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58:夏虫

 オーファはレインが新しい装備を身に着けていることに遅まきながら気が付いた。


 「レイ、今日はいつもと違う装備ね? なかなか似合ってて格好いいわよ」


 にこっと笑って素直に褒める。

 昔とは大違いだ。

 でも一応は照れているのか、少し頬が赤い。


 レインとしても大好きなオーファに褒められて嬉しいのだが、やはり照れる。


 「う、うん、ありがとうオーファ」


 昔よりもオーファを異性だと意識してしまうので、照れも大きい。

 肌が触れ合ったり褒められたりすると、妙な気分になってしまう。

 一応昔も妙な気分になっていたのだが、今はさらに顕著だ。


 そんなレインとオーファのやり取りを見ながら、冒険者の少年たちがひそひそと話し合う。


 「あの2人、なんで付き合ってないだ?」

 「どう見てもいちゃいちゃしてる恋人同士だべ」

 「んだ、あれで付き合ってないなら、付き合ったらどうなっちまうだ」


 「「「おそろしいべぇ」」」とまだ見ぬ未来に戦慄を覚える少年たち。


 ちなみにその話し声はオーファにはしっかり聞こえている。

 自分とレインが恋人同士。

 良い響きの言葉だ。

 素晴らしい。


 オーファは機嫌を良くしつつ、レインに問いかけた。


 「その装備どうしたの?」


 またマフィオたちにもらったのだろうか。

 そう思っていたオーファだったが、レインの答えは違った。


 「今日のお茶会で贈ってもらったんだよ」


 つまりキュリアたちからの贈り物である。


 「ふーん、そうなんだ」


 オーファの機嫌が微妙に悪くなった。


 オーファは今でもキュリアたちのことを好ましく思っていない。

 レインと和解したと聞いているから、どうこうしようとは考えていない。

 レインの学院生活の邪魔をしようとは思わない。

 だがどうにも釈然としないのだ。

 散々レインをイジメておいて、今更になってレインに媚を売ろうとは虫が良すぎるのではないか。

 そう思ってしまう。


 そんなふうにオーファが微妙な顔をしていると、ナカルドがレインに問いかけた。


 「やっぱり、レインは学院の女の子にモテるべ?」


 モテるとは、つまり男性として人気があるということだ。


 「それはないよ」


 簡潔に答えるレイン。

 みんな親しく接してくれるし、自分を兄のように慕ってくれる後輩もいる。

 だが相手はお嬢様。

 ヴァーニング王国の貴族だ。


 「僕とは身分が違うからね」

 「そんなもんだべか」


 田舎者のナカルドには、身分の話はよくわからなかった。

 だが貴族出身のレインには、よく身に染みた話だ。


 ちなみに貴族から転がり落ちたころは、レインの人生で一番辛かった時期である。

 セシリアに拾ってもらえなければ、今でも路上で生活していた可能性もある。

 そんな思えばこそ、セシリアには感謝してもしきれない。


 一方のオーファはそんなレインたちの会話を聞いて、再び機嫌を良くしていた。

 身分が釣り合う女の子。

 つまり自分だ!

