師匠も女性だからね。仮の体は若いよ。まぁ、これは女性なら当たり前だよね。


何故師匠が死後こちらの世界に転移したかは謎だ。師匠自身は知っているらしいけど話してくれない。

師匠はその昔、こちらから偶然師匠の元いた世界へ転移した人間を知っているそうだ。昔といっても10年、20年じゃないよ。200年前だそうだ。うん、それが本当なら師匠は化け物だな。あっちの人は長生きなのか?

師匠は師匠の師匠から異世界のことは聞いていたんで異世界人といっても驚かなかったらしい。それどころかいい研究材料が手に入ったと、転移してきた人間を養ったんだそうだ。

でも、男女が一緒にいれは情も移る。師匠とその人はいい仲になったらしい。でも、寿命が違うからね。結局また独り身になっちゃったんだって。でも師匠の種族では、それは当たり前のことらしい。俺に話してくれた時もさばさばしたものだったよ。俺がしんみりしていたら頭を撫でてくれたよ。死について考えるのは良いことだと言ってくれたよ。その日俺はばあちゃんのことを思い出して少し泣いたよ。


そして、今日もまた師匠の特訓は続く。

「今日は防御系の魔法を教えます。これは隔離障壁といって任意の場所や物を外部と遮断するものです。勿論自分自身にも掛けられます。」

「はい。」

俺一応、返事はしたけど師匠が何言ってるのか分かりません。

「隔離障壁は己の中の魔力をぐるんとこね回して対象物にべたっと貼り付けることで発動します。では見本を見せてあげます。」

師匠の説明は相変わらずだ。こねてぺた?壁の補修ですか?

師匠が杖を一振りすると、・・何も変わりません。

「私の周りに隔離障壁を施しました。試しに何か攻撃してみなさい。」

「だっ、大丈夫なんですか?」

「ああっ、見えないから不安ですか?あなたはまだ魔力を見るのに慣れていないので感じられないのですね。ならこれならいいでしょう。」

師匠の言葉が終わらない内に師匠の体をガラスのようなものが包んだ。

「さあ、来なさい!シゴキの成果を見せるのです!」

師匠、自分で言っちゃってるよ。

「でゃー!爆裂火焔術!」

まぁ、俺は師匠を信じているからね。だから俺がその時習得していた最大の攻撃魔法をぶっ放したよ。真っ赤な火球が師匠を包み込むよ。この前、森の大木を標的に試した時は炭も残らなかったやつだよ。

でも結果は惨敗。火球が消えた後には髪の毛1本焦げていない師匠がいたよ。ゲロゲロ。

「今のは中々でした。しかし、あなたの術にはエレガントさがありません。爆裂魔法は至高の術。もっと精進しなければなりません。私が見本を見せましょう。隔離障壁で防御しなさい。」

ちょっ、ちょっと師匠!爆裂魔法じゃなくて隔離障壁の特訓だったんじゃねぇの~!

俺は死ぬ思いで師匠がさっき見せた隔離障壁を真似る。すると俺の周りを例のガラスのようなものが包み込んだ。俺はそれにありったけの魔力を注ぎ込む。師匠は爆裂魔法に関しては手加減を知らない。火焔が消えた時に塵も残ってないなんてまっぴらだ。

そして師匠の爆裂魔法が俺を包み込む。俺の隔離障壁は1秒だけ耐えた。だから殆どの熱量は弾き返したが余熱でこんがりパーマを掛けてもらいました。眉毛もちりちりだ。

ほんと師匠は俺に厳しいよ。


そんなこんなで俺と師匠の特訓は続いたよ。でも師匠、向こうの世界では弟子が居つかなかったんじゃないかなぁ。教えるの下手すぎ。


師匠は俺に厳しいよ。でも、それは愛ゆえだ。師匠はもう向こうへは戻れない。なんたって死んでいるんだからな。もしも戻れるのなら自ら出向くはずだ。いやそれどころか、もし俺が絶対死なない方法があり、それを習得するのに師匠の魂が対価として必要なら師匠は躊躇わないだろう。


師匠は俺に厳しいよ。でも、それは俺を死なさないためだ。任務の成功云々じゃなくて、だだ単に俺という一人の男を死なないようにするための厳しさ。つまり、愛なのさ。

因みに、俺が言っている愛という言葉は男女の好きだ、嫌いだではないよ。

師匠の愛はそんなちんけなものではない。俺も難しい言葉はわからないからうまく言えないけど、強いて言えば慈しみ?

一人で生きていけるよう狩の仕方を教える猛獣の母ちゃんのようなものか。


でも師匠は時々俺を見ていない。俺を見つめながらも別の誰かを見ているようだ。

もしかしたら師匠は昔、異世界でパーティーを組んでいた相棒の影を俺に見ているのかもしれない。



□□□大魔法使いの時間□□□

大魔法使いは金治の寝顔を見ながら思う。

勇者は強い。その力はほぼ無敵とも思える。しかし、油断しているとナイフの一刺しでその生命の火は儚くも消えてしまう。

勇者は強い。だから強敵が次々に現れる。正面切っての戦いなら負けることはないが弱者は姑息だ。あらゆる隙を突いてくる。

勇者は強い。故に庇護を求めみんなに頼られる。守るものが多くなるにつれ勇者は弱くなる。


全てを守りたい。しかし、全ては守れない。やがて勇者は自滅する。己の無力を嘆き、守りきれなかった者の事を思い、その咎を自分の胸に突き刺す。全ての感情が内向きに作用し、その行き着く先は空虚だ。


しかし・・。それでも私は願わずにはいられない。

勇者よ、逃げるのです。あなたの本当の敵はあなた自身です。有り余る力を用いてあらゆるものを守りたいというあなたの願い。その願いがやがてはあなたを滅ぼす。

逃げなさい、勇者よ。世界はあなたが思っているほど弱くはない。そして、あなた一人で守りきれるほど小さくもない。

私たちを信じてください。確かに幾度も失敗するでしょう。時にはあなたの助けを渇望するかもしれない。でも私たちはひと泣きしたら涙を拭い立ち上がります。そしてあなたが夢見るあの丘の向こうに歩き出します。

そこにあなたの犠牲は必要ありません。私たちが起こしたことに対する対価は私たちが払います。


やさしい勇者。優しすぎる勇者たち。どうか、私たちの為に死なないでください。



じゃじゃ~ん。あれから2ケ月が経ったよ。今では俺も一端だ!そんな俺に師匠が言うよ。

「金治よ。あなたには私の持つ全てを教えました。そしてその内の10パーセントの習得に成功した。よって今から勇者を名乗ることを許しましょう。」

がぁ~ん!あんなに修行したのに10パーセントですか・・。俺って実は才能なかったのか?とほほ。


異世界に転移する日、師匠は山から降りてきてくれたよ。そしてそっと柔らかい物を俺に握らせたよ。

俺はそれを知っている。師匠がついぞ俺に洗濯させなかった師匠のパンツだ。

「これを私と思ってかんばりなさい。」

師匠っ!俺はエロガキかー!!


-完-

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