その後のおまけ 天界の宝珠 3
そこで驚きもせずに頷かれたくないわ!
「そ、うなんですか」
神王は頷いた。
「そう言うことだ。それもあって今回は私が地下へと降りてきたというわけだ」
そう言った時、神王の抱いていた宝玉が強く光り、中から小さな手が伸びて私の手を掴んだ。
「!!?」
驚いた私が目を向けると宝玉の殻は消え去り神王の腕の中に可愛らしい赤子がニコニコ笑っていた。
金色の髪に金色の瞳をしたエリスとは全く違う姿をした赤子だった。
「エリス??」
赤子はそれに反応はしなかった。
私は笑みを浮かべると驚く神王を前に赤子を抱きしめた。
「わかったわ、貴方。ちゃんと生まれ変われたのね」
エリス・ウェールズが抱き続けてきた恨み、憎しみ、悲しみ、全てをあのエルドス崩壊の時に捨て去ったんだわ。
「だから貴方はもうエリスじゃないのね」
カイルは私を見て笑みを浮かべているがわかる。
魔王も私を見て微笑んでいる。
「そうね、私は貴方のように全てを捨てて生まれ変われていないけれど……今はこのままでいいと思ってる。私は支えてくれる父たちがいて乗り越えていけたから」
神王は息を吐き出した。
「もし良ければこの神族に新たな名前を与えてもらえるだろうか?」
「はい、マナ。貴方はいまからマナよ。幸せな神生を生きて行けるように」
私はマナを強く抱きしめた。
瞬間にマナの背中に白い12枚の翼が現れた。
神王も父である魔王も驚いて顔を見合わせている。
私も驚いたけどマナが幸せそうに笑っているから良いわ。
魔王は私を見た。
「リリア、マナ姫と少し中庭で遊んでくるといい」
「はい」
「カイル、頼むぞ」
「はい」
私はマナを抱いてカイルと共に部屋を出て中庭へと向かった。
父である魔王と天上に支配する神王は私たちが去った後に会合をするのだろうと分かった。
「迷いはしたがこちらへ来たのは正解だったな」
「俺も神王自ら地下へ降りてくるとはと驚いたが……来てもらったのは良かったと思っている」
外では地表のマグマが時折り光を強めてはゆっくりと流れていくのが見える。
神王はゆったりと椅子に身体を預けてその様子に目を向けた。
ゆっくり話をしようと言うことである。
魔王も同じように外に視線を向けた。
「ヒューマン族が魔族や神族に転生するだけでも異例だが……あのようにヒューマン族であること自体が我々の目から感じられない形で完全な神族体で転生するなど俺は一度も見たことがない」
神王は頷いた。
「私も同じだ。それにそちらは反対に神と魔の羽をもつリリア姫だ。しかもヒューマン族の転生でな」
魔王は苦く笑った。
「確かに異例続きだな」
神王は目を見開いて魔王を見た。
「しかし、よくリリア姫を娘にしたものだな」
魔王は頷いた。
「お前も分かっていると思うが、魔族も神族も子をなすことは出来ん。天上は天界宝玉の中から成人した神族が誕生する。その姿はお前のように若い姿のモノもいれば年老いた姿のモノもそれこそ先の赤子のような姿のモノもいる。ただその位は羽の多さで決まっている。魔王族は片羽6枚の12枚羽。魔貴族は片羽2枚の4枚羽。後は片羽1枚の2枚羽だ。神族も同じだ」
「確かにそうだ。だが、ヒューマン族が転生したモノは片羽3枚の6枚羽だった。つまり神王族でも神貴族でもなかった。しかも今回天界宝玉から再び生まれ直したマナは神王族の12枚羽だ。つまり、私とマナの二人だけとなる。異例尽くしの異例だ」
「確かに我が娘も片羽6枚だった。だが、片羽6枚ある以上は我が魔王族。つまり我が娘となる。そして今は白と黒の混合12枚羽となっている。しかも娘は地上で成長したから魔法を覚える枠が広がったと思っているが……恐らくは神族の羽を得たことによる増幅だろう」
「それは」
「今までの倍の力を得たということだ」
