ネルはやさしいよ
11月14日。マグマコアでの決戦後、俺は暫くミイラ男状態だったがようやくダメージが回復した。すごいね、大魔法使い級の治癒は。一体誰だったんだろう?
俺が消し炭状態からミイラ位になるまでネルは俺に付きっ切りだった。薬草を取ってきて体中に貼り付けてくれたよ。
やっとぷにぷにした皮膚が包帯の隙間から見えるようになって安心したのか丸2日寝込んだが、起きた時に包帯が取れた俺を見て抱きついてくれたよ。すげー痛かったけどうれしかったよ。
ネルはあれ以来、俺がどこかに行こうとするとくっついて離れない。
朝、学校に行く時も俺の靴を隠していく徹底振りだ。
放課後も一旦、家に帰ってきて俺がいる事を確認してから遊びにいく。
いや、それが普通だからね。寄り道しちゃ駄目よ。
それでも日が経つに連れまた日常が帰ってくる。友達と遊んでいる時は俺のことなど忘れているよ。でもそれが普通だから。当たり前だから。
ネルはもう生まれた時から住んでいるみたいにここに馴染んでいる。
小さい子たちの間では大将格だ。なるほど、仮の住まいとは言え長くなると情が移るんだな。30年後の首都圏避難民の人たちが帰郷を断念するわけだ。
ネルの魔力が貯まるまで後1ケ月ちょっと。俺はネルに春までここにいようかと提案する。卒業シーズンなら区切りもいいし。でもネルはきっぱり拒否する。10歳の子がだぜ。
ネルは自分の事より俺の帰還を優先してくれる。いい子過ぎて泣けてくるぜ!
姉ちゃんは相変わらずだ。でも俺の知らない所でなにやらこそこそやっている。
でもまぁ、そこは見て見ぬ振りだ。世話をして貰ったのは事実だし、何よりネルが懐いているからね・・。やっぱり絞めるか?
□□□お姉さんの時間□□□
秘密結社『あかるいーだ』との決戦後、瀕死の状態で戻ってきた金治にマジックアイテムで治癒魔法を施し、泣き疲れて眠るネルを撫でながら私はひとり感慨に耽る。
今回のことは全部、いづれ訪れる日本列島の崩壊を回避するためにネルのいた世界とは別の別世界の者が仕組んだことだ。金治が沈静化したマグマコアは、あのまま放って置くといずれ地殻変動を誘発し、この日本列島を海の中に沈めるはずだった。
今回の行為は歴史への介入であり、あまり褒められたことではない。しかし、ある人との約束を実現させる為には日本が崩壊するのはよろしくなかった。よって皇帝陛下の決断によりマグマコアの沈静化が決定された。
しかし、別世界の者はこの世界に直接手を出すことを最上位的存在から禁じられている。そこで別世界の者は、別件で知り合ったこの世界の勇者属性を持つ者をマグマコアに差し向ける。しかし、結果は芳しくなかった。
別世界の者が送り込んだ者の勇者属性はA型だった。しかしマグマコアを鎮めるにはB型の勇者が必要だったのだ。
別世界の者はB型勇者を探すが何処にもいない。やっと見つけたのは60年後の未来だった。
別世界の者は時間に干渉し、B型勇者を現代に召喚する。但し、時間齟齬の影響を抑える為、B型勇者に事情を説明できない。そこで一芝居を打った。
秘密結社『あかるいーだ』を使って勇者を誘い出し、マグマコアが『あかるいーだ』の最終兵器と偽り勇者に沈静化させようとしたのだ。
勇者の行動にはちょっとびっくりさせられたが何とかマグマコアは沈静化した。
これで日本列島は暫くは安泰だ。後は、勇者を元の時間軸に帰すだけだ。
私はネルを撫でながら金治を見つめる。何でこんな小さな男の子が世界を救わなくちゃならないんだ?しかも金治はそのことに疑問すら抱いていない。
危ない、危なすぎる。金治は自分の命を軽く見すぎだ。
まるで空腹な老人に自分の身を差し出すウサギじゃないか。
これが勇者の宿命なのか。
そんなものに頼らなければ世界は回らないのか。
そんな世界に意味があるのか?
私は、考えるのをやめた。
今ここにいる勇者は、いや全ての世界にいる勇者たちにとって世界の意味など関係ないのだ。
全てを守りたい。その想いを胸に自分の力を信じて歩いているのだろう。
私は、勇者の頬を撫でながら心の中で呟く。
金治、ありがとう。




