第5話 『彼ら』と戦場
「《サーペント・ブロウ-フル・ウィーク》!」
―――ヒュボッッッッッッッッッッッッ!!!
コーディスの言葉と共に―――7色の閃光が奔った。
遠目からは、まるで彼の身体から虹が高速で伸びたかのように見えたことだろう。
その虹の如き閃光は―――
―――ゴッッッッッッッッッッ!!!
彼に向かって振り下ろされた1体の『水晶ゴーレム』の拳と激突する。
―――パキィッ……!!!
7色の閃光―――コーディスの身体に巻き付いた7匹の蛇達による凄まじい鞭打は、『水晶ゴーレム』の拳の一部を欠けさせながら、その巨体を大きく後方へと弾き飛ばした。
「やはり『ヤマタノオロチ・スタイル』でも、少し削るだけで精一杯―――か」
本来であれば『水晶ゴーレム』にほんの僅かでも傷を付けられる、というだけでも凄まじい破壊力を持つことの証ではある。
だが―――
―――ピキキ……
『水晶ゴーレム』は、瞬く間に欠けた拳を修復し―――再びコーディスを狙い、動き始める。
コーディスはそれに対応する為、7匹の蛇達と共に構え―――
「「「ウゥゥウォオオオオオッッッ!!!」」」
「―――――!」
突如、コーディスの周囲を『何か』が雄叫びを上げながら凄まじい速さでが旋回し始めた。
「『シルバー・ワーウルフ』か……!」
白銀の毛皮に身を包む『ワーウルフ』の上位種――『シルバー・ワーウルフ』。
それらが十数体―――常人には数を数えることなど到底不可能な速度で駆けながら―――コーディスに狙いを定めていた。
もっとも、『それ』だけならコーディスも後れを取ることはないだろう。
彼の『大蛇の嵐』――《サーペント・ストーム》ならばこの『白銀の人狼』達の対応も可能だ。
だが―――
―――ズゥン、ズゥン、ズゥン……!
「…………………」
コーディスへの元へ迫る『水晶ゴーレム』の存在が障害となっていた。
あの『ゴーレム』の拳は恐らく《サーペント・ストーム》では防げない。
先程のように、7匹の蛇達全てを一撃に束ねなくてはならないのだ。
『シルバー・ワーウルフ』に対応しようとすれば『水晶ゴーレム』を止められず―――
『水晶ゴーレム』に対応しようとすれば『シルバー・ワーウルフ』を止められない―――
どうする―――?
コーディスの動きに一瞬の隙が出来た。
そして『シルバー・ワーウルフ』はそんな隙を見逃さず―――
「「「ウォオオッッッッ!!」」」
―――シュバァッッッッッッ!!
コーディスへと、飛び掛かる―――!!
―――ザンッッッッッッ!!!!
『白銀の人狼』の群れは―――コーディスに牙や爪を突き立てることはなかった。
その前に―――
「《タイタン・アイス・ブレード》―――!」
「《シェイプシフティング・ビースト-フェンリル》!!」
自身の身長の3倍を超える『氷の大剣』を構えたヴィガーが―――
普段よりも更に一回り巨大な『人狼』と化したアニーが―――
その場に居る、生徒達が―――『シルバー・ワーウルフ』を屠り去った。
「皆、すまない。
助かった」
「どういたしまして!」
「コーディス先生!
アンタは周りを気にせずあのデカブツに集中してくれ!」
礼を告げるコーディスに、ヴィガーとアニーが『ニッ!』と笑いながら応える。
更に、そこから少し離れた場所では―――
―――ズォオオオオオオオ………!!
『水晶ゴーレム』に匹敵するほどの巨体を持つ『リビング・ギガントメイル』が手に握る巨剣を振り上げていた。
まるでコーヒーとミルクが混ざる直前のような、漆黒と白亜のマーブル模様の色彩をした『動く巨人の鎧』は、眼下に散らばる矮小な存在の群れをその一撃で一掃するつもりだ。
―――ブオッッッッ!!
巨剣が―――容赦なく振り下ろされる。
「へっ―――!」
振り下ろされる巨剣の先に存在する者、ミルキィ=バーニングは―――
歯をむき出しにして笑いながら、大斧を構え―――
「《ブレイジング・フル・ブースター》!!」
―――ゴァアアアアアアッッッッッ!!!
斧の背部から、凄まじい勢いの爆炎を上げながら―――巨剣に向かって、大斧を振り上げる!!
そして、巨剣と大斧がかち合い―――!!
―――バッッッキィイイイイイッッッッ!!!
巨剣が砕け散る音が―――響き渡った。
「オメェらぁッ!!
