第1話
王宮の鐘が夕暮れを告げる。
王都のにぎやかな中央通りから
2本の路地を抜けた先に小さな花屋があった。
そこは、この物語の主人公である
リョウカが営んでいる。
店名は、フローリア。
ラテン語で⦅花が咲く⦆という意味がある。
彼女の店に並ぶ花は、他の店に比べれば
どれも⦅不揃い⦆だけれど、何処か愛おしい花ばかり。
立派な花を仕入れられないぐらい
貧乏ではあるが、そこも彼女らしいのだ。
彼女は、全ての花言葉を覚えている。
しかもその効能や薬草としての使い方も
全て頭に入っているのだ。
そんな彼女を街の人たちは
歩く植物辞書と呼ぶ。
普段は花屋として
ある日は、けが人が来たら薬屋として
彼女は今日も元気に働く
「今日も、皆きれいに、前を向いて咲いてる!
毎日のお手入れをやっていて良かった…!」
そう言って、擦り切れたエプロンで手を拭き
バケツの中に並んだ花たちを見た
彼女の顔は、誇らしげだった。
ふと、外を見ると雨がぽつぽつと
降り始めていた。
「あ、雨。もうお客さんは来ないわね…。」
雨脚が激しくなる前に
店先に出していた花たちを中に移動している時だった。
激しくなってきた雨音に紛れて
濡れた石畳を駆ける足音が聞こえた。
「…すまない。少し軒下を借りる」
「あ、はい…」
声が聞こえたほうへ、振り向くと
雨に濡れた、息をのむほどに美しい男がいた。
彼が身にまとっていたのは
深紅と白銀の近衛騎士服だった。
(どうして、近衛騎士様がこんな路地裏に?)
驚きで目を離せずにいると
リョウカの腕が急に軽くなった。
「外に出ていた鉢はこれで最後かな?
これを中に入れればいいんだね?」
「はい、そうですけど…」
なぜ、騎士様であるリョウタが
ここに居るのかも聴けないまま
彼を中に入れてしまったリョウカ
彼の顔を見たリョウカは
少しだけ、疲れが出ていることに気づいた。
心優しいリョウカは
彼に心を落ち着かせる薬草で作った
温かいハーブティーを出した。
「これ…お口に合うかわかりませんが
風邪を引いてしまうので…」
リョウカが差し出した湯気の立つカップを
彼は、手袋を外して受け取った。
「…温かいな。そして何処か優しい味がする」
「そう言っていただけて良かったです!
植物の知識は、誰にも負けないので!
リョウタ様もお疲れでしょうから
少しでも休んで行ってくださいね」
リョウカがそう言った瞬間に
彼の肩から、力が抜けたのを確認して
バケツから一輪の花を手に取った。
「これは、他のお店だと
売り物にはならないんです。
だけど、こうして咲いている姿は
どの花たちよりも、綺麗だと思います。
なので、リョウタ様もここでは
完璧で居なくていいんです。
一人一人、違うんですから」
それを聞いたリョウタは
何処か納得したような顔をしていた。
「リョウカと言ったね。
…決めた。明日から、毎日ここへ通おう。」
「え!?ま、毎日ですか!?!?」
「あぁ、俺の心は君という
一輪の花に奪われてしまったからね」
しがない花屋のリョウカと
美形近衛騎士のリョウタによる
そこらへんに売っているケーキより甘い日々が
待っていることを、リョウカは知る由もなかった。




