第六幕:名探偵崩壊
やあ、君。自分の世の中が、めちゃくちゃになった時に、誰かに寄り添ってもらえることは幸せだ。
それが依存関係を生むとしてもーー幸せなんだーー。
第五幕では、交霊会で響いた声がホームズだった事で、彼を青ざめさせた。
「何か見落としがあるーー」とシャーロック・ホームズは呟いた。
ウィンドルシャム邸の庭は、だんだんと薄暗くなる。霧は晴れていき、代わりに闇のベールがボクらの目を覆っていく。
「屋敷の中にはいるーー確認しなきゃーー僕はーー」と彼は熱に浮かされたように窓のそばに近寄ろうとした。
ワトソンがホームズの肩を掴んで引き戻した。
「よせ、君らしくないーー!」と囁いた。部屋の中では、再び交霊会が始まっていたが、ホームズとワトソンの二人は焦っていた。
「ああ、そうだーー僕らしくない。君を一人で行かせれば良かったーー」
そういうと、彼はいきなり地面に伏した。
「窓の反響ーー?何か音を振動でーー伝わったのかーーそれとも、何か埋められていた?」
ワトソンは、ホームズの肩を揺さぶった。
「君は混乱してる。ボクもあれは、トリックだと思う。」
「ーー何かあるんだーーこの僕の頭脳の論理の網を潜り抜けた何かがーーきっとーー」
ーーそれからホームズは沈黙した。
考え込むようにして、近くの茂みに引きこもった。
こうなったら、もうテコでも動かない。何日だって考え込むんだ。
ワトソンは完全に孤独になった。
時間だけが過ぎつつあった。
その時、正面玄関が開かれた。
屋敷の中から、男が一人、早足で去っていった。
門の扉が開かれた。
「おい、馬車を呼んでくれ!
なに?ここにーー泊まれだと?
断る!
ここは呪われている!
二度とくるものか!」と怒鳴り声がした。
他の人も屋敷から出てきたーー。
ワトソンは、座り込んで考え続けている肉の塊を少しずらして、草むらの中に隠れて様子をみた。
彼らは一刻も早く出ていきたいようだったーー。
窓が急に開かれた。
丸顔の男が叫ぶ声がした。
「おい、これは新しい科学なんだ!!常識が変わるーー戻ってこい!
来るんだーー!
くそ、ヤツのせいだーーあのヤロウーーぶち壊しやがった!」
窓が勢いよく閉じた。
振動で壁が揺れた。
「ーーホームズ!ああ、どうすればいいんだーー」
可哀想なワトソン。置物となった相棒の隣りで隠れなきゃならない。
しばらくすると、再び窓が開かれた。
ワトソンは息を潜めて上を眺めた。
ベールを被った女性が遠くを眺めていた。部屋も庭も薄暗くて、不気味な感じがした。
「可哀想なアーサー。ーー慰めてあげたかっただけなのに、なぜ、こうなるのーー。善意は悪意にとられ、悪意は常識を歌うーー。」
ワトソンは、その女性のことを知らないけど、そばによって抱きしめたくなった。きっとそれだけじゃーーおさまらないだろうけど。
女は泣き出してしまった。
その様子を見て、よせば良いのにワトソンが声をかけた。
「泣くのはおよし、夢みる女。
涙はお前を曇らせるーー」
ワトソンは、自分の口から詩が出てくるとは思わなかった。
「そこにいるのは誰?」と女が顔を向けた。
(こうして、第六幕は女の涙で幕を閉じる。)




