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#14

 ダウンタウン・ブローとは別のニューヨーク郊外に位置する住宅街。ここは静かで落ち着いていて、住みやすそうな場所である。

 民家が建ち並ぶ中に敷かれた広めの道路を、ジニー達が乗ったベンツがゆっくりと走っている。

「いい場所だなあ。老後はここに住みたい」

 後部座席の車窓から夕暮れ時の町の景観を眺めていたモーリスが言った。

「ぷっ、独りで?」

 助手席のジニーが目元と口元とを緩ませながら振り返る。

「なっ、何だよ。別にいいだろ?」

「いや、いいんだけどさ全然。ただ……ぷぷっ、ここでさ、ジジイになったモーリスがこーいう家に住んでるのを想像したら……へへっ……」

 ジニーが肩を震わせながら()した先には毒々しいホットピンクに染められたメルヘンチックな家が建っていた。

「へははっ……超きめえ……!」

「おい、誰もピンクの家とは言ってないだろ」

 否定するモーリスの姿に桃色の家で暮らす老人を思い浮かべたのであろうジェナも堪え切れなくなって、小刻みに震え始めた。

「家ん中でもピンクの服着てたりしてな。おっさん……くくっ」

「うわぁ〜」と、ジニーが腹の底から湧き上がって来るような声と共にゾワゾワと身震いした。

「そこまで行ったら笑えねぇよ。キモ過ぎキモ過ぎ」

「ちょっと待ってくれ!何で俺がそんなピンク好きみたいな話になってんだよ?!」

「好きそうじゃん!!」

 ジニーとジェナの声が揃う。見事なダブルパンチ。

 二人は顔を見合わせてバカ笑いを車内中にこだまさせ、モーリスはやはり後ろで小さくなっていた。


 ◆


「おっ、あの家じゃね?」

 50メートルくらい先に見えてきたダークグレーの民家をジェナが顎で指した。ターゲットのアジトだ。

 ジェナが路肩に停車した。

「ギャング討伐か……怖えなぁ」

 モーリスが敵のアジトを見ながら溜息を()いた。

「はん?そーいうのは得意だろうが」

 ジニーが拳銃をスライドさせながらバッミラー越しにモーリスを見る。

「まあ、そりゃそうだけど……でも」

 外にまばらに行き交う人達を見ると若干の戸惑いが。

「恥ずかしがんなってモーリス。スパッと終わるよ」

「この人通りならほとんど気付かれもしねーんじゃね?」

 まるで他人事のよう……。モーリスは不安を胸いっぱいに感じながら取り敢えずサプレッサーをつけたSCAH(ベルギー製のアサルトライフル)を準備した。


「んじゃ、行ってらっしゃい」

 ジェナが周りの人影が途切れた一瞬を見計らって、二人を送り出す。

 モーリスには一緒に車を降りたジニーの野犬の様に光る蒼い目が印象的に映った。


拳銃(それ)だけでいいのか?チンピラの中でもそこそこ腕利きなんだろ?相手は」

 ゆっくりと家に近づきながらジニーの右手に握られたシグを見たモーリスは、その軽装っぷりが心配になった。

「おう。本当はMP5でも持って来ようかと思ったんだけどさ。やっぱこっちのがしっくり来るわ」

 サプレッサーを装着されたシグP210がジニーの手でグルグルと、風車の様に回されている。

「モーリスこそ、不意打ち食らっても失神すんなよ。あたし一人じゃ担いでやれねぇよ」

「わ、分かってるよ」

 そんなやり取りをしている内に、敵の根城の目前まで来ていた。

「あっ……着いちゃった……」

 モーリスが思わず口元を手で隠す。

「もう失神しそうじゃねえかよ。しっかりせい」

「いや、別に失神てこたないよ」

 ドアの前まで来ると、ジニーが躊躇もなくノックをした。

「……なあ、今ので本当に出てくんのか?」

 周りを気にしながら黒いカラーのSCAHを構えたモーリスの口が尖る。

「シーッ!そのうち出てくるって」

「うわぁ、何か嫌な予感がしてきた……」

 モーリスが例によって老けっ面をしかめた時だった。

 重々しい色のドアがモーリス達の方に向かって爆ぜた(・・・)。モーリスは最初、自分が死んだと思ったが次の瞬間には、自らが本能的に後ろに飛び上がり銃を抱えたまま仰向けになったのだと気がついた。

