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種の衝突  作者: 宮沢弘
第三章: 三角形
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3−2: クローとフロー

「それでは午後の会議を始めましょう」

 デバイスから、マーシパルとは別の声が聞こえた。デバイスは、それがハイディ・サマールだと告げていた。

「とりあえず、現時点での軍事的行動は、南北ともに行なわないと言ってくれたわけですが。そうすると、今後が問題になる」

 サマールは言葉を区切った。

「正直なところ、私は、クローの間でのゴタゴタに人類連合が煩わされるのは不本意だと考えている」

「何を言いたいのか、はっきりしてもらいたいが」

 北のクローが発言した。

「はっきり? いいでしょう。はっきり言うなら、クローを人類連合の一員とは認めないという結論を出してもいいのではないかと考えている」

「そんなことは憲章からもできないはずだが?」

 同じ北のクローが言った。

「そう、憲章にはこうある。ホモ属の平和的共存のためとね。また、こうもある。互いを尊重しとね。この一言があるかぎり、クローの騒ぎに全人類がつきあわされる。ならば、クローを除くという一言を書き加えるのも一案だろうと思う」

「ちょっと待ってください」

 ニーア・ホーマーが発言した。

「その場合、クローはどういう立場になるのでしょうか? 人類連合から離れたとして、今回のようなことが知られることもなく、全人類が巻き添えになるのは得策とは思えませんが」

「そのとおり」

 サマールが答えた。

「そこで提案するのは、二つある。まずは、クローをホモ属ではないと政治的に判断し、相応の対応をするのが一つ。もう一つは、どれかが後見種族となり、クローには基本的にオブザーバー扱いで人類連合に参加してもらうかだ」

「再帰性と言ってもな」

 バンスマンはリーガルパッドを一枚めくり、四角形を描き、その対角線によって四っつの三角形を描いた。

「三角形、四角形と来て、その外側は五角形か?」

 そう言い、どうにも収まりが悪い五角形を、四角形の外側に描いた。

「まぁ、多角形を広げていく絵がないわけじゃないが。これはなぁ。六角形ならまだなんとか」

 新たに四角形を描き、その上と下に三角形を付け足した。

「だが、左右が」

 上下の三角形の辺を伸ばし、四角形の図にした。

「これなら、とりあえず四角形の中に四角形があるところまではなんとかなるが。違う気がするな」

 バンスマンはその図に、また何本もの斜線を引いた。

「では、後見種族としてはどれが適当だと思いますか?」

 ニーア・ホーマーはハイディ・サマールに訊ねた。

「私は個人的にはフローが適任ではないかと思っている」

「ふざけたことを言うな!」

 南のクローが大きな声で応えた。

「そんなエイ…… ホビットが我々の後見!? ふざけるのもいいかげんにして欲しいものだ! そもそもフローこそ、ホモ属かどうかが怪しいじゃないか!」

「そういう意見もあるにはありますね」

 サマールは静かに答えた。

「やはりモデルとしては三角形がいいように思うんだがなぁ」

 バンスマンは三角形の中に、同じ形の三角形を三つ描いた。

「それでも、こうじゃないとは思うんだが」

 バンスマンは各頂点から、中心に向かって三本の線を引いた。

「いや、これでいいのか?」

「今のホビットという呼びかたにも、訂正を求めたいところですが。ともかく言い直したことで、よしととしましょう」

 サマールが続けた。

「なら、四角形も五角形もこれでかまわないはずだが」

 バンスマンは呟いた。

「フローの直系は、むしろアウストラトピテクスではないかという意見もあることはありますね。ですが、ハイディ、ニー、クローとは早い時期に分かれてはいても、やはりホモ属と考えるのが妥当でしょう」

「だとしてもだ!」

 やはり南のクローが応えた。

「粗雑で粗末な建物に暮らしていた種族だ。それを私たちが文明に触れさせた。それが後見種族だと!? ふざけるのもいいかげんにして欲しい!」

「本気でそう言っているんですか?」

 サマールが訊ねた。

「本気もなにもな! それが歴史的事実だ!」

「もう一度訊ねます。本気でそう言っているんですか?」

「それ以外の事実ああるなら、教えてもらいたいものだ!」

「よろしい。ではハイディ・マーシパル、ニー・バンスマン、そのデバイスに求めます。クローと接触当時の映像および記録と、クローがフローに接触した際の映像および記録を編纂し、会議場前部のスクリーンに投影してください」

「バンスマン」

 リーガルパッドを眺めていると、デバイスがバンスマンを呼んだ。

「ん?」

「今のハイディ・サマールの指示に従ってもよろしいでしょうか?」

「指示? 指示ってなんだ?」

 デバイスはサアールからの要望の発言を再生した。

「わかった。パーキーとの接続も認める。そっちで勝手にやってくれ」

 数秒の後、会議場の明りは落とされ、スクリーンの火が灯った。


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