今だぁあああああッッ!!!」
「「「おおおおおおおおッッッ!!」」」
―――ゴガァァッッッッッッ!!!
その隙を見逃さず―――待機していた生徒達が、一斉に『リビング・ギガントメイル』に攻撃を加え―――
漆黒と白亜の巨体は―――地面へと沈んだ。
その様子を―――金色の髪を持つ『エルフ』が見ていた。
「ふん………『シルバー・ワーウルフ』に『リビング・ギガントメイル』か。
出来ることなら私の手であの日の雪辱を果たしたい所だが―――」
その『エルフ』―――イーラ=イレースはそこから視線を外すと、ゆっくりと振り向き―――
―――ズゥン……!
「今は―――『コレ』の相手を優先だな」
そう言いながら―――自身の眼前に存在する、水晶の如き身体を持つ『ゴーレム』を視界に収める。
フィルから聞かされていた、勇者アルミナでさえ容易には破壊出来なかったというその存在を前に―――彼女は笑っていた。
―――ズ………オオオオオッッ!!
『水晶ゴーレム』が、その巨大な掌をイーラへ向かって振り下ろす。
掌の影がイーラの全身を覆い―――
―――ドォオオオオオオッッッ!!!!
地を這う虫を潰すかの如く―――『水晶ゴーレム』の掌が、地面に叩きつけられた音が響き渡る。
数刻の静寂の後―――『水晶ゴーレム』は、肉塊と化した獲物の姿を確かめるように、地面から掌を離していく。
しかし―――そこに得物の残骸は見当たらず、自身の掌の形に出来上がったクレーターが残るのみであった。
―――バサッ…………
直後―――『水晶ゴーレム』の頭上から、羽音がした。
『水晶ゴーレム』がその音に反応し、水晶で出来た頭をそちらに向けようとする。
だが、それよりも先に―――
「《ダークネス・トルネイド》」
―――ビュゴォオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!
『黒い竜巻』が―――『水晶ゴーレム』を包み込む。
かつての『選抜試験』において、本物より硬度の劣る『水晶ゴーレム・レプリカ』に傷一つ付けることの出来なかったその魔法は―――
―――ピキィッッッ…………!!!
『水晶ゴーレム』の身体の表面に―――ヒビを付けた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
更に、別の場所では―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ウォッタ=ガーデニングが―――
「《アクア・クルシフィクション》」
―――ゴポポポポアアアアアアッッ……!!
巨大な『水の十字架』で『水晶ゴーレム』を磔にし―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
カキョウ=ガーデニングが―――
「極義―――《風舞・残光閃我》」
―――ヒュッ……バッッッッッッッ!!!
残像を発生させる程の高速移動で『水晶ゴーレム』を翻弄し―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ファーティラ=ガーデニングが―――
「《サンダーボルト・ハルメギド》」
―――ピッッシャァアアアアアアッッッッ!!!
その凄まじき『轟雷』により『水晶ゴーレム』を縛り付け―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
プランタ=ガーデニングが―――
「《クレイ・リプロデュース-ヘカトンケイル》!!」
―――ズッ……オオオオオオオッッッ!!!
大量の粘土によって形作られた100本の腕で『水晶ゴーレム』を呑み込み―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
キャリー=ミスティが―――
「ウィデーレさん……私は、貴女に並ぶ!」
その突き出した掌から―――
「《ジャガーノート・インフェルノ》!!」
―――ッゴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
『炎獄』を生み出し―――周囲の魔物ごと、『水晶ゴーレム』を包み込む―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そして―――――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
―――ズォオオオオオ………!!!
自らの頭上に迫る、巨大な水晶の拳に対して―――
「《ミートハンマー》―『規格-5倍』」
その少年は、巨大な『黒い肉たたき』を―――
「うおおおおおおあああああああッッッッ!!!」
叩きつける―――!!!!
―――ガッッッ………キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!
かつて『水晶ゴーレム』には通じなかった、5倍のサイズの『黒い肉たたき』は―――『水晶ゴーレム』の拳を、粉々に砕く。
少年―――フィル=フィールは、身体へ襲い来る『負荷』に胸を抑えながらも―――その顔に、笑みを浮かべていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「馬鹿な―――あり得るはずがない」
アルミナから聞かされた話を、スクトは即座に否定した。
当たり前だ。
『レッドエリア』に生息する魔物の群れを―――
『勇者一行』のメンバーでようやくまともに相手が出来るあの『災厄』を―――
『学園生徒』如きが抑えているなど―――
「言っただろう、スクト。
君は甘く見過ぎだ。
私の仲間と、彼らの力―――」
「そして―――」と、アルミナが言葉を続けた。
「彼らを―――『信じる力』を」




