第七幕:復活の名探偵
やあ、君。ロマンチックは呪いのようなものだ。君の美しい理想が高すぎて、結局、何も手に入れられない。
ほどほどで、いいかもしれないーー。
第六幕では、泣いている女を放っておけないワトソンが草むらから女に声をかけた。
女は怯えていた。ワトソンたちのいる草むらを見て、男を呼ぼうか迷っていた。
「どうか!姿を見ようとはしないでーーボクは戦場の亡霊。死ねずに戻った哀れな男なのだからーー」とワトソンは口から適当に話した。
「あなたの呼び声に誘われて、ここまで来たーー教えてーー君は誰?」
すると、女性は沈黙した。
「ーー私さえ自分が誰かわからないーー」
ワトソンは目を見開いた。
「自分がわからない?なぜーー」とワトソンは聞いた。
「私はーー私はーー、ああ、鏡ーー人が望むように返すだけの女。
あの人は、私からーー、
私以外の人を見たいの。
それだけなのーー
あの人は鏡以上は愛さないーー」
ワトソンは、彼女を抱きしめたくなった。愛する者に、他を求められている女。プラトニックな関係とか、そんなものなんてないーー哀れな鏡。
道具扱いなんだーー。
「それは、君の、特別な能力ーー?」
女は黙った。
「分からないーーなぜ、あなたとこんな話をしているのかさえ。
だけど、あなたが私を思ってくれるのはわかるーーありがとうーー」
ワトソンは頬が熱くなるのを感じた。
「君は耳がいいんだ。かなり発達しているんだろう。だから、僕らの会話を聞いた。そして、推測したんだーー」
二人の時間をぶち壊す男が再起動した。彼はまくし立てるように言った。
「うん、これなら説明がつく。鏡とは雑念がない状態だ。なんらかの刺激が加えられたら、そこから刺激を返す。
推測なんだーー君の能力は論理的に説明が可能だ。これは霊を呼び出しているわけじゃない」と、ホームズはまくしたてた。
「あなたから、二人も声がするーー?
二人で一つなの?」と女は震えてた。
ホームズは続けて、気持ち良い推理を続けた。
「その状態はトランスなんだ。君は考えない。それが、君の無意識を活性化させて、反応を返す。君と言う意識は、無意識のシールだーー悲しみすらない。無意識にとって、君と言う意識は邪魔ーー」
「やめろ!このバカ!」とワトソンはホームズの首を絞めた。
「なんで、君は、そんなーー!」とワトソンは窓の方をみた。
ぼんやり光るランタンに照らされた丸顔の男が見下ろしていた。
この場にいた者たちは沈黙した。
丸顔の男は震えながら、ホームズとワトソンを見た。そして、吐き捨てるように呟いた。
「シャーロキアンだーーワトソンも連れてきたーーシャーロキアンめ!」
彼は窓から飛び出そうとしたが、女が必死になって止めた。
「落ち着いて、アーサー!」と彼の首に腕をまわす。
「待て!お前ら!警察だ!裁判だ!突き出してやる!」
さあ、ホームズとワトソンはもつれるようにして、門まで走った。
後ろから、丸顔の男がやってくるかもしれないーー!
命がけで、門の前で客を待ってた馬車に飛び込み、駅まで走らせた。
それから運が良かったのか、それとも悪かったのか、動き始めた汽車に飛び込んだ。
汽車は汽笛を鳴らし、二人を乗せていく。遠く離れていく街を見ながら、ホームズはワトソンに言った。
「次は君一人で行きたまえよ!」
(こうして、第七幕は逃走で幕を閉じる。)




