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種の衝突  作者: 宮沢弘
第二章: 会議のはじまり
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2−3: 休会

「先程、北のクローから、関係を見極めるという発言がありました。また、それに先立って、キューバ危機はこの会議とは関係がないという発言もありました。ニー・バンスマン、キューバ危機以降の情勢を無視して、南からの発砲のみをこの会議で検討することは可能でしょうか?」

 マーシパルは改めて意見を求めた。

「メキシコにおいて両軍が対峙していたことは、南北のクローから提出された資料に矛盾はありません。では、なぜ対峙していたのか。その理由がはっきりしなければ、キューバ危機以降の情勢がこの会議と関係するかどうかの判断はできません」

 バンスマンは答えた。

「こちらは、提出してもいいと考えます」

 別の声が答えた。それは南のクローからのものだった。

「北から、どれほどの圧力があったのかを知ってもらうためには、提出してもかまわないと考えています」

「それは、北の、キューバ危機はこの会議とは関係ないという主張を否定するものですか?」

「それは…… 関係はないが、資料を提出することにやましい点はないということです」

「すると、北が資料の提出を拒むのは、やましい点があるからという告発ですか?」

「馬鹿げたことを言うな!」

 北のクローの一人が言った。それを皮切りに、北のクローの中で、南のクローの中で、そして南北間で、意見とも野次ともつかない言葉が飛び交った。

 その状況が収まるのを、ハイデルベルゲンシスも、ネアンデルターレンシスも、フローレシエンシスも、十五分ほど待った。

「しばらくの休会を求めます」

「こちらも同じく休会を求めます」

 南北のクローが言った。

「それでは、キューバ危機以降の状況についての資料が提出されることを期待して、一時間の休会とします」

 マーシパルがそう宣言した。


   * * * *


 会議場の外に、出席者は三々五々出て行った。

 バンスマンが会議場の扉を出ると、そこにはコーヒー、紅茶、オレンジ・ジュース、水、そして軽いつまみが置かれた机が並べてあった。

 バンスマンはオレンジ・ジュースをカップに注ぎ、味を確かめると、水をすこし注ぎ足した。

 後ろにいたクランスも同じようにした。

「すこし酸味が強いな。昨夜のワインもそうだったが」

「こっちだと、強い味が好まれるようだがね」

 二人はガラス張りの壁際の椅子に座った。

 バンスマンがあたりを見ると、ハイデルベルゲンシスは他の種が集まっている箇所に散らばっているようだった。フローレシエンシスは一塊になり、デバイスでなにやらやっているようだった。一人、ハイデルベルゲンシスの相手をしているが、それはフロー・フォイラであるように見えた。ネアンデルターレンシスの他の三人は、また別の場所で話しているようだった。

「ハイディ・マーシパルが君を指名したのは、なにか先に打ち合わせてあったんだろ?」

 クランスは訊ねた。

「まぁ、そんなところだ」

 バンスマンはフローを眺めていた。

「フローはよくデバイスを使っているな」

「あぁ。SNSとかが好きらしい。傾向としてはクローがよく使い、次がフローらしいが」

「私たちニーは?」

「かなり差がついて、ハイディと同じ程度らしいな」

「コミュニケーションか」

「そうだな、クローもフローもコミュニケーションが好きらしい」

「サービスは同じものか?」

「だいたいは、というところかな」

「リーマン、SNSの利用のしかたで、クローとフローに違いはあるのか? そういう資料があるならでかまわないが」

「はい。違いがあるようです」

「簡単に説明してくれないか?」

「クローはクラスタ内での活用の傾向があり、フローはクラスタ間での活用の傾向があるようです」

「えぇと、それはつまり?」

「まず、個人の間での活用は両者ともにあることを指摘します。その上で、クラスタの性質が異なることを指摘します。フローのクラスタは親族、あるいはそれより大きいとしても、主に血族によるものです。クローのクラスタは、主に話題によるものです。これらをヘルダにも転送しますか?」

「そうだな」

 そこでバンスマンはクランスに顔を向けた。

「リーマンからヘルダへの接続の承認を頼む」

 クランスはうなずいた。

「ははぁ。なんとなくわかったぞ」

 クランスはぽつりと言った。

「だか、これだけで社会の違いを指摘するのは難しいんじゃないか?」

「もちろん、それはわかっているさ。それに社会そのものの研究はずいぶんあるだろう? 私が納得できるような推論ができないかと思ってな」

「また荒っぽい理屈を考えているんじゃないだろうな?」

「荒っぽいのは間違いないな」

 バンスマンは苦笑した。

「だが、まぁ私のための推論だからな」

 そう言ってジュースを飲み干し、椅子から立つと、飲み物とつまみを取りに向かった。

「あぁ、すまないが。リーガルパッドとペンをもらえないかな」

 机のそばに立っていたスタッフに、バンスマンは頼んだ。


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