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種の衝突  作者: 宮沢弘
第二章: 会議のはじまり
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2−5: 四角形から五角形へ

「ニー・バンスマン、今のクローからの発言ついての意見を求めます」

 マーシパルから指名されても、バンスマンはまだリーガルパッドを眺めていた。クランスがバンスマンの膝を指で叩き、バンスマンはやっと顔を上げた。

「ニー・バンスマン? 意見はありませんか?」

「あ、ちょっと待ってください」

 そう言うと口元に手を当てた。

「リーマン、なんの話だ?」

 デバイスに訊ね、デバイスからの簡単な答を聞いた。

「利他的、利己的ね。クローが相手を揺さぶるのによく使う方法の一つだ」

 リーマンにそう応えると、バンスマンは顔を上げた。

「求められたので、意見を述べます」

 一呼吸置いて、バンスマンは続けた。

「クローの発言は、ハイディー、ニー、フローからの干渉を警戒し、また利他的、利己的という言葉を出すことでこちらの動揺を誘うことを意図したものと思います。もちろん、利己的な意図がこの会議に存在しないとは言いません。しかし、両大陸間で核が大量に使用された場合、それは全人類の生存にも影響します。そのような問題に対し、利己的という言葉でハイディー、ニー、フローの動揺を狙い、また干渉を警戒するのは、浅薄な議論手法にすぎません。クローの間での議論では有効な手法ではありますが、この会議においては有効な手法ではなく、むしろ不利益をもたらすでしょう」

 バンスマンは急いで答えた。

「ニー・バンスマン、不利益とはなんでしょうか?」

 マーシパルの指摘を聞き、バンスマンは口を開けた。

「言いたいことを急ぎすぎだ」

 左の席からクランスが小声で言った。

「不利益とは…… クローの発言に対する私たちの印象です。今、指摘したようなことがらを、私たちは常に検討の背後に置くことになります」

「確かに、ニー・バンスマンによる指摘のようなことはあるでしょう」

 マーシパルが応えた。

「クローには、ここにはハイディ、ニー、フローが揃っていることを忘れないように注意をお願いしましょう。クローの間での議論においては有効な方法であっても、この会議においては、有効ではないにとどまらず、警戒を生むこともありえます」

 バンスマンはマーシパルの言葉を聞き、息をはくと、またリーガルパッドを眺めた。

「えぇと、どこまで……」

「霊長類で最小のクラスタはと言っていましたが」

 リーマンが答えた。

「あぁ、それだ。霊長類で最小のクラスタは……」

 バンスマンはリーガルパッドに五角形を描いた。

 しばらくその五角形を眺めた後、五角形の対角線をすべて描き込んだ。

「いや、これも違う。なにか見えてこない」

 五角形をしばらく眺めてから、バンスマンは呟いた。

「さて、先に提出されている資料では、南北ともに軍部の動きが明確ではありません。そのこと自体は、今後想定される事態を考えると、提出を強要できるものではないでしょう」

 マーシパルは続けた。

「ですが、両大陸間での戦争は避けて欲しいと願います。ニーア・ホーマー、この会議のこの時点において、南北クローに求めることがあるとしたら、それはなんでしょうか?」

「難しいことですが、軍の行動の凍結でしょうか。ただ、それも確認することは難しいでしょう。でしたら、次に求めることができるのは、両軍とも発砲やミサイルなどの発射など、明確な軍事的な行動を行なわないことかと思います」

「それでは、すでに潜入している者がいた場合の行動は防げない可能性が残るかと思いますが」

「えぇ、指摘のとおりかと思います。そこまで求めたいところですが」

「では、そこまで求めることにしましょう。南北のクローともによろしいですか?」

 クローたちはしばらくざわめいていた。

「発砲やミサイルの発射は、潜入している者がいたとして、それも含めて、すくなくとも当面行なわないと約束しましょう」

「南も同じく約束しましょう」

 南北のクローはざわめきの後でそう答えた。

「これもやっぱり違う」

 バンスマンはまたそう呟き、五角形の上に何本もの斜線を引いた。

 バンスマンは四角形を改めて描き、対角線も描き込んだ。その中央に指を置き、その指を上に持ち上げた。

「四角錐…… 三角形……」

 バンスマンはリーガルパッドの一枚を切り取ると、丸めてジャケットのポケットに押し込んだ。それから、新たに大きな三角形を描いた。

「これはノード間なのか、階層構造なのか」

 そう呟き、描いたばかりの三角形を睨んだ。

「では、そのような約束ができたところで。そろそろ昼食時ですね。昼食の休会にしましょう」

 マーシパルはそう宣言した。


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