神王は魔王を見て目を細めた。
「どうするつもりだ?」
「どうもしない。アレは今回復と防御魔法を覚えている最中だ。それに心の方も成長した。無為な戦いなどしないだろう。それよりお前こそマナをどうしようと考えている。いっそ娘にしたらどうだ?」
神王はふっと笑った。
「まあどちらにしても神族である以上は見捨てる訳にはいかないし、それも良いかもしれないな。それに得体の知らない大きな力が動いている気がする以上はその根幹となるモノは身近で見張っている方がいいとは思っている……なるほど、娘か。と言っても我々は性別がないからな。マナも性別がない」
「確かにそうだな。だが、子供を持つというのも良いぞ。堪能しろ」
「ははは、そうだな、何事も楽しまねばな。しかし、お前も保護をしているのなら何かあった時は対処しやすので良いが……一体何が今回の異常な転生を生まれさせたのか、気にはなる」
「まあな、お前が子供として扱う以上は他の神族は危害を加えることはしないだろう。神族は神王絶対だからな。それに俺はリリアを保護対象だと思ってはいない。我が娘だと思って愛している」
「愛している!? 例え魔王族として生まれたといっても元はヒューマン族だ」
「だが魔王族として生まれた。我が娘と言うことでな。前世は前世だ。魔族は個々主義で元々神族のようにお前一筋ではないからな。それに娘を魔族の者たちはちゃんと受け入れいてる」
「……なるほど、これからは時々神族と魔族で定期連絡を取り合った方が良いと思っているが」
「無論だ」
神王はゆっくり立ち上がった。
「では、魔王。この異様な転生を誰が仕組み、この世界をどうしようとしているか調べようと思っている」
「俺もそれについては同意見だ。極秘に調べさせようと思っている」
魔王もそう答えて立ち上がった。
神王は中庭の方へ視線を向けた。
「では、我が子供……マナを迎えに行くか」
魔王は苦笑を零した。
「そうだな、俺はリリアの様子を見に行くとするか」
何者かが。
そう、何者かが二つの運命を変えたのだ。
味方か敵か。
それも分からない。
今は味方のようであっても気付かぬうちに牙で襲い掛かってくる可能性がある。
「リリアならばきっと乗り越えるだろう」
魔王はそう呟き神王と共に部屋を出た。
頭上ではマグマが赤くゴウゴウと音を立てている。
私は空を見上げた。
「ね、カイル。魔王と神王の話はもう終わったかしら?」
カイルは回復呪文を唱えかけて言葉を止めると私を見た。
「そうですね、結構長い話をされているようですが」
そう言って、フヨフヨと近付いてきたマナを抱いた。
「いやいや、マリナ様は叫びながらその姿で誕生しましたから……というか、俺はこのような赤子の姿の魔族を一度も見たことありませんから可愛いモノですね」
「そう言えば、そうね。私も魔族になってから赤子の魔族を見たことはないわ」
「あまり赤子の姿と言うのはないんですよ」
「そうなのね、マナー、こっちこっち」
私はマナに手招きをして飛んできた彼女を抱きしめた。
その時、魔王と神王が姿を見せた。
「お父さま、お話は終わられたのですか?」
「ああ、そろそろ戻られるそうだ」
私はマナを抱きしめ、神王の元へと足を進めた。
「愛情を注いであげてください。宜しくお願いします」
神王は笑んでマナを抱いた。
「魔王を見習って我が娘とすることにした」
「ありがとうございます!」
きっと。
きっと。
幸せになれる。
私はそう思って、魔王とカイルと共に神王とマナを黒流湖まで見送った。
新しい命の誕生。
それは新しい時代へとの胎動。
私はそれを今は感じることはできなかったものの、マナが幸せであるようにとただ祈るだけだった。
地表も今はマグマの輝きは穏やかで優しかった。