 同時に、視界を塞ぐようにしてイカツイ男がデカいショットガン携えてドカドカと歩いて来る。

「家の前でブツブツ言いやがってトーシローがぁ!」

 薄暗くなってきた住宅街の中で、その顔に浮かんで見えた憤怒の表情にモーリスも銃口を向けようとしたが間に合わない。

(ダメだ。やられる……!)

 覚悟を決めた時だった。

 男の心臓辺りを弾丸の光が3発、貫通したのが見えた。

 壁のような体格の男は、バッタリとモーリスの上に倒れ込んだ。

「ぐわっ!!」

 重い。やっとの思いでその体を横にどかすと、今度はジニーに見下ろされていた。

「ありがとよモーリス。気を引いてくれたお陰で殺りやすかったぜ」

 差し出された小さな手を握って立ち上がる。改めて死体となった男を見ると、縦にも横にも幅のあるそいつの体は熊の様であった。どうやらショットガンでドアを撃ち破ったものの、自ら後ろに跳んだモーリスに気を取られてジニーの姿に気付かなかったらしい。

「お、おう!」

 モーリスはむくりと起き上がった。しかし!その頃には既に至る所から悲鳴が上がっていた。

「あーやべっ。ご近所さんに聞かれたな」

 ジニーが辺りを見渡していると、

「おーいお嬢さん方。やり方雑過ぎ」

 待機していたジェナが車を回してきた。

 それを見たモーリスが、

「ジニー、あいつ死んだよな!?」

 と、ずらかりたい一心で、すがるような顔つきで言った。

「死んだとも!今頃サタンと一緒に地獄の業火ん中で踊ってるさ」

「じゃあ早いとこ脱出しよう」

 二人が同時に車へと駆け出す。後部座席に乗り込む時、ジニーは流れるように乗り込んだが、モーリスは頭と背中とをガンガン打ち付け、甲高い悲鳴を上げていた。

 空はすっかり日が落ちて、周りはもう暗くなっている。

「ずらかるには絶好のタイミンだぜ!なあジェナ」

「まあね。でもこの次はも少しお行儀良くやんな!」

 車を発進させながらジェナはタバコをふかして笑みを浮かべている。

「いやー、でも今回はサクッと終わって快感だわ!」

 ジニーも渡されたタバコに火をつけて、煙を吐きながら脚を組んでシートにもたれかかっていた。

「う、うん。俺、一発も撃たなかったけど……」

 そう。モーリスからしてみれば、色んな意味で電光石火の出来事。しかし取り敢えず今回も殺されそうになったということは確かだ。

「いや、ナイスアシストだったよ。お陰さんでゲーセンの奴より楽だったわ!」

 小さな白い手で肩をバンバン叩かれるのが妙に痛く響く感じがした。

「いや、でもさ。案外マジで補佐役に向いてるよ、おっさんは。だってさ、毎回あんな目に遭ったって死なないんだぜ!?」

 ジェナが言ったのを聞いて、「ひゃーひゃっひゃっひゃ!!確かに!」とジニーが気の触れた笑い声を轟かせた。


「さて、じゃあ後はザモラにお代を頂戴するだけだね」

 住宅街を出たところでジェナが煙を吐いた。因みにザモラとは、今回の依頼人。そこそこの規模の(ファミリー)を仕切るマフィアのボスである。

「おおーっし!!がっつり持ってくぞ!」

「吹っ掛けるんじゃないよ〜?長い付き合いなんだから」

「キャッハハ!知らね!!」

 このテンションを見てモーリスは、

(やべ……ハイになってる。ザモラさんとやらを怒らせなきゃいいが)

 と、会ったこともないマフィアのボスの機嫌を損ねてしまいそうな事にビビっていた。全くもって心配と恐怖心の尽きない男であった。

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