第2章 第1話 神託 2
『貴方の才能は回復士です』
一年に一度、クジール神殿で執り行われる才能を開花させる『神託』の儀。不良だった者が勇者となり、次期勇者と呼ばれた少年が才能がないと全ての魔力を奪われたという大波乱から一年。今年も魔王討伐を目的とする冒険者育成学校の中等部の卒業生が、遥か昔魔王によって封印された女神像から才能を明かされていた。
『後衛で傷ついた者を癒すことで魔王討伐に貢献しなさい。よってその他の余計な魔法は不要です』
真っ先に受託に名乗り出た少女へと注がれる緑色の優しい光。これにより回復士としての才能が開花し、それ以外の生き方ができなくなる。だがそれも仕方のないことだ。それが魔王討伐への一番の近道なのだから。
「あ、でしたらその才能こそ不安です」
しかし少女が手を払うと、その光は巨大な女神像へと返っていった。
『受け入れなさい、己の運命を。貴方に勇者の才能などありません。今すぐその才能を正しい者に返しなさい、アルピナ・ムーン!』
動きやすいよう大きくスリットの開いた修道服を着る銀髪の少女、アルピナ。一見すると敬虔な教徒のようだが、彼女は不敬にも背中の大剣を引き抜き女神像へと刃先を向けた。
「私は現場を見ていませんが、師匠も同じことを言ったはずです。私は才能などに興味はありません。才能があろうがなかろうがやることは変わりませんから。あなたが全てを奪ったシオン・オーラのことですよ」
一年前、彼女の師匠に当たるシオン・オーラの魔力が『神託』によって全て奪われた。その理由は彼には魔王としての才能があったからだが、この事実を知る者は女神以外この場にはいない。
「あなたの主張を完全に否定するつもりはありませんよ、女神様。魔王討伐のためどんな手段でも取るというのは私も同じです。なのでいい才能が出るのならせっかくですしもらおうかと思いましたが、回復のみというのはいただけません。確かに系統的に類似していますが、私がほしいものはバフですので」
『貴方に最も適性があるのは回復です! それ以外の道は必要ない!』
再び女神像から才能の塊たる緑の光が注がれるが、アルピナはその光を師匠から受け継いだ大剣『時渡』で引き裂いた。
『そんな……ありえない……才能を斬るなど……!』
「女神様などと呼ばれてはいますが結局は初代勇者パーティーの人間でしょう? 理屈の通じない神からの天啓などではない。あくまで人間の魔法です。ならば祓えますよ。私の神から授かった、勇者の才能で」
魔王討伐に最も適した才能、勇者。その能力は魔力の向上と魔を祓う能力。その半分の能力をシオンより受け取ったアルピナは、一年間に及ぶ研究の結果本来の勇者よりも遥かに能力を引き出せるようになっていた。
『百歩譲って貴方が勇者の才能を行使したとしましょう。それで魔王を討伐するんでしょうね。まさかあのシオン・オーラに従うなどという暴挙はしませんね!?』
「……さぁ。会ってみないとわかりません。なのでこの才能を失うわけにはいかないのです」
勇者にしか入れないダンジョン『勇者の宿』。シオンが姿を消したのがクジール神殿裏にあるこのダンジョンだ。そこにシオンと再会する手掛かりがあると考えたアルピナは、既に最下層と思われる99層までダンジョンを踏破していた。しかしそこにシオンの姿はない。おそらくデバフをかけられた通常より弱いモンスターや何らかの結界の形跡は感じるが、それ以上の成果は現状得られなかった。
「一年前のいわゆる『シオンの乱』でほとほと人類には呆れています。師匠の元に下り従うのも悪くないのかもしれません。ですがまだ私は勇者でいたい。ここからどうするかは私が決めることです。人の人生に口を出さないでください」
アルピナは大剣を背にしまうとクジール神殿を後にする。再び『勇者の宿』に入るために。
「中等部卒業おめでとう。で、俺のパーティーに入るつもりはあるか?」
そんなアルピナを待っていたのはウォルツ・スペード。彼女とは異なる正式な勇者だ。才能は半分しか残っていないが。
「何度も言っていますがお断りします。化けの皮が剥がれて焦っているようですが、もう私は以前の私とは違う。思考停止で人類のために動くことはありません。そんなことより師匠からのアドバイスへの答えは見つかったんですか?」
「……うるせぇよ」
「だからあなたは駄目なんですよ。私には関係ありませんが」
睨みつけるウォルツを無視し、アルピナは勇者しか入れないダンジョンへと歩を進める。
「私は私のやりたいことをやるだけです」
そしてそんな会話が繰り広げられていた遥か地下では、彼らも一年ぶりのイベントへ赴こうとしていた。
「それでは行きましょうかシオンくん」
「ああ。魔王軍幹部会議へ」