 そう考えて心の中でエルトリアとイヴセンティアに合掌しつつ、笑顔を深めたのだった。



 「2人ともお待たせー」


 セシリアが仕事を終えて、レインたちが話している食堂へやって来た。


 オーファがレインの腕から渋々と離れる。

 セシリアの前でレインに抱き着いていると怒られるからだ。


 レインは腕の感触がなくなったことを少し寂しく思ってしまった。

 だがそれを表情には出さずセシリアに声をかける。


 「お疲れさまです、セシリアさん」

 「うん、ありがとう、レイン君。あら、その装備新品ね?」


 首を傾げるセシリア。


 「はい、今日のお茶会で贈っていただいた物です」

 「そう、良かったわね」


 そう言って微笑むセシリア。


 続けてセシリアは、いつものようにレインのことを褒めようとした。

 だが、


 「よく似合……、その、あ、あはは」


 上手く褒め言葉が出てこない。

 なんだか妙に気恥ずかしい。

 笑って誤魔化すしかできない。

 今までこんなことなかったのに。

 レインのことを男だと意識すると、途端に言葉が出なくなる


 対するレインは、セシリアがいつものように褒めてくれないことに不安になった。

 いつもは社交辞令で「似合っている」「格好良い」と言ってくれる。

 だが、それすらも言ってくれない。

 そんなにも似合ってないのだろうか。

 キュリアたちやオーファは褒めてくれたが、無理をしてお世辞を言ってくれたのだろうか。

 誰かの客観的な意見が聞きたい。


 そう思って、ナカルドたちに視線を向けた。


 「セシリアさんとオーファさん、お美しいべぇ」

 「オラ、幸せだぁ。王都に来てよかっただぁ」

 「今夜はぜってぇに眠れねーべさぁ」


 なんだかいろいろとダメな感じだった。


 仕方がなく、次にオーファに視線を向けた。

 目が合う。


 だがオーファには、なんでレインに見つめてもらえたのかわからない。

 大きな瞳をぱちぱちとして、こてん、と首を傾ける。


 ものすごく可愛い。


 レインは少し見惚れてしまった。

 そして、別に装備なんて似合ってなくてもいいかなぁ、と思った。


 セシリアの機嫌が少し悪くなった。


 「さあレイン君、お家に帰りましょう」


 セシリアはそう言いながら、レインの腕をとった。

 自身の腕を絡めつつ、レインの腕を大きな胸にうずめる。


 むにゅん。


 として柔らかく、温かい。

 ほわっ、と驚くレイン。


 「セセセ、セシリアさんっ!??」

 「なぁに、レイン君?」


 腕に抱き着いたまま、こてん、と首を傾げるセシリア。


 とても可愛い。


 だがそんなことを考えている場合ではない。

 こんなの普通じゃない。

 絶対におかしい。


 そう思ったレインは、ナカルドたちに視線を向けた。


 「いや、そんな顔でセシリアさんとの仲を自慢されても困るべ!」

 「オラ、羨ましいだ!」

 「極上美人姉妹を独り占めなんて、ずるいだよおおおっ!」


 ダメだ。

 なんかもう、いろいろとダメだ。


 そう思い、次にオーファへと視線を向けた。

 目が合った。


 オーファは少し考えてから、真剣な顔で、こくん、と頷いた。

 そして自身もレインの腕に抱き着く。


 むにゅ。


 と柔らかく、温かい。

 幸福だ。


 違う、そうじゃない!

 慌てるレイン。


 だがしかし、両腕が天国にいるようだ。

 ものすごく気持ちが良い。

 脳がとろけてしまいそうだ。


 「いきましょ、レイン君」


 腕を引かれ、はっと我に返るレイン。


 いけない、惚けている場合じゃない。

 このままではち上がったまま、ち上がってしまう!

 助けてみんな!

 そう思って、ナカルドたちの方へ視線を向けた。


 「くううう、両腕に超最高級の花だべえええっ!」

 「ぐぬうう、羨ましいべぇっ、妬ましいべぇっ!」

 「あったら天国が味わえるなら、オラ、死んでもええだっ!」


 やっぱりダメだった。


 レインはナカルドたちが言うところの、「極上美人姉妹」に腕を引かれながら帰路へとついた。

 その感触は、文字通り極上だ。

 道中、起ち上がってしまわないよう必死である。

 なにせ隠すに隠せないのだ。


 幸い、外はすでに暗かったので、少しくらいなら目立たなかった。



 夕食後。


 勉強の時間だ。

 レインとオーファはいつも通り予習と復習を行う。


 セシリアはその間、食器を洗ったり、家計簿をつけたり、なにやらごそごそしたり、先にお風呂に入ったりしていた。


 レインとオーファの勉強が終わったころ合いに、セシリアが風呂から出てきた。

 湯上りでしっとりとした肌、薄手の寝間着。

 色っぽく感じる。


 「あー、気持ちよかったぁ。オーファちゃんも勉強が終わったなら、早く入りなさいね」

 「はーい、お姉ちゃん」


 オーファは着替えを持ってお風呂に入っていった。

 特に不思議なことはない。

 いつもの光景だ。


 なぜか少しそわそわしているセシリア。

 やはり体調が悪いのだろうか。


 レインは思い切って聞いてみることにした。


 「あのセシリアさん、もしかしたら疲れてたりとか、します?」

 「え? うーん、そうねぇ、どうかしら、ふふふ」


 セシリアは、はぐらかすように笑った。

 いつもの優しい笑顔ではない。

 どこか妖しさを秘めた笑顔。


 レインは心配になった。

 やはり、どこか悪いのだろうか。

 それとも、なにか悩みがあるのだろうか。

 もしかしたら、なにか困ったことがあるのかもしれない。

 考えれば考えるほど、不安が広がる。

 セシリアの力になりたい。

 そう思った。


 だから、真剣な顔で問いかけた。


 「なにか……、なにか僕にできることはありませんか?」

 「なんでもいいの?」


 セシリアがそう言ったことで、レインはやはり何かあるのだと確信した。

 セシリアの助けになりたい。

 自分にできることなら、なんでもしたい。

 そう思った。

 だから、全力で頷いた。


 「はい、僕にできることならなんでも!」


 セシリアの笑みが深まる。


 「ふふ、ありがと。それじゃあ、マッサージをお願いできるかしら?」


 マッサージ。

 その言葉を聞いたレインは、昔やった足つぼマッサージを思い出した。

 そして、やはり相当の疲れが溜まっているのだと思った。

 一刻も早く癒してあげたい。

 少しでも楽になってもらいたい。

 そんな考えに支配された。


 「もちろんです。僕、セシリアさんに少しでも気持ちよくなってもらえるように頑張ります」

 「ふふっ、ありがと。レイン君はやっぱり良い子ね。いいこいいこ」


 セシリアは嬉しそうに微笑み、自分より背の高いレインの頭を撫でたのだった。

◆あとがき


お馬鹿な若手冒険者が作者の安らぎ(´ω`*)←過度のギスギスやドロドロが苦手



第一章のあとがきのどこかに書きましたが、この小説ではヒロインの格差が大きいです。

それは個別イベントの量だけではなく、レイン君に向けてもらえる好感度の差にも表れます。


現段階では、オーファちゃんがレイン君の『好きな女の子』ランキングでぶっちぎってます。

エルトリア様やイヴ先輩は『そういう目で見てはいけない相手』リストに入っているので、『好きな女の子』ランキングに入れません。

セシリアさんも『そういう目で見てはいけない相手』リストに入ってます。


素直になったオーファちゃんは、この5年間の間にレイン君の好感度を稼ぎまくっています。

このままオーファちゃんが逃げ切るのか、はたまた他のヒロインにもチャンスはあるのか。

レイン君の明日はどっちだ!?



ネタバレ、この話は超ハーレム。

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