帰るぜ!
12月18日 金曜日。俺たちがここに来てから6ケ月あまり。最初は想定外の出来事にどうしようかと悩んでいたがなんとかなったよ。
考えてみりゃドラゴンに追い掛け回されるよりずっと楽だよな。あいつはあらゆる攻撃を跳ね除けやがるからな。反則生物だ。
それに比べりゃ、人間なんてちょろいもんだぜ。ご先祖様というシバリがなかったらここいら一帯、俺の縄張りにできたな。所詮警察の火力は拳銃と放水と煙玉だ。戦車や戦闘ヘリが出てきちゃうと厄介だけど、それだって人間が操縦しているものだからね。電撃魔法一発で終了さ。いや、だからやらないって!やらなかったでしょ?
ここまで待ったらネルにクリスマスを見せようかとも思ったけど、この国のクリスマスって見ても面白くないから止めた。いやキラキラしたイルミネーションとかは綺麗だと思うけど宗教イベントとして説明するのが難しいじゃない?別に神様を蔑ろにしている訳じゃないだろうけど、宗教系の異文化って禁忌に触れたら争いのもとだからね。ネルは神様が大好きだからこの国の宗教系イベントは肌に合わないと思うのよ。
でも、ネルちゃん、この国には数え切れないほどの神様がいらっしゃるから一柱ごとへの思い入れはこんなもんなのよ。分かってね。
お正月ですら見物としてはイマイチだからな。人がうじゃうじゃ居るのは都心で見たから二度目はね。インパクト薄いっしょ。
「ここいらにするか。」
「うん。大丈夫。」
俺は郊外の河川敷を跳躍の場所に決めた。この川は60年後も変わらずここにあるから基点としていいかなと思ったのだ。山は今、雪だらけで登りたくないしね。
「おばあちゃん、お姉ちゃん、ありがとう。さようなら。」
ネルが見送りに来てくれたばあちゃんと姉ちゃんに最後の挨拶をする。
ばあちゃんは未だに半信半疑だったけど、俺たちが消えて腰抜かさないかな。まぁ、姉ちゃんがいるから大丈夫か。
「ネルちゃん、おにいちゃんの言う事をちゃんと聞いて危ないとこに行っちゃだめよ。」
ばあちゃんは、ネルの心配ばかりだ。いや、別に拗ねてないよ。俺、男の子だからね。強がってなんか・・ぐすん。
ばあちゃんは、ネルにお菓子を持たせる。そして俺にも白い紙に包まれた何かを差し出して言葉を掛けてくれた。
「あんまりがんばってはダメよ。ご両親が心配するからね。」
「大丈夫だよ、ばあちゃん。もう冒険は終わったんだ。後は帰るだけさ。」
ばあちゃんはそれでも何度も何度も念を押してくる。まったく心配しすぎだっつうの。
俺はばあちゃんたちに少し離れるように言ってネルの手を握る。
ばあちゃんがくれた紙の中には御札があった。身代わり地蔵のよりしろ木だ。
戦国時代、戦に狩り出された男たちの安全を願って女たちが神様に願掛けした風習の名残り。もしもの時はこの身を変わりに差し出すので男たちをお助けくださいと、戦えぬ女たちの願いがこもったよりしろだ。
よりしろ木の裏には名前が書いてあるはずだがそんなのは見なくてもわかる。
ちぇっ、みんなして俺を泣かせるなよ。俺は勇者だぜ!みんなを守るのが使命さ!
その為に授かった無敵の能力だ!俺にかかれば世界平和なんかちょちょいのちょいだ!
待ってろよ、秘密結社のみんな!今行くぜ!そっちに着いたらご先祖様が作った借金なんか俺が魔法でチャラにしてやるからな!そしたらこの帝国新券120枚でどんちゃん騒ぎだ!
あれ?秘密組織だったっけ?まぁ、いいか、どうせ俺、馬鹿だし。
でもただの馬鹿じゃないよ、世界一幸せな馬鹿だ!!
-完-
-最後に-
この世界で魔法を使えば借金がチャラになっちゃうのは言っちゃだめだよ。
初めは異世界から金治たちを追ってお金持ちのお嬢様が大量のネルフ金貨を持って追いかけて来て商売をする話だったんですが、どこに行っちゃったんでしょう?お嬢様。もう、恥ずかしがり屋さんなんだから。
本編は殆ど金治くんの日記状態でしたが、おかげさまを持ちまして終話まで書ききれました。お読み頂いた皆様に感謝の言葉を送らせて下さい。
ありがとうございます。
最後に、私は自前のネット環境を持っていない為、感想等へのお返事が間を置いたものになったことをお詫びいたします